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赤狼と総長


 雅狼は授業が終わると学校を飛び出した。そしてそのまま向かった先はイーストタウンゲームランド。県内屈指のゲームセンターである。



「おい、赤狼が来たぞ」


「総長を呼べ!」



 西町高校の青い学ランを着た生徒が雅狼の姿を見て走り出した。そしてすぐに、店の奥から西町高校の総長が現れた。大柄な肉体は筋肉隆々。バキバキと手の骨を鳴らしながら近づいて来る総長を前に、雅狼は余裕の表情を浮かべて堂々と立ち塞がる。



「来たか」


「ああ。やるぞ」


「ふっ、早速か」



 雅狼と総長は視線を絡ませるとニヤリと笑う。そして肩を並べて風を切って歩く。周囲にいた総長の子分たち4人はサッと2人に道を開ける。一般の客はそっと2人から距離を取って動向を見守る。店員も遠巻きに2人をチラチラと見るだけだ。



「さあ、勝負だ」



 2人は太鼓の超人の前に立つと雅狼の宣戦布告を皮切りにそれぞれ100円玉を投入した。そしてバチを手に取る。同時にドンッと太鼓が叩かれると開戦の火蓋が切られた。



「今日は総長からだ」


「ああ、感謝する」



 総長が曲を選択すると、お互いに最難関を選んで太鼓を叩く。曲が始まった瞬間に高速連打の音が周囲に響く。背後でその背中を見守っていた総長の子分たちが目を輝かせる。そしてそのリズミカルな音はゲーム好きな人々を誘う。


 フラフラと近寄ってきた人々は2人の不良にしか見えない風貌に遠巻きにしていたが、曲が進むにつれて1人、2人と総長の子分たちの後ろで熱狂し始めた。そして1曲目が終わる頃には店内の客の大半が2人の背後に集まっていた。



「チッ、負けたか」


「フッ、まだ勝負は終わらないだろ? ここで気を落してやる気を失われても困るんだが」


「ハッ、誰が気落ちするか。まだまだこれからだ」


「良いだろう。次は俺の番だ」



 今度は雅狼が曲を選択すると、お互いにまた最難関を選ぶ。人気の難曲に観衆が沸く。それに恍惚とした笑みを浮かべた雅狼は最初の悪魔の連打を片手だけで完璧に叩ききって魅せた。観衆の熱狂を糧に次の難関ポイントを両手のスナップを利用して叩ききる。


 観衆の目は一気に雅狼に惹きつけられる。総長は悔し気に顔を歪めた瞬間にタイミングがズレてミスを連発した。けれどそこから体勢を立て直す姿に観衆が沸くとニッと悪い顔で笑った。


 ここからはお互いの魅せプレイ合戦が始まった。2人が繰り広げる魅せプレイに観衆が沸き続ける。そして3試合目が終わって200円分のプレイが終了すると、2人はリュックを手にその場を立ち去った。


 観衆は残念そうにしながらも散っていく。かと思いきや、雅狼と総長が次にカートレースゲームに向かうとソロソロとそれに付いて行った。



「次はこれだな」


「ああ。今日こそ負けねぇ」



 2人はカートのシートに座るとそれぞれ100円を投入して対戦プレイを始めた。レースが始まると、2人は1位2位を争う熾烈なレースを繰り広げる。


 その姿にまた観衆が沸くと、テンションが上がった2人は飛ぶわ滑るわドリフトするわ。コースを外れてジャンプしてコースのショートカットすら繰り返す。CPUを引き離す圧倒的なプレイに観衆が沸く。


 そして2人のプレイが白熱する中、真鳥が入店した。真っ直ぐに観衆が集まる場所に向かった真鳥はピョンピョンと飛び跳ねて観衆の向こうを覗く。観衆は夢中になり過ぎて真鳥には気が付かない。



「あー、今日も負けた。完敗だな」


「ふっ、だが太鼓の超人ではお前の完勝だっただろ、赤狼」


「こっちもやり込んで勝ってやる」



 拳を突き合わせた雅狼と総長に観衆が沸く。すっかり青春漫画のワンシーンだ。真鳥は観衆をどうにか押し退けるようにしてそのコマの中に飛び込んだ。



「が、雅狼くん……」


「ん? 真鳥」



 雅狼は一瞬だけ目を見開いて驚く素振りを見せたが、すぐにいつものクールな表情に戻る。そして観衆をかき分けてヘロヘロになった真鳥の手を取って支えた。



「大丈夫か? どうした?」


「うん、大丈夫。約束の時間だから来たよ」


「そうか。もうそんな時間か。悪いが総長、またな」


「お、おう。えっと、そちらもまた」


「え、あ、はい。また」



 雅狼が真鳥の手を引いたまま立ち去る。その姿を見つめながら総長は顔を赤くした。子分たちも総長の周りに集まってその後ろ姿をボーッと見つめる。



「赤狼の恋人か……」


「顔も良くてゲームスキルも高くて、彼女もいるなんて……」


「ゲーム好きとして尊敬はしているけど、リア充は敵だ!」


「総長! 今度こそ赤狼に勝ちましょう!」



 やいのやいのと騒ぐ4人の子分たちを一瞥した総長はため息を零した。



「べつに良いだろ、恋人くらい。まあ今度こそ勝ちたいという気持ちはあるがな」


「総長……」


「そうっすね!」


「付いていきます!」


「流石総長! 男の中の男!」



 総長は苦笑いを浮かべたが、地震に抱き付いてくる子分たちの背中をトントンと叩いて宥めた。


 一方観衆の中で金髪が揺れた。2人の姿に、特に真鳥に視線を送るその人物。東町高校の赤いブレザーを纏った金髪の生徒の目が仄暗く光った。



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