〈3〉神様への手紙
拝啓、神様。
貴方様は今どのようにお過ごしでしょうか。
人間不信のパラメータを限界突破し、ついに感情さえまともに分からなくなった私でさえこの状況には心が動かされます。
え?えぇ、もちろん悪い方にですよ。
貴方がどんな意図をもって私を転生されたかなんて存じ上げませんが、それでも私は今すぐ天上に行って貴方の頬を往復びんたする権利くらいは持ち合わせていると思います。
私が死ぬときには覚悟しておいてくださいね。
…あぁ、言い忘れていました。
私はこの世界で八つ当たり半分、好きにさせてもらいますので、世界が滅んでしまっても怒らないでください。
むしろ貴方への当て付けに世界を壊すのもいいかも…いえ、何でもありません。
それでは、異世界転生どうも感謝いたします。
これで世界へ復讐する機会が得られたというものですからね。これからどうなるか、どうぞ楽しみになさっていてください。
敬具
井戸から組んだ水で軽く顔を洗った少女は、心の中で愚痴半分に書いた神様への手紙を頭の中で郵便ポストへ放り込んで、顔を上げた。
朝日はまだ出ていない。暗い空が彼女の視界を満たす。
一応貴族令嬢であるはずなのに肩で切られているアメラリアの紫髪が朝の冷たい風に小さく靡く。
前世を思い出してから、早くも十日が過ぎようとしていた。
アメラリアに彼女の魂が融合したような感じなので、どうしてもアメラリアと彼女の年の差分『彼女』の方に引きずられてしまう。
しかしそれは悪いことばかりではなかった。
アメラリアの人生を考えてしまえば大問題かもしれないが、それでも『少女』の記憶を思い出したことによって今までの何倍も人間らしい生活を送るようになったように思える。
例えば食事は何が何でも三食食べるようになったし、魔術という娯楽も発見し、残り少ない命を楽しもうと工夫も始めた。
最近は侯爵家から少し離れた場所にある森の泉で星を降らせることが一番のお気に入りである。
思い切り空へ向けてはなった氷が空一面にかける姿はそれはそれは絶景であり、また氷なので落ちてくる前に溶けて消えてしまうため害もない。
人の目を盗んで掃除も魔術を使って楽をするようになったし、ボロボロの小屋も直そうともう一つ新しいことを始めたのである。
この世界に存在するもの…元素や粒子など…を使って世界に干渉する魔術と別に、無から有を生み出す“魔法”なるものもこの世界には存在する。
魔術の何十倍も難しい技にはなるが、最近のアメラリアはそれを習得しようと錯誤もしていた。
―とにかく。
神の悪戯によって起きたこの不思議な現象は、アメラリアという少女の人生を百八十度変える結果となったのである。