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聖剣の勇者1



「いてて……くっっそあいつら絶対次会ったら殴る許さん」


 そう言いながら私は身体を起こした。尻の下には植物があるようだった。草花がすり潰された時の独特な匂いが微かにする。


手を思わずぎゅっと握りしめると草と、土の感触。そして辺りには木が生い茂っている。森の中のようだ。鬱蒼とした森の中には僅かな動物の気配。人の気配は近くにはない。


 この世界は大まかに五つの大陸から成っている。北のノースフリア、東のアメリア、南のオースメディ、西のユーグレア、そして真ん中に位置するフリュイ。


 私はフリュイから飛ばされて来た。全ての大陸は地続きになっているが、様々な領土争いの中で、五つに分かれ形成されていた。


 唯一良かったのは年中雪に覆われているノースフリアでは無かった事である。こんな軽装で行ったら凍えてしまう。寒いのは苦手だ。しかし急に理不尽に飛ばされた事にはかわりは無く、一先ず尻についた草を払い立ち上がる。



「どこよここー……お母様は勇者を減らす、とか言ってたけど」


 そう!それだ!勇者を減らすとはどういう事かを改めて考えてみる。


 昨今、勇者は増えている(・・・・・)のだ。理由は定かではなく、魔王軍が強力になったからだとか、女神様の思し召しだとか、はたまた世界が終わりに近いだとか。そんな憶測が飛び交っているのが世論だ。そして勇者が増えている事に一番損をしているのは、言わずもがなだろう。


 と、いうか愚痴らせて欲しい。ほんとーーに魔王城に突っ込んでくる勇者の多いこと多いこと!!

そんな勇者飽和状態とか見たことないよ!前世の漫画とかでも!そもそも前世の記憶の一番最後なんて、同じクラスの夏目くんの足元に召喚陣が光と共に浮かんでた場面だよ!おかしいね。完全巻き込まれですありがとうございます。

 

 転生、なんて物をまさか自分が体験するなんて思うはずもなく、気がついたらこの世界で産まれていたのだ。正直あの時死んだのかもわからなかったが、周りで喋っていた友達ごと夏目くんの足元の魔方陣にナニカを吸い取られる感覚、身体の脱力感、ブラックアウト。まぁ、便宜上転生としておく。だって産まれ直した感じだったんだもの。


 勇者の中でも、召喚勇者は数が少ないらしく、前世クラスメイトの夏目くんは今世では見ていない。周りにいた他の友達も然りだ。


 私がおぎゃあっと産まれた時代からしか直接はしらないが、過去の文献、母親からの証言から似た特徴の勇者は現れていないという。友達の方は正直私のように全然違う種族に産まれている可能性等もあるため、夏目くんを優先したのは余談だ。もしかしたらその周りに召喚されているかも知れないと思ったのもある。


 話がずれまくってしまった。考えがまとまらないが、とりあえず近隣の村や町を探して、人の営みに潜り込む事が最優先だ。幸いにも私の髪は魔族に多い黒ではなく、人間にも多い金であるので変に変装などはしなくても良さそうだ。耳もちょーっと尖ってるくらいだしね!


「問題は服かぁ」


 今の格好は、真っ黒のワンピースで、胸元から袖にかけてレース状になっているものだ。裾は膝丈まである。足元は高めのヒールで、地面の草や土に足を取られそうだ。


 ヒールなんておそらくこんな森の中ではいているやつなんているはずがないし、黒いワンピースなんて更に怪しい。


「どうしよっかなー。はぁ。お母様ってばほんと急なんだから!もうちょい時間があれば色々さぁ」


 鬼の居ぬ間になんとやら。好き放題ぶつぶつと言うが誰も言葉を拾ってくれるはずも___


「ルルカはホントに仕方ないなぁ。こんなんどう?」


 言葉と共にバサバサと地味だが生地がそこそこ良いワンピースとローヒールの靴が上から目の前に降ってきた。白のブラウスと、紺色のフワッとした裾のワンピースだ。町娘か、はたまた商人の娘、というような服装だ。ん?靴が片方しか……


「痛ぁ!!!!」


 こんなんばっかりだ!ちくしょう!靴がぶつかった頭をおさえながら声のした方を恨みがましく見る。そこには見慣れたシルエット。


「ノエル~貴方ってばほんとに!もうちょっと気を遣いなさいよね!」

「ごめーん。これでも慎重に異空間からぽいっとだしたんだけどねぇ」


 間延びした声の主は幼なじみ兼使い魔のノエル。(使い魔と言ってもそこまで重い感じでもなく、困ったときに呼べば助けてくれる程度の契約だ)


 鳥系の魔族で知能の高い種なので話せる。黒い身体が主な種族だが、ノエルは突然変異で身体がほとんど真っ白だ。唯一胸の一箇所だけが種族特有の色である。今はまるっこい身体で10センチほどであえて小さくなっているが、本当は人を載せられる程には大きい。本人はちっこいほうが可愛いよねぇとの事だが。


「まぁ、貴方が来てくれたのは心強いわ」

「でしょでしょ?この身体ならペットでも誤魔化せるよぉって魔王さまにお願いしたんだぁ」

「ナイス!服もありがとね!」


 どういたしましてぇと言いながらパタパタと頭にとまり、ふぃ~とジジくさい声をだした。可愛いがちょっと爪が痛い。許容範囲ではあるので許すが。


 突然飛ばされたので呼び忘れていたが、自ら許可を取って来てくれたのは本当にありがたかった。ノエルの得意な魔法は転移系の魔法だ。細々とした物を移動するのが得意なのである。


「この服を着て、とりあえず村か町か、行ってみようとおもうのだけれど」

「んーそうだねぇ。宿でも取って作戦会議とかがいいんじゃない?人間のお金も持ってきたよぉ」


 できる幼なじみで嬉しい。人の気配が密集している方向がある程度わかるのでそちらの方へ向かうことにした。



───────────────



「ついたぁ」



 歩きがてら、流石にしゃべる鳥は目立つというのでノエルは返してくれないが。つい口を開いてため息混じりに言う。


 なるべく怪しくないように、森を抜けた辺りから歩くようにしたので、内勤が主な私は疲れていた。

 『ヴェルナスの町へようこそ』

そんな看板がついた門を通り抜けようとする。


「ギルド所属であれば、ギルドカードを。その他はこれに手をかざして下さい」


 無愛想な男はそう言うと自身の目の前にある水晶をやる気のない仕草で指さした。一般的に使われている身分証明のための水晶である。犯罪歴や種族が簡単だがわかる代物だ。


「こんにちは。旅行者ですので、水晶を使います」


 旅行者、と言う割に荷物が少ないのを見て怪訝な顔をされたが、あまり面倒にもしたくないといった風だ。気にせず水晶へ片手をかざす。すると水晶が一瞬だが淡く光った。表示されていたのは犯罪歴:■■■ 種族■■ 動揺し、目があった男の瞳をじっと見つめる。段々とそれはとろんとして、一瞬パチッと大きく瞬きをすると元に戻った。


「……ああ、失礼しました。問題ありませんね。旅行者でしたら銀貨3枚です。」


 そう言うと門番は私から銀貨を受け取り、通行証(シルバータグ)を手渡した。お礼を言い、門から離れる。


 催眠と記憶の置換。本来なら私はこの町へは到底入れない種族だ。実際こうして誤魔化して入ってしまう魔族はいるというのを聞いていたので焦らずに催眠をかけられた。耐性がある人間なんて一握りだと知っているからこその力技であった。門番の手元にはペンと紙。水晶へと記録される物でもなく、手書きなのは明らかだった。一度門を通過して記録されれば、通行証(シルバータグ)が発行され、この町に滞在している期間だけの身分保障ができ、町への出入りは今よりもっと簡単になる。


 バレる可能性は限りなく低いが、バレたとしても誤魔化せる自身はある。


 街の人の流れに沿って歩く。こういう事は堂々としていた方が意外と上手くいく。あからさまにフードを被ったり、仮面を被ったりと怪しい格好をしたりする必要など無いのだ。


 さて、まずは宿屋だ。疲れたのでひとまず休みつつ作戦会議だ!



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