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料理上手と爆発犯


 雅狼と真鳥は帰宅すると、それぞれ雅狼は夕食の準備、真鳥は風呂掃除に向かった。


 真鳥がシャワーを流す音を聞きながら、雅狼はパン粉とスパイスを纏わせたアジをアルミホイルで包んで魚焼きグリルに入れた。火を付けたら焼き上がるまで他の作業に移る。


 まな板と包丁を用意するとアスパラガスとベーコンをカット。それが終わるとコンロにフライパンを置いてオリーブオイルを引いてすりおろしニンニクを少々落とす。ニンニクの香りが立ってきたところにベーコンを投入して、小気味良い油の音を立ながら炒め始めた。


 ベーコンがカリカリしてくると、そこにアスパラガスを投入してさらに炒める。鷹の爪の代わりに七味唐辛子を振りかけて、さらにしらすを投入。しらすも少しカリカリしてくるまで炒めたら塩コショウで味を調えて1品完成。


 アスパラガスが旬を迎える時期にはよく作るメニュー、アスパラガスのペペロンチーノだ。真鳥のお気に入りのメニューでもある。



「他は」



 雅狼は鍋に水をくべて、少し悩むと野菜室を漁って何種類か野菜を選ぶ。それらを全て切り刻むと、沸いたお湯に放り込んだ。そこにさらに刻んだソーセージとコンソメ、トマトケチャップを入れたら後は放置。



「よし」


「雅狼くん、お風呂沸かし始めたよ」


「ありがとな。こっちも1段落ついたから洗濯でもするか」


「私がやるよ。雅狼くんはまだ課題やってないでしょ?」



 真鳥のひと言に雅狼の表情がピシッと固まった。そしてギギギッとぎこちなく顔を背けるとそろそろとその場を離れようとした。その腕を真鳥がパシッと捕まえる。



「雅狼くん? まさか課題をやらないなんて言わないよね? というかいつもやっているなら逃げることもないよね?」



 真鳥からの鋭い視線を背中で感じた雅狼は振り向きざまに平伏した。



「申し訳ない」


「はい、やるよ」



 それから部屋から課題を持ってきた雅狼は真鳥の監視下で課題を進めた。真鳥は近くに座って洗濯物を畳んだ。



「真鳥」


「ん?」



 真鳥は雅狼に呼ばれれば勉強を教え、ある程度教えたら洗濯に戻る。それを繰り返した真鳥は、不意に庭が見える大きな窓の方に視線を向けた。



「つばめさんとおじいちゃん、帰ってきたよ」


「分かった。じゃあ課題は……」


「食後にね」


「うっ」



 雅狼は項垂れながらキッチンに向かう。真鳥がそれに付いていくと、雅狼はぐるっと振り返って手で制した。



「何してる?」


「何って、手伝おうと思って」


「それなら箸の配膳と米を盛ってくれ」


「また?」



 真鳥は不満げに眉を顰める。雅狼はその表情に一瞬たじろいだが、咳払いをしてグッと真鳥の顔を覗き込んだ。



「また、キッチンを爆発させる気か?」



 雅狼の人差し指が天井を指差す。そこには黒く焦げた跡が残されていた。



「いや、あれはまだ小学生のころの話だし……」


「それからも2回爆発させたよな?」



 雅狼の鋭い視線に真鳥はスッと視線を逸らした。真鳥は料理が壊滅的にできない。他の家事ならできるのかと言われれば、洗濯機は泡を吹き、掃除機は吸ってはいけないものを吸い込む。つまり家事全般まともにできない。唯一洗濯物を畳むことだけはできるだけ。


 とはいえ洗濯機が泡を吹いても、掃除機が吸ってはいけないものを吸い込んでも命に別状はない。ただし料理はいけない。レンジの中で食品が爆発し、フライパンの上で食材が破裂し燃える。完成した料理も炭と化す。冗談ではなく死と隣り合わせだ。



「温め直すくらいできるよ」


「真鳥のは燃やすって言うんだ」



 雅狼は真鳥の髪がぐしゃぐしゃになるほど撫で回すと、棚から取り出した4膳の箸を真鳥の手に持たせた。そしてその背中を押してキッチンから追い出す。


 真鳥は不貞腐れた顔をしたけれど、すぐに気持ちを切り替えて箸を配りに行った。キッチンで手伝いができるようになるのはまだ先の話で良い。真鳥はふぅっと長い息を吐いた。



「ただいま」


「ただいま。雅狼、真鳥、いる?」


「おかえりなさい、つばめさん、おじいちゃん」



 箸を配り終えた真鳥は玄関まで祖父母である赤井つばめと赤井松竹(しょうちく)を出迎えに行く。つばめは駆け寄った真鳥に1つのストラップを手渡した。赤い房つきのストラップを顔の前に持ってきた真鳥は首を傾げた。



「これは?」


「お客さんからのお土産。中国に行ってきたんだって」


「海外雑貨屋の店主に海外雑貨のお土産とは」


「あははっ、うちでも扱いがあるものだったから笑いそうにはなったわね」



 つばめはケラケラと笑いながらキッチンに向かう。松竹はその背中を見て眉を下げて笑った。そして真鳥にも視線を向けると、ストラップにちょんと触れるだけ触れてそのまま立ち去った。


 真鳥がリビングに戻るとつばめは雅狼のポケットに真鳥に渡したものと同じ形の白いストラップを押し込んでいた。



「ちょ、母さん」


「良いじゃない。真鳥とお揃いなんだから。あれね、イロチのおソロってやつね」


「なんだそれ。まあ、良いけど」



 雅狼はポケットから覗く白い房を見つめて柔らかく微笑んだ。真鳥もそれを見て手の中のストラップをそっと握り締めた。



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