聖剣の勇者6
エリオットがジリジリと従姉妹へ近寄っていくその様はまるで獲物を逃がすまいとする狩人のようであった。
「好きだ!一目惚れだ!俺と付き合ってくれ」
「ど、どうすればいいんですの!?この方!私こんなにストレートに言われたの初めてですわ!」
きゃーっと効果音がつきそうなほど騒いでいる従姉妹のミアは赤くなった頰に両手を当てながらもじもじしていた。足はとうに地面につけ、エリオットの勢いに圧倒されながら後退りしていた。本来のお嬢様口調がもれてしまっている。キャラ付けが甘すぎてすぐ素が出たようである。
急展開がすぎるが、混乱に次ぐ混乱で大変な状況になっていた。ラルフは両手を上げ下げして、エリオットを止めるか止めないか決めかねているようであった。私も同じような状態だったので、とりあえずエリオットと付き合いの長いラルフに聞くことにした。
「あの、ラルフさん?聞きにくいのですけれど、エリオットさんは惚れやすいとかそういうのあります?」
「いや、あんな状態のエリオットは初めてで、俺も何がなんだか」
魅了の類か?と小さな声で呟いているのが聞こえたが、あいにくミアは魅了は使えなかったハズだ。アイツはその見た目と裏腹に自然系魔法がゴリゴリに得意なのだ。それ故生半可な男は寄り付かず、出奔に繋がったというのは余談である。と、すれば本当に一目惚れだということだ。
こちらがこそこそと話していると、いつの間にかさっきまでの騒がしさは消え、しかしミアとエリオットの声は洞窟内に響いていた。
「で、でも私、魔族で」
「そんなの関係ない!どうかお願いだこの気持ちを受け止めて欲しい」
顔が良い男からそんな事を言われ満更でもなさそうだ。
エリオットももうミアしか見えていない。ラルフと私は遠い目をして事の成り行きを見守るしかなかった。
数十分は経っただろうか。話がまとまり、イチャつき始めた二人だったが、思い出したようにミアが口を開いた。
「それで、我が従姉妹は何故こんな所に?」
「ばっ……!!」
おバカー!念話も何にも伝わって居なかったようである。エリオットはえ?とこちらを見やるし、ラルフは何故かニコニコしながら見つめてくるし、ノエルに至っては寝ている。ペシッとノエルのおでこをデコピンして起こした。
「ち、違うんです!」
もう、そう言うしか無かった。この馬鹿従姉妹は安易に私も魔族だとバラしたのだ。魔族は人類の敵だと、刷り込まれている人間、それもAランクの冒険者が二人も揃っているのだ。エリオットに至っては勇者になってしまったので補正がかかりSSランクの可能性だってある。惚れたフリをして隙を伺っているのかもしれない。人間は裏切る。下手をしたら殺される。そう思い逃げようとした所でラルフが私の手首を掴んだ。
「大丈夫だよ」
「え」
「魔族だからって嫌いになったりしないよ」
何処かで……いつか何処かで聞いた言葉にズキっと頭が痛くなり、視線が彷徨う。思考にモヤがかかったようになる。どうしてだろう。その言葉は──
「ルルカしっかりして〜」
「痛い!」
さっきのデコピンのお返しなのかいつの間にか頭の上に移動していたノエルにしっかり強めに眉間に嘴を叩き込まれた。
いけない、何故かボーっとしてしまった。ノエルとラルフがバチバチと睨み合っている気がする。ひぇっと心の声が漏れたのが聞こえたのか、ラルフは目線を合わせて微笑んだ。いや怖いが。
「ノエルも久しぶりですわね」
「あ〜別に会いたくなかったけど久しぶりだね」
「な、なんですって!!」
今度はミアとノエルが喧嘩をし始めた。ミアの周りをバサバサと飛び、おちょくっている。ノエルも小さい頃からミアとは多少面識はあったが、そこまで折り合いは良くなかったのを思い出した。カオスすぎる。その様子が仲が良さそうに見えたのか、エリオットはノエルをふくれっ面でみているし、ラルフは相変わらず微笑んでいる。たすけて何この状況。