ヴィオラ、初めての街へ行く
魔族と分かればすぐ殺す。
ヒト族と分かればすぐ殺す。
魔族とヒト族が歪みあっていた、そんな世界のお話である。
生後8年目の娘ヴィオレンテは窓の外を眺めていた。
「ヒトノ街にいくー！」
彼女はヒト族に興味がある。
本日、近くの平野でヒト族との戦闘があることを聞きつけた。
角を隠して、尻尾を隠し、本で見た想像のヒト族に姿を変えるヴィオレンテ。
「ぼうけんにしゅっぱーつ！」
彼女は大きな部屋のドアに「ねてる！ はいるな！」と書いた紙を貼り付けた。
そして窓から身を乗り出して外に逃げ出す。
ちょうど下の中庭では魔物たちが出兵の準備を始めていた。
彼女の作戦はこうだ「たたかってるあいだにヒトのまちにいく！ だいさくせん」
備蓄庫にあるゴブリン用の鎧を身に纏い、鼻息を荒くして鬼馬車に乗り込む。
「ふんふん！ ドキドキ！！ たのしみ！」
進軍を開始する。
揺らり揺られて鬼馬車は行く。
高まる鼓動にワクワクしながら、荷台の中でヴィオレンテは体育座りをしている。
「おい、お前！ 見ない鎧着てるな！」
隣のゴブリンがヴィオレンテに話しかけてきた。
ここで見つかってはいけない。
彼女は顔を深く隠す。
「おい！ 無視するなよー！」
ーーガタン！
鬼馬車が揺れたはずみでゆるゆるの兜が外れてしまった。
「お、お、姫さまぁぁあ？！」
「げ、バレた」
同じ馬車に乗ったゴブリンたちは一斉に飛び跳ねた。
彼女はいずらそうに体育座りを続けている。
「姫様！ だめですよ！ こんな危ないところにきちゃ！！」
「へいきなの！ だれにもいわないで！ ごくひミッションなの！！ パパ、まちがえた、まおうさまにたのまれたの！」
「そうなんですね！ わかりました！ 誰にも言いませんよ！！ このゴブリンめに任せてください！」
幸いゴブリンたちはアホだった。
この時、ヴィオレンテは勝利を確信したという。
「戦闘準備！！ 開始！」
ちょうど戦場に着いたようだ。
ゴブリンたちと鬼馬車を降りる。
「わたしはむこうのもりいくからね！ みんながんばってね！ しなないでね！」
「はい！ 分かりました！ 姫様もご無事で！！」
「おいみんな！ 姫様のためにも頑張るぞー！！！」
「「「おおおーー！！！」」」
ゴブリンたちはやはりアホだった。
姫様という言葉に反応する魔物たち。
周りの魔物の視線が一気に集まる。
彼女はそんなこともつゆ知らず、重い鎧を脱ぎ捨てて、颯爽と森に向かって爆速ホバー移動を開始していた。
浮遊魔法、これも作戦の内。
彼女はお城の中で何度も確認した地図を頼りに爆走を続ける。
「あとちょっとでマチみえるはず！！」
——————————数十分後
そして！ 彼女は、ついに念願の街に着いた
「わぁぁ！ ほんでみたままだ！ おなじようなみためのヒトがたくさんいる！！」
らんらんと目を輝かせ周囲を見回す彼女。
関所についた彼女は兵士から質問される。
「きみきみ！ 1人でどうしたの？！」
「ママと、はぐれてしまいました！」
お城の中で練りに練った嘘をつく。
「そうか！ なら早くお家に帰りなさい」
見事に突破できた。
高鳴る期待に目を輝かせて門を通る。
入るや否や、大きな噴水が出迎えてくれる。
ヒト族の街は華やかだ。
「わー、いいにおい！！」
入ってすぐ、彼女の鼻腔には香ばしくも甘い匂いが流れ着く。
ヴィオレンテはその場所を必死に探り、ついに見つけた！
「これかー！ どれどれ！ ぱくっ！ あま！ やらか！ これがパンってやつだ！」
初めての味、初めての食感に心が躍る。
彼女はこの恍惚をしばらく楽しんでいた…のだが。
「こら！！ 何やってんだこの小娘！」
知らぬ間に、大きなヒト族に囲まれていた。
ただならぬ予感を感じてヴィオレンテは大きなヒト族の合間を縫って逃げ出す。
「まずい！ にげる！！！ ダッシュ！！」
「盗人だ！！ あの小娘を捕まえろー！」
夢中で走る！
夢中で走る！
噴水を通り過ぎ、関所を超え、町外れの森まで逃げてきた。
「はぁはぁ！ ここまでくれば！ だいじょぶ！」
ヴィオレンテは安心し切っていた。
「遅いね！ ボクの足からは逃げきれないよ！」
「だ、だれ？！ おってきた！！」
声の方向に振り返ると小さなヒト族が立っていた。
「おいおまえ！ 観念しろ！ 火炎弾！」
「しょぼ！！ 防御壁！」
急に放たれた攻撃魔法を勉強した小さな防御魔法で防ぐ。
「わたしなにもしてない！ 氷塊弾！」
「きかないね！ 防御壁！」
ーーバリッ！
なかなかやるヒト族だ、彼女はそう思った。
「わたしはもっとすごいの！ はぁぁぁぁあ！ やみまほう！ アb…」
ーードシンドシンドシンッ！
急な地響きが彼女たちを襲う！
森の木々を薙ぎ倒して中から現れたのは
「ふぁっ？！ ギ、ギガントオーク？！」
目の前の少年はそれを見るなり泡吹いて倒れてしまった！
ギガントオークは小さな2体の生き物を交互に見やる。
「姫様、帰りますよ」
「ちぇ！ みつかっちゃった」
「ちぇっ、って…姫様…」
手のひらに包まれてヴィオレンテは連行された。
————————魔王城にて
「おいヴィオレンテ。おまえ、なぜ連れてこられたかわかっているな？ もしお前が魔族と見抜かれていたら殺されていたんだぞ」
「パパ…ごめんなさい…」
「パパではない、魔王と呼べ。ありがとうギガントオーク、下がっていいぞ」
ーードシンドシンドシン
ギガントオークは深々と頭を下げて部屋を後にする。
「あのな、前から言っているだろヴィオラちゃん！ どんだけパパが心配したか！！ 魔族とわかれば殺されるんだぞ？！ そんなにヒト族が気になるか？！」
「だってパパのおへやにあったホン、たのしそうだったんだもん！」
「だからと言って危険は犯すな！」
「いやだ！」
「ダメと言っても行く気か？！」
「いく！」
むむむ…
魔王フェイナスは若い頃を思い出していた。
彼もまた、無断で王宮の外に飛び出していた過去があるのだ。
自分と愛娘のヴィオレンテがリンクする。
「…よしわかった」
「え？」
「わかった！」
「ほんと？！ マチにまた行ってもいい？！」
「いやダメだ！！」
「え？」
「1人ではダメだが、条件を出そう！」
「じょーけん？」
「そうだ！ 安全に行くためのな！ 」
「あんぜん？」
「そうだ、ヒト族との渉外にヴィオラちゃんもついていきなさい！」
「しょーがい？」
「つまり！ この国を良くするため、時々パパたちはヒト族になりすまして食べ物とか情報を集めている。それについていきなさい！」
「いいの？！」
「うむ、それならいいぞ！ そこでヒト族の恐ろしさを学んでくるがいい！ それでもなおヒト族と触れ合うという意思が続いていたら考えてやろう！ ふははは！」
「ほんとー？！ ありがとうパパ！ パパだいふき！」
「大好き、だな。うむ（むふふ、ヴィオラちゃんはかわいいなぁ。興味に突っ走るあたり、昔の私と似ているなぁ、親子だからかな？ 親子だからかな？ むふふ！）」
こうしてヴィオレンテは魔族とヒトとの交流について行くことになった。
ちょうさけっか
「パン」
ふわふわであまかった。
おいしかった。
おっきいのからちっちゃいものまであった。
たべるとおおきなヒトぞくからおいかけられる。
ヒトぞくにとってだいじなもの？
