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貧乏くじ  作者: 菜尾
1/2

Side: A

 俺はある中小企業で働くサラリーマンだ。世の不景気もどこ吹く風、会社は年々業績を上げており、今のところリストラとは無縁の生活を送れている。


 だからといって、給料が一流企業並みにいい訳じゃない。妻と子供二人を養うためには、当然のように残業しなきゃならない。サービスでないのが救いだ。


 カツカツカツカツ。何がって、生活だよ。これから子供はどんどん大きくなる。それにつれ、金がかかるようになるんだ。貯金はできるだけしておきたい。


 老後の資金だって貯めなきゃ。子供たちが背負ってくれるとも限らないんだから。


 老後といえば、両親の介護費用だって考えなくちゃな。今は元気にやっているけど、いつ、どんなことが起こるか分からない。やっぱり蓄えは必要だ。


 あー、いっぱいいっぱいだ。イライラする。




 パソコンのキーボードを必死で叩く俺。その近くで、談笑する男たちがいた。


「ええ、ほんとッスか⁉」


「やりますね」


 後輩二人に持ち上げられているのは、同期だ。チッ、今日も高そうなスーツ着やがって。


「まあなー」


 同期は得意顔だった。仕事の傍ら小耳に挟んだ情報によると、奴は新しいゴルフクラブセットを買ったらしい。


「接待も増えてきたからな。もう少し良いものを揃えてもいいかと思って」


「でも、結構したんじゃないッスか?」


「まぁな。でも、うちは嫁さんが稼ぐからね」


 ますます同期は得意げな顔を見せた。その顔に、二人の後輩が拳を握って羨望の限りを尽くし、声を上げる。


「もう、ほんと先輩が羨ましいですよ」


「奥さん、外資系商社でしたっけ?」


「そそ」


「しかも美人で、スタイルもモデル並み!」


「そう持ち上げるなよ」


 ……はん。まんざらでもないくせに。キーボードを弾く指の力が強まった。


 そうだ。同期の奥さんは高給取りの美人。それに比べて、俺のところときたら。可愛くないわけじゃないけど、問題はそこじゃない。


 二人目を産んだ妻は産後の肥立ちが悪く、その結果仕事を辞めた。高給取りとまではいかなくとも正社員だったのに、その地位を捨てたんだ。産休が取れる会社だったのに、『このままじゃ会社に迷惑がかかるから』って捨てやがった。今はのびのびと、専業主婦などという贅沢な暮らしを満喫していやがる。


 いいよな。毎日子供たちと遊んで、適当にご飯作って。俺が家に帰れば『おかえりなさい』って笑いかけるだけの仕事なんだから。


 大体、俺は二人も要らなかったんだ。もともと子供もそんな好きじゃないし。なのに勝手に作って産んで、産後の肥立ちが悪いって冗談じゃない。


 ああ、分かってるよ。避妊しなかった俺が悪いって話なんだろ。でもあいつは安全日だって言いやがったんだ。俺は騙されたようなもんだ。


「じゃ、お疲れ」


 同期が声をかけてきた。定時でご退勤ですか。そうだよな。高給取りの妻がいたら、残業なんて必要ないもんな。


「お疲れ」


 俺は忙しいふりをして、奴と目を合わすことなく声だけ放った。




 奴はいつも定時で帰りやがる。そんな俺も久しぶり、今日は定時で会社を出た。


 繁華街をぶらりと歩き駅に向かっていると、高級スーパーから同期が出てくるのが見えた。手には縦長のショッピングバッグが一つ。形状からして、ワインだな。


 はん、お気楽なこった。よく稼ぐ妻につまみの一つや二つ作らせて、二人でワイン片手にしっぽり大人の時間か。子供がいない家は綺麗に片づいていて、お洒落なワインがさぞかし(さま)になるんだろうな。


 ったく。奥さんは何であんな奴と結婚したんだろう。自分より稼ぎが少ない男だぞ。長身のイケメンってだけの男なのに。やっぱり女は見てくれでしか物を判断しないってことか。世の中得をするのは、なんだかんだ言ってイケメンなんだよ。


 あーあ、貧乏くじ。俺は稼ぎもしない並みの奥さんと二人の子供抱えて、ひたすら働きアリになるしかないんだな。




 家に帰れば、あいつは今日も下の子供抱えたまま玄関に出てきて、『おかえりなさい』って微笑むんだろうな。リビングに続く廊下にはよちよち歩いて出迎えようとする息子がいて、あどけない声で『ぱぁぱ』って紅葉の手を振る。


(シュークリームでも買って帰るか)


 折角定時で帰れたんだ。デパートにでも寄ってみるか。あいつにはカスタード、俺はチョコ。で、息子にはプチシューだ。


 大体、掃除なんて適当でいいのにさ。小さな子供がいるんだからって分かってるよ。それくらいあいつが気遣って頑張ってるってことくらい。でも、俺は休日出勤のないところで働いているんだから、休日くらい俺に任せりゃいいだろ。土日のどちらかを俺に任せたら、どっちも週休一日制になるじゃないか。


 仕事から帰って、こっちがせめて自分の分の洗い物ぐらいやろうと思ってやったら、『ごめん』と言いやがる。そこは『ありがとう』だろ。


 ご飯だって毎晩必ず、三品はおかずを作りやがって。それだけじゃない。昨晩の余り物を上等のつまみに変身させやがる。冷えた発泡酒が進んでしょうがないわ。


 体調悪いって言うんなら、惣菜でもレトルトでも買って間に合わせたらいいだろ。美味いモン作られても、目の前に真っ青な顔があったら食欲が失せるんだよ。出来合いは高いって? その分くらい、俺が残業して稼いでやるよ。




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