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第9話 これがモブ・オブ・モブs故の低成長率なのね

「一年E組、F組は席順で四人ずつ班を組み、その後ダンジョンに入りなさい。ダンジョン内では一人ずつ交代でスライムを倒す事。守れなかった場合は懲罰の対象とします。加えて、フロアボスの間と二階層には決して足を踏み入れてはなりません。ではE組よりダンジョンエントリー開始してください」


 つまり、俺の班は運河 夜依(うんが よい)八月一日 紅(ほずみ こう)小鳥遊 白(たかなし ましろ)に俺を加えた四人となる。

 基本、


「さぁ、僕達の冒険の始まりだ!」


 八月一日が主人公らしいリーダーシップを発揮し、


「ちょっと、恥ずかしいから止めなさいよ」


 小鳥遊がメインヒロインらしく主人公《八月一日》の行き過ぎた行動を是正し、


「八月一日君と小鳥遊さんってただの幼馴染って感じじゃないよね?」


「友達以上恋人未満って感じだな」


 運河と俺が二人の後に続く感じで進んだ。

 暫く後、俺は有る事に気付く。


「それにしても、先行した班と全然出会わないな」


 逆に、ブルースライムとは一匹だけだが会敵した。

 そのスライムは運河が屠ったが、それは横に置いといて。

 余りにも他班と遭遇しなさ過ぎだ。

 人が立てる音すら聞こえないのだから。

 すると、


「今回の設定がランダムだからだよ。ランダムの場合、ダンジョンに入るタイミングが違うと全然違う場所に出るんだから、仕方が無いよ」


 と運河が言った。

 マジで?

 そう言えば、先日春夏冬先生が言ってた気もするな。

 俺は慌てて、


「そ、そうなんだけど、E組とF組合わせて二十班もあるんだから途中で出会うかと思ったんだ」


 取り繕った。


「それだけ広いんだよ」


「みたいだな」


 直後、


「一番君、ダンジョンの広さを確認したかったらアプリで確認したら良いわよ。学園ダンジョンの地図も中に入っているわ」


 小鳥遊が会話に加わった。


「アプリ?」


 と俺が尋ねた。


「ほら、クラスチャットの」


「え!? あれでダンジョンの地図も分かるのか!?」


「現在地だけでなくボス部屋や二階層に降りる階段までのルートもそれで分かりますよ?」


 と言ったのは運河だ。

 その後、二人に使い方を教えて貰う。

 年下の女性にアプリの使い方を教わるなんて、現世に戻ったみたいだ。


「二匹目のブルースライム発見! 次はハジメ君の番だよ!」


 それは八月一日に呼ばれるまで続いた。


 結局この授業では一人当たり二匹ずつのブルースライムを狩れた。

 残念ながらレベルは上がらず。


氏 名:一番 一(いちばん はじめ)

種 族:人族

レベル:3

職 業:ノービス1

体 力: 32/ 32

魔 力: 32/ 32

強靭性:  7

耐久性:  7

敏捷性:  7

巧緻性:  7

知 性:  7

精神性:  7

経験値:  9

討伐数:  9

称 号:  -

DDR:  F

スキル:攻略データベース


 ちなみに運河はレベル三に上がった。

 八月一日と小鳥遊は共にレベルアップしなかった。


「八月一日と小鳥遊はレベル幾つなんだ?」


 と俺が尋ねると、八月一日は気軽に答えてくれる。


「僕のレベルは五だよ」


「私も同じ」


 小鳥遊も教えてくれた。


「聞いた俺が言うのも何だけど、そんなに簡単に教えて良いのか?」


 ほら良くあるじゃん、個人情報云々かんぬん。


「ステータスポイントじゃないから大丈夫だよ」


 ステータスポイントは駄目なのか。

 でも分かる気がする。

 強さが、弱点がステータスポイントが分かる事で類推できそう。


「紅、ステータスポイントも教えていいんじゃないかしら?」


 マジで?


「えー、あの人があまり知られるなって・・・」


 ですよねー。


「それは見ず知らずの人の場合だったでしょ。一番君と運河さんなら大丈夫よ」


 そんなに信頼されると逆にこっちが焦るわ。

 ほれ見ろ、運河もちょっと困り顔してるぞ。


「そっかー。なら言うけど、僕のトータルステータスポイントは二百二十。白は二百十三だったよね?」


 言っちゃったよ!?

 って、えぇ!?


「合ってるわ」


「「は!?」」


 俺と運河の声が重なった。

 そりゃそうだ。

 余りにも桁違いの数字なのだから。

 これが主要キャラとモブキャラの差か。

 ・・・差別化し過ぎだろ、制作陣。


「レ、レベル五のトータルステータスポイントが二百二十と二百十三って本当ですか!? 私、レベル三で五十なのに!?」


「マジで!?」


 運河の言葉に俺は再び驚きに塗れる。

 そして、心の叫びが大隆起する。

 俺氏、同じレベル三で四十二なんですけどぉおおおお!? と。

 同じモブキャラなのに・・・俺よりも運河の方が八も高い。

 悲しいけど、これがモブ・オブ・モブs故の低成長率なのね。


「これには理由があってさ。中学三年の夏に知り合いを誘って江の島に行ったんだけど・・・」


 それは聞くも涙、語るも涙の物語だった。

 ビーチバレーをして遊んでいた場所が突然崩落。

 原因はダンジョンの出現だった。

 一緒に遊んでた人の中に一人ダンジョンダイバーが居て、調査の為中に入る。

 その直後、入れ違いになるかの様にホブゴブリン出現。

 バレーネットをホブゴブリンの身体に巻き付け絡ませつつ、ポールで刺し殺した。

 軽くない怪我を負いながら。

 それから暫くした後、政府から派遣された職員が周囲を封鎖するも、問題が一つ残ったままだった。

 最初に入ったダンジョンダイバーが未帰還だったのだ。


「強くて、誰にも優しくて。いつも楽しませてくれる、僕達皆の憧れのひとだった。まだ死んだと決まった訳じゃないけど・・・」


「紅・・・」


 小鳥遊が俯きながら八月一日の肩を摩る。


「そうだったんだ、二人とも辛い思い出を語らせてごめん」


 俺は瞳を濡らす二人に頭を下げた。


「こっちこそごめん。それで何が言いたかったかと言うと、その時のホブゴブリンがレベル七の魔物モンスターだったから、レベル差の恩恵を大量に受けたみたいで。普通にレベルアップしたら百十三の筈だったんだ」


 レベル差の恩恵で百十三が二百二十。

 倍近い差があるな。

 でも・・・これだ。

 俺が狙うべきはこれなんだよ。

 寧ろ、低ステータスのモブだからこそ、率先してこれを狙うべきなんだ。


「ありがとう、八月一日。これで俺は生き延びられそうだよ」


 俺は目が潤んで来るのを自覚する。


「何を大げさな。でも、喜んでもらえたみたいで、話した甲斐が有ったよ」


 八月一日の笑顔が夏の日差しの様に眩しかった。

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