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デニシュ、勇者になる

——————3日後


「勇者デニシュ! こっち向いてくれー!」

「あの子が竜を殺ったって子かい?」

「ママみてみて! デニシュだよ!」

「コラ! 指を刺しちゃだめ!」

「勇者デニシュ! ありがとう!」

「あの歳でドラゴン倒したのかよ!」


 崩壊した街並みとは打って変わり、デニシュが住む街の人々はお祝いムードだ。神輿の上に鎮座するデニシュは赤い宝石のついた冠と黄色いパールを拵えたマントを着ていた。3日前に起こったことと今の状況のギャップが彼を悩ますには容易かった。沸き立つ人々に手を振りながらお城へとデニシュは運ばれていく。


 神輿の隊列が作った民衆の割れ目はさながら洋服のチャックのようだった。ヴィオラは群れる民主の足元をそそくさと動き、神輿についていく。ドラゴンの息吹さながら赤ら顔のデニシュは城へと入っていく。


「お城だ…」


赤や銀に装飾された城内は湾曲した階段が壁に沿って伸びている。神輿が城内中央に到達すると野太い音を奏でた楽器でもてなされる。その後、この国の伝統舞踊ハカポカが行われる。薄着の男達が炎を飛ばし合い、黄金の衣服を見に纏った女達が炎をくぐる。デニシュは生まれて初めて近くで見た。興奮しているが上手く言葉で表せず、横を歩く兵士に話しかられたが体をもじって返答するのが精一杯。ハカポカが終わり、大階段から降りてきた市長のクーポは大きな声で市民に挨拶をしている。デニシュへの感謝や竜襲撃の犠牲者へ黙祷を終わらせた。

 

「この惨劇を、私たちの喜びで吹き飛ばしましょう」


 市民に向かって労いを語り終えると同時に盛大な音楽と共に城の扉は閉められた。

 デニシュは城内の奥へと案内される。


「時にデニシュ君、君のような能力ある者は人のためにその力を使う必要がある。つまり、何が言いたいかというと、君をファーストナイトにしようと考えている。

「え? ファーストナイトですか?」

「えぇ、君は来年からファーストナイトになってもらう」

 

 クーポはその言葉と共に牛皮で作られた紙を手渡してきた。


右の今般の栄誉ある行動を評価し、その能力、他の人のために使うこと、此れを推奨する。


市内推薦 ファーストナイト


市長 クーポ

                    」


 分厚い紙には達筆にそう書かれていた。

 生まれてこの方、表彰などされたことのないデニシュは驚きを隠せない。それに加えてファーストナイトなんて言葉は聞いたことがない。デニシュは何に推薦されたのかもわからない。


「急なことで訳がわからないと思うが申し訳ない。」

「あの、ファーストナイトってなんですか?」

「そうだね、メルケム! 説明してやってくれ」


 そう言うと後方のドアから紳士的な老人が顔を出した。


「ご紹介に預かりました、メルケムです。この城の執政官を担当しています」


 綺麗な角度でお辞儀を決めている。


「ファーストナイトとは、いわゆる勇者です。この世界には魔族が存在するのは知っていますよね?」

「えぇ」

「この魔族の王、魔王を滅ぼすために作られたものがファーストナイトなのです。魔王を倒すファーストナイト、それを排出した国には莫大な権力が与えられると、国同士での契約があります」

「ボクの他にもファーストナイトがいるってことですか?」

「その通りです。街の数だけファーストナイトがおります。しかし、具体的に誰がファーストナイトかは分かりません」

「なぜ?」

「ファーストナイトに送られる証、それが貴重なものだからです。易々と知られてしまっては魔族や盗賊に狙われます」


 そう言ってメルケムは手のひらサイズに収まる綺麗な宝玉を箱から取り出す。

 輝きは緑を放っている。

 

「そして、これを持つ者は如何なる要望も通すことができましょう」


 デニシュの手のひらに移された。


「ファーストナイトと気づかれぬよう、この中から職業を選びなさい。必要なものを用意しましょう」


 目の前に開かれた紙には

 商人、鍛治士、漁師などなど

 たくさんの職業が並べられていた。


「ボク、どれもやりたくないです」

「なぜだね?」

「魔法士になるのが夢なので」

「ファーストナイトと魔法士が兼任など、すぐに身分がバレてしまうぞ」


 身分がバレにくい、その必要があった。

 

「他にはないんですか?」

「うーむ…」


 数秒黙り込み話を続けた。


「あることにはあるが、おすすめせん」

「教えてください」

「うむ…これじゃ」


 物をポッケに入れる動作をするクーポ。


「盗み、ですか?」

「そう、盗っ人じゃ」


 デニシュは一旦考え、言葉を発した。


「それにします」

「はぁ、そう来ると思ったんじゃ。これ職業じゃないんだけどのぉ…」


 クーポとメルケムは呆れてため息をついた。

 

「すぐに用意させろ。デニシュ君、本当にいいんじゃな?」

「はい、迷いはありません」


 デニシュの頭の中にはヴィオラがいた。

 

「それでは、その宝玉を飲み込みたまえ」


 言われるがままデニシュはそれを飲み込むと体が不思議な光を纏い始める。

 

「これでデニシュ君は盗っ人兼ファーストナイトとして生きていくことになったぞ」

「ほら、これを握ってみなさい」


 2人に渡された剣を掴む。

 するとするりと消えてしまった。彼の頭の中には先ほどの剣が鮮明に思い描かれている。クーポは説明を続ける。盗っ人としての能力が開花されたことで、右手手のひらで触った物を体の中へ瞬時に取り込むことができたのだ。


「すっごい! なにこれ!」

「くれぐれも城のもの、とらないでくれい」

 

 すごむクーポは姿勢を正す。


「ファーストナイトとしての活躍、期待しておるぞ」


 魔族にはお母さんを攫われた報いもある、この新たな力を使って魔王を倒すと決意した。

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