聖剣の勇者2
軍資金を元に適当な宿屋に入ったわけだが(門の所で貰った通行証を見せると正式滞在者だと認められたという証なのでそれを見せた。それと前払いのお金)とりあえずの今後の目標をノエルと話し合う。といってもこの街に勇者がいるのはほぼ確定である。一応、最上位魔族ではあるので探知の術くらいは簡単に使えるのだ。他にも鑑定スキルももっている。
攻撃系も使えなくはないが、こういう細々とした方が得意だ。器用貧乏等とは今、目の前でクチバシで羽の手入れをしている幼馴染の言だ。ほっといて欲しい。その探知の術のなかで明らかに他の人間とは魔力量が違う人間がいた。
この世界には魔法と、個人が産まれながらに授かるスキルというものがある。魔法の方は大抵の人が思い浮かぶ火や水、氷などの物で、スキルはノエルの異空間転移や、私の探知の術等多岐に渡る。私のようにスキルを複数持つ者もいれば、生涯一つしか持たない者もいる。
スキルは当たり外れの多い物、という人もいるが、使いようだと思う。過去に聞いたのは、なんの植物でも芽吹かせる事ができるスキルの持ち主が、誰も芽吹かせる事のできない貴重な薬草を……何て事もある。
魔法の方は単純だ。魔力があり、才能があれば使える人もいるという認識だ。過去に魔法の使い方を広めた勇者がいたとかいないとか。お伽噺で聞いたことがあるので、昔そういった人物のお陰で広まったのかも知れない。
「それでー?今日はどうするの?」
「決まってるじゃない!さっそく敵情視察よ!じゃなきゃさっさと家に帰れないじゃない」
このまま何もしないで誰も勇者を倒せませんでした。なんてお母様に言ってみろ。私の身に起こるのは破滅の未来しかない。
幸い探知の術が示しているのはここからそう遠くない場所だ。観察、又は接触しないことにははじまらない。
「ルルカは真面目だねー。じゃあボクはお留守番でいい?ちょっとねむくてー」
「あんたって子はホントにもう……まぁ色々持ってきてくれたしね。いいわ、今日は休んでなさい」
やったね!と言いながらノエルはベッドの枕元でぽすぽすふみふみと足を押し付けて居場所を作り、目を閉じてしまった。その頭をこしょこしょと撫でてから宿の部屋を後にした。後ろからなんかあったら呼んでね~と間延びした声が聞こえる。だったら最初からついてくればいいでしょと苦笑がこぼれた。
さて、外に出てターゲットの方にとりあえず歩みを進めつつ考えるのは接触の仕方だ。わざと肩にぶつかるか?いや、得てして勇者というものは運動神経が良いものだ。すっと避けられてスルーなんて光景が目に浮かんだ。魔王城に来ていた勇者の身のこなしは凄かった。何回も勇者VS魔王の戦いに巻き込まれた私はわかる。空中で1回転すんな!そんな身の躱し方があるか!とは何度も心のなかで思ったものだ。
「えっ?」
物思いにふけり過ぎ、気がつくと柄の悪い男達に両脇を固められていた。ふ、不覚!両脇通り過ぎたなーくらいに思っていたら両腕掴まれてたとか、どんだけ鈍いんだ私!と思うが時すでに遅し。
振り払って逃げてもいいがまだ勇者に接触もしておらず、なるべく目立たないようにしたかったので、こんな真っ昼間の通りで騒ぎを起こせるわけもなく、力なく路地裏に連れ込まれていた。
「ずいぶん大人しくついて来たじゃねぇか」
「……」
「金持ってんだろ?出せば乱暴はしねぇよ」
そんな典型的なチンピラ台詞を聞きながら、壁を背にして二人に囲まれる。私より身体が大きいので威圧感がある。片方の手には小型のナイフが握られていて、わざとらしくチラチラとナイフを主張されていた。
こいつらどうしてやろうかと思案していると。
「まて!こんな路地裏で女の子に何をしている!」
これまた典型的な台詞が聞こえてきた。きっとこれ勇者でしょ!ラッキーとも一瞬思ったが、探知にひっかかった魔力量の人ではなかった。そんな甘い話では無かったのにがっかりしつつ、状況に身を委ねる。
「んだぁ?正義の味方気取りか?おめーには関係ねぇだろ。さっさと消えな」
こんな昔の少女漫画みたいな展開あるんだなーと思っていたら、突然閃光弾のような光が見えた。私の方にはあまり影響が無いことから、チンピラ2人に直接閃光魔法でも放ったのだろう。ぐいっと腕を引かれその場を離れる。
暫く走り、息をつきながら青年は言った。
「ここまでくればもう大丈夫だろう。上手くいって良かったよ。怪我とかしてないよね?」
「はい、ないです。ありがとうございます」
路地裏から離れ人通りの多い所へと着き、漸く足を止めた青年がこちらを振り向きながら言う。引っ張られていた腕も離された。掴まれていた腕を軽くさすりながら青年の顔を見る。
青年の紅色の髪はキラキラと陽の光を浴びて輝いている。青年の顔もまた、整っているので輝いて見える。タレ目がまたチャームポイントで、心配そうにこちらを見ていた。これがホントの町娘とかならドキッとしてラブコメ展開だがそうはならないのが悲しいところだ。
「良かった。俺、魔法は使えるんだけど、加減とかまだまだでさ。人相手は難しいし。簡単な閃光魔法くらいなら加減しながら使えるから。なんとかなって良かったよ」
はにかむ笑顔が眩しい。いくら悪人といえど、
丸焦げは俺の方がしょっぴかれる等と言う物騒な言葉は聞かなかった事にした。
なるほど、たしかに勇者程ではないが中々の魔力量だ。技術をみがけば勇者パーティーによくいる魔術師になれそうではある。
「俺、ラルフっていうんだ。君は?」
「ルルカといいます」
差し出された手をそっと握り返した。軽く上下に振ったあと離れた手を、なんだかソワソワした気持ちで胸元に組んだ。さ、さわやか過ぎる……光属性な笑顔が眩しい。目が焼かれそうで思わず視線を逸らした。
どうするかなこれ。