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聖剣の勇者5



 カーテンのちょっとした隙間からの朝日で目を覚ました。カーテンを開け、陽の光を浴びる。ノエルのやーという寝ぼけた声が可愛い。


 身支度をし、朝食を食べ、肩にノエルを乗せて町へくりだす。今日は昨日行かなかった場所で、エリオットがいる場所といえば冒険者ギルドであろうとそちらへ足を向けた。


 冒険者ギルドは各地にあり、薬草採取から魔物退治、護衛など幅広い仕事を受けられる場所だ。


 ギィと、些か古めの扉を開けると、いかにもな格好をした男女が複数人いた。う、浮いてる。明らかに私の格好は浮いていたが、視線をあまり気にしないようにして、ササッと登録を済ませた。さぁ情報収集だという所で後ろから声をかけられた。


「あれ、ルルカさんだ」

「あ、昨日ぶりですねお二人共」


 ラルフから声をかけられ、その後ろにエリオットが居るのを確認する。ザワザワとした中でもハッキリと聞こえた声に少し安堵した。ちょうど良くターゲットの方から来てくれたのをラッキーと思いながら挨拶を交わす。エリオットの方は眠そうにしていて、右手を軽く上げて挨拶をされた。朝が弱いようだ。といっても、早朝というわけでもないのだが。


「あーエリオットは気にしないで。朝はいつもこんな感じだから。ルルカさん、もしかしてギルド登録したの?」

「ええ、持っていると身分証明代わりになりますし」

「最初の検査の後は、定期的に簡単なのでいいから依頼をこなせばずっと身分証明に使えるもんね」

「ええ。諸事情で一人旅ですし、持っているに越したことはないかなと」


 正直ギルドの身分証明の水晶ではバレるかと思ったが、そこまで高性能な水晶ではなかったようで、上手くいって良かったと先程安堵したのは内緒である。そもそも、大抵の魔族はわざわざギルド登録なんてしないで町に出入りするが、ちょっと前世からの憧れもあり危険を犯してしまった。あるよね?ギルド登録とかしてみたい気持ちあるよね?Fランクから成り上がってSランク超つよい!みたいなの。目立つのでやらないが。


 薬草採取程度なら安全が確約されている範囲から採取できるし、旅人が持っていてもおかしくは無い。依頼の中にはギルド内での雑務なんてものもある。


「あれ、その肩の鳥って、昨日は連れて無かったよね?」

「ペットのノエルです。この子が危険察知能力が高くて、この町へ来る道中も安全だったのですよ」


 普通に嘘である。賢いんだねなんて言われて胸を張るノエル。おいやめろ言葉が通じてるってバレるだろ。


「仲良いのは変わってないんだね」


「え?」

「あ、そろそろ行かなきゃ。また名指しで緊急依頼が入ったんだ」


 ラルフがが何かを言った気がしたが、喧騒にかき消されてよく聞こえなかった。右耳の方でノエルが嘴で髪の毛をついばんでいるせいでもあるが。かゆいからやめて欲しい。ラルフとエリオットは受け付けへ何かを見せると、またね、とこちらへ手を振り去っていった。


「ラルフとエリオット、またゴブリン退治か。」

「ゴブリンつっても、巣になってるって話だよな?」

「ああ。数匹程度じゃなく、どうも統率してるホブゴブリンかゴブリンキングがいるんじゃねーかって話だ」

「俺ぁホブゴブリンでもキツイのに、ゴブリンキングなんてミンチにされちまうよ」

「さすがAランク冒険者だよなぁ。二人でそんな奴ら倒せるんだから」


「エリオット様素敵……」

「ラルフくんもかっこいいよね」


 比較的近くに居た男達の声と、女性冒険者グループの声が耳に入る。二人はどうやらAランク冒険者で、後ついでに女性人気もあるようだ。


 またもやコイツ誰?と視線がグサグサと刺さっているのを感じる。昨日の今日で勘弁して欲しいと思いながらそそくさとギルドを出た。


 町から出た二人をコッソリ追いかける。行先はどうやら町からほど近い森の中のようなので木々に身を隠しながら離れてついていく。道中、大きい蜘蛛が目の前に現れた時は大声を上げそうになったが何とか耐えた。ぞわぞわとして、鳥肌がたつ。魔物の蜘蛛よりは小さいがそれでも怖いものは怖い。ノエルはでかーと楽しそうだ。鳥系の魔族だからか虫は平気なノエルが少し羨ましく思う。虫は苦手だ。特にあの黒光りしたカサカサ動くやつ。


 やがて二人は洞窟にたどり着いた。気配を消しながら二人から一定の距離を離れつつ、ついていく。奥に進むに連れ段々と鼻にツンとつくすえた匂いがした。僅かだが、歩きやすいように洞窟が舗装されているようだ。入口はデコボコしていた事から、外敵対策であろう。ゴブリンの巣が近い。


 ゴブリンは我々魔族とは違い、知能は低く、見境なく人や魔族を襲う厄介な魔物だ。少しでも知能があれば魔族の命令を聞く魔物も存在するが、ゴブリンはそれに当てはまらない。



「聞いてた通り、普通の巣よりゴブリンが多いし、見てアレ」

「ああ、ギルマスが俺たちに早めに処理してくれっつーのも納得だわな」



 ゴブリン達の奥には巨体を持ったゴブリンキングの姿があった。二人は早々に話を切り上げると、あっという間にゴブリン達を一掃した。エリオットは剣で、ラルフは魔法で。仲間達が殺された事に怒ったゴブリンキングが岩でできた椅子から立ち上がり、怒りをあらわにして襲ってきた。そんなゴブリンキングさえも、二人は見事な連携で倒す。ゴブリンキングは聞くに堪えない咆哮をあげながら散っていった。


「案外呆気なかったな」

「ああ。……ん?」


 洞窟の奥から光が見える。そしてなぜだか知ってるような気配も感じた。奥に誰か居る。私は光の方へ歩みを進める2人の跡をそっと追ったのだった。



 気配に反して人はおらず、洞窟の奥には1本の剣が鎮座していた。台座に刺さった状態である。上から光が差しているが、穴が空いており蔦も見える事から森の何処かへ繋がっているようだ。光のせいでもあるが、キラキラと輝き威厳を放っているように見え、その景色だけで一つの絵画のようだった。神聖な気配を強く感じる。魔族の私とは正反対の力だ。ラルフ達が剣に近づくと、剣にとまっていた小さな鳥たちが上の穴の方へ小さな羽音をたてながら逃げて行った。



「これは……」

「まて、何か書いてある。読んでみよう」



 これあれだ!よくあるやつ!ある日普通に過ごしていた人が誰も抜けない剣を抜いて、勇者になるやつだ。見たことある。実際、台座には真の勇者のみがー……なんてもっともらしい事が書いてある。つまりは、これを阻止するイコール勇者倒したになるのでは?しかしあのくらいの歳の頃はあんなワクワクするものがあったらとりあえず抜いてみようとするはずだ。私だったら絶対する。


「勇者ぁ?」

「なんか最近増えてるらしいよ。ジョブみたいな感じになってる。増えてる、といっても昔に比べてだけれども。そうそうなれる人はいないんだ。そのかわり絶大な力を手に入れられる」

「おー!面白そう。チャレンジしてみるか?」

「危なくないか?ルルカさんもそう思うだろ?」


 ほらな!とうんうん頷いていると、いきなりの名指しに方が思いっきりはねてしまった。足元もジャリ……と音を立ててしまったので隠れていた場所からひょこっと、顔を出す。二人の視線がこちらへ向かい、なんともいえないソワソワした気分になった。


「い、いつから」

「最初から。これでも冒険者やってるから、気配を隠す事なく着いて来てたし」

「うお、まじか全然気が付かなかった!」

「君はそういうの向いてないしね」


 おかしい。私は気配をちゃんと消していたはずだ。しかしラルフは気がついたというのが現実だ。もしかすると私より……?でもラルフから感じられる魔力量は前に感じた通りの量だ。多いが私よりは弱い。弱い(・・)?本当にそうなのだろうか。頬を冷や汗が流れた。強者が弱者に強さを悟らせないというのはままある話である。


 攻撃は得意な方ではない。このまま攻撃されたら、計画が全て無に帰す。しかし、エリオットが勇者になりそうな場面で逃げ出すなど、ここ数日の潜入が台無しである。


「それより、どうしてここに?ここは危ないよ。ゴブリンは掃討したけど、魔物が巣食っていた所にはかわりはない。他の魔物だって今はゴブリン退治の気配を感じ取って、こちらへは来ようとはしていないけれど」

「あの、えっと、そう、不思議な気配がして!気になって来たらたまたまお二人の後を追うような形になってしまって……」


 なんだ不思議な気配って!不思議ちゃんすぎるだろう!などと思いながら、しどろもどろながらどうにか答えた。どうやら敵意は無いようだ。純粋に心配しているようである。内心ホッとしながら、ニコッと微笑んで更にどう誤魔化そうかと思案していると。


「あ」


 すぽっとそんな音と共に、エリオットの間抜けな声が洞窟内に響いたのであった。


「ぬ、抜けたんだが」


 嘘でしょ!と思いすばやく鑑定を発動させる。【名前:エリオット 職業:聖剣の勇者】になっていた。やってしまった。ラルフに気を取られすぎてエリオットの行動に注視していなかった!また一人勇者が誕生してしまったのである。しかも目の前で。


ラルフもあ然としている。その時、手に聖剣を持ちながらやってしまったという顔のエリオットの後ろから黒いもやが噴き出した。


「ふははは!ありがとう間抜けな人間!忌々しい聖剣から開放してくれて!」


 もやは、やがて一人の魔族の女の形になる。黒のボンテージファッション、長い黒髪でいかにもな感じである。


 女は高笑いしながら空中に浮かんでいた。目が合う。


 私は必死に口元に人差し指を当ててナイショというジェスチャーをしたり、目の前に腕をクロスさせてバツを作り、念話でも余計な事を言うな、話を合わせろと伝える。


 そう、まごうことなき私の従姉妹のミアである。人間の男と結婚すると言って魔王城を飛び出し、ここ10年ほど行方不明だった従姉妹だ。


 正直気まず過ぎるが、ふいっとこちらから目線が逸れてエリオットへ向いたのでなんとか意図を汲んでくれたようである。あまりごちゃごちゃ念話で伝えてもエリオット達とも対面しているのでボロがでそうなので、簡潔に伝えたのが良かったようだ。


「私はこの洞窟に封印されし者。屈辱の10年だった……お前達は解き放ってはならぬものをこの世に出現させてしまったことを悔いながら……」

「び、美人だ。こんな美しい人、見たことが無い」

「は?」


 なんだ解き放ってはならぬものって!10年って魔王城飛び出してからすぐじゃないか!ミアが話を盛りすぎていて、肌が痒くなってきたところで、エリオットが思わずといった風にこぼした。ラルフも何言ってるんだという目でエリオットを凝視している。


 じわじわと顔を赤くしていった従姉妹と目が合ったが、そっと目をそらした。









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