聖剣の勇者10
ミアの気配を追ってついた場所で三人を待つ。数分後には合流できるはずだ。──レイラが働いているパン屋。その外観が見える路地に私は身を隠していた。かなり近い位置だが、恐らく相手方も取り込み中なのかこちらに気付いた様子は無い。ちらりと覗いてみるが、もう夜中という事もあり、店の中は当然の事ながら明かりはついていなかった。
歓楽街とは離れているせいか、辺りは人も歩いておらず、道に等間隔で設置されている魔術灯もぼんやりとした光を放ち、静かな空気も相まって不気味さを醸し出してる。
その時、耳元でキィンと小さな音がしたと同時に、魔法陣からノエルが出てきた。私とはパスが繋がっているから、帰りは飛ばずに帰ってきたようだった。肩の上に、軽いが確かな重さがかかる。
「ただいまー呼んできたよー」
「おかえりなさい。ありがとうね。助かったわ」
「夜中なのに動き回ったらお腹空いちゃった」
「今はそんな場合じゃないでしょ。我慢なさい」
ノエルに構いつつ中に入る算段をした。ノエルの物言いはわざとなのだろう。正直緊張もしていたみたいで、少しホッとした。待つこと数分、駆けてくる足音が複数聞こえた。ラルフ達だ。無事に合流できたようだ。
「み、ミアは!」
「あそこです。あの場所は、貴方もよく知っているでしょう」
「そんな……まさか」
私がスッと指を差した方向を見るエリオットの目が驚愕に見開かれた。それもそのはず、見知った店、それもエリオットの幼馴染が働いている店なのだから。
「あの店の下──つまり地下にミアの反応があるわ」
「地下?あそこは何回か店に入ったことはあるが、そんなもの無かったハズだが」
「俺は入ったことないからわからないや。あそこはギルドの近くだから外観は良く目にするけど……客層も見た感じ普通だし」
エリオットとラルフはそう言ったが、答えは簡単だった。強力な術が施されている。私もミアの反応が地下を指し示していなければ地下だとは思わなかっただろう。
以前パン屋に入った時に感じた嫌な感じはそれだったようだ。てっきりレイラや、レイラが排除してきた女達の恨み辛みだと思っていたが、それだけではなさそうだ。
あのまま放置すればいずれああいうものが好きな幽霊系の魔物が寄って来そうであったが、関わりたくなさすぎて見て見ぬふりをしたのだが。
「かなり強力な隠蔽の術……それと、とてもお金のかかる道具も使っているみたい。国で使っていてもおかしくないレベルだわ」
「あの店はレイラの親が経営している。確かにレイラは裕福な家庭だが、国家レベルの物を使えるくらいだなんて、そこまでじゃあ」
「私の探知の術でわかった事だけれど、地下にはミア以外にレイラと、ミアを攫った男。そして他に複数の人がいるわ。隠蔽されているせいか、ミアを中心にしてなんとか探れる程度だけれど。レイラさんが何処から資金を稼いでいるのか。恐らく地下へ突入すればハッキリすると思う」
全員で目を合わせて頷き、店への侵入を試みたのだった。
幸いにも従業員入口があり、そこのドアを破壊する事で中に入れた。|(エリオットが止めるまもなく破壊したのたが)中は当然暗い。
「私は場所がわかるから、先導するわ」
「よろしく頼む」
「──ここね」
程なくして地下を見つけた。キッチンの床下倉庫を装った入口だった。術は私がなんとか解ける。問題は魔道具だったが、キッチンに飾られているいかにもな金の装飾が施されている壺があった。
鍵が掛けられているケースに入った、一見成り金趣味で置いているかのようなそれはその実、特定の者以外が地下への入口を開けられないようにする魔道具だった。似たような物を見たことがあるが、それよりだいぶ悪趣味な装飾だ。
これをどうするか、と思案していたその時。
──見えたのは煌めく一閃
エリオットの放った一閃は、瞬きの間に見事に壺だけ斜めに真っ二つに切った。微かにズズっと壺の上半分がズレ、ソレは効力を失ったのであった。
「よし、これでいけるな!」
「勇者こわい」
「聖剣って便利なんだね」
「スパッて切れたねー」
そういう問題では無いと思うが、今は置いておくしかない。何故ケースが切れてないのかとか色々気にはなった……。私が術の方を解いたが、もしかしたら聖剣でぶった切った方が早かったのでは?と思わないでもなかったが!
「術も解けたし、地下へ入ろう」
「えぇ。……恐らく相手は、もうこちらへは気付いているはず」
「慎重に行かないと、だな」
地下への入口は、階段が下へ下へと続いている。店内が暗いのもあるが、さらに暗闇が大きく口を開け、こちらを誘っているかのようだった。