超人と金髪
雅狼は授業が終わると、いつも通りイーストタウンゲームランドで総長と太鼓の超人をプレイしていた。2戦目が終わり、周囲のざわめきからまた他の客の注目を集めていることに気が付いた雅狼は口角を持ち上げてバチを握り直した。
そして画面が切り替わる一瞬の黒い画面。その中に明るい金髪がひょっこりと覗いているのを見つけた。雅狼は眉を顰めると明るくなった画面の中でそこに目を凝らした。
「赤狼、どうした? 早く選べ」
総長はちらりと雅狼を見ると、次の曲を選ぶようにせっついた。雅狼はハッとしてすぐに選曲に移った。けれど視線は常に金髪を探していた。そのせいで曲頭の連打を慌てて打つことになってしまった。
「おっと」
「よそ見してると俺にすら負けるぞ」
「フッ、それくらいのことで俺が負けるとでも?」
雅狼は合間に総長を軽く睨むと、そこからの連打で魅せプレイを披露し巻き返す。総長もいつにない集中力で雅狼に食らいつく。終盤までどちらも1歩も引かない姿勢でフルコンボを目指して進む。
「珍しいな」
「この曲は特訓したからな」
「財布は大切にした方が良いぞ」
言い合いをしながらも確実にポイントを稼ぐ。1曲が終わりを迎えた時、総長は肩で息をしながらも自慢げに雅狼に振り向いた。
「初のフルコンボだ」
「ああ、流石だな」
雅狼は総長に拳を突き出す。総長がニッと笑ってそこに自らの拳をぶつけると、観衆から拍手が巻き起こった。
「次、良いぞ」
「ああ。次こそ勝ってやる」
総長は息巻くと、特訓で最高得点を叩き出すことに成功した得意の1曲を選曲した。雅狼もやり込み慣れた1曲だ。イントロから互いに良を連発していく。
難度こそそれほど高くない楽曲ではあるが、だからといって誰でも簡単に叩けるわけではない。観衆のボルテージも上がっていく。
そのまま確実なバチ捌きによって平然と最高得点を叩き出した雅狼に、観衆の拍手が巻き起こる。雅狼は満足げに笑ったが、隣でフルコンボ1歩手前でミス打ちをしてしまったことに悔し気な表情を浮かべる総長の背中を力強く叩いた。
「また腕を上げたな」
「ふん。フルコンボもできなかった俺に情けを掛けるか」
総長がギロリと鋭い視線を雅狼に向けると、周りの空気がキンッと冷えた。観衆は動きを止めたが、雅狼はニヤリと笑い返した。
「俺がそんな奴に見えるか?」
「そんな奴ではない、か」
総長は鋭い視線を緩めて肩の力を抜いた。太鼓の超人が初期画面に戻ると、雅狼の肩に腕を回してカートレースゲームの方に向かわせようとした。けれど雅狼はどこか別の方向を見ている。
「どうした?」
「いや、悪い虫がいた気がしたんだ」
「なんだそれ」
総長は軽く笑い飛ばそうとしたが、雅狼のあまりにも真剣な表情に口を噤んだ。
「今日はこの辺にしておくか?」
「いや、連絡を入れておけば良いだろう。ワンプレイしてから帰る」
「了解。じゃ、さっさと行こうぜ」
総長の配慮に甘えて雅狼はワンゲームだけカートレースゲームに挑んだ。気持ちが急いていたのが逆に良かったのか。雅狼は昨日までのプレイよりも格段にキレ良くハンドルを操作していく。
「全く、いつもこうなら良いと思うが」
「ははっ、程良い焦りは良いスパイスになるな」
「戯け」
2人のいつにないカーチェイス。やっぱり付いてきた観衆が沸くのをシート越しに感じつつ、雅狼は画面の端の黒い画面に反射する金髪を見つけた。サラリとゆれるそれはゲームセンターの煌めきの中に紛れていた。けれど雅狼は1度見つけた獲物を見逃すつもりはない。
「今日も総長の勝ちか」
「だが、いつになく良いレースだった。この調子で俺に追いつけると良いな」
「随分と上から目線だな」
ニヤリと笑う総長の胸に軽く拳をぶつけた雅狼は、同じように笑い返してリュックを背負った。そして手をヒラヒラと振りながらその場を去っていく。
「またな」
「ああ。また」
雅狼の視界の端で揺れる金髪。雅狼はイーストタウンゲームランドを出ると、いつもとは逆に歩き出した。その後ろを付いて歩く金髪。東町高校の赤いブレザーが騒がしい街中でもよく目立つ。
雅狼は不意に路地を曲がる。金髪がそれを追うように駆け足でその路地を覗く。その瞬間、金髪の目は雅狼の吸い込まれるような真っ黒な瞳と目が合った。
「よぉ、楠木。ストーカーとは良い趣味だな」
「す、ストーカーじゃないよ! ただ、その……」
赤井を着けていたことがバレた太陽は、しどろもどろになりながら言い訳を探す。雅狼は深くため息を吐くと、太陽の頭に手を置いてガシッと力強く掴んだ。
「い、いたっ」
「俺はてっきり、俺を着けることで真鳥の関係を調べようとしていたんだと思ったんだがな」
ギリギリと太陽の頭を締め上げながら雅狼が問うと、太陽の顔がサァッと青くなった。
「ご、ごめ……」
「え、雅狼くん!」
太陽が震えながら謝罪しようとした瞬間、珍しく焦った調子の静かな声が路地に響いた。
「真鳥。今日は早く帰るから迎えはいらないと言っただろ」
雅狼と太陽に駆け寄った真鳥は急いで雅狼の手を離させる。そしてそのまま雅狼を睨み上げた。
「そこのコンビニまでラムネを買いに来ただけ。それより何してるの?」
太陽を背に庇うように立つ真鳥に、雅狼は小さくため息を吐いた。