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第七話 十五歳

 


「ふぅーーーーーーー」


 激しい滝に打たれながら、パワーは呼吸を整え瞑想を行っていた。


 この修行はいつ如何なる時でも、身体に激流のような衝撃を打ち付けられても、呼吸を一糸乱さないための鍛錬である。


 目を開けて岩場から立ち上がると、くるりと踵を返し降り注ぐ滝に身体を向ける。

 腰を落としながら大きく息を吸って、大地から力を借り、その力を流れ下半身から上半身に伝え、一気に拳を振り上げた。


 ――刹那、“滝が割れた”。


 ドッッッパン!!! と、拳を放った衝撃波により降り注ぐ滝が真っ二つに割れる。


 水が吹っ飛び道筋のような岩肌が見え、水飛沫が舞い散り小さな虹が現れた。

 虹の真下にいるパワーは、手応えにやや不満そうに呟く。


「力を十全に伝えきれなかった。まだまだだな」


 魔力も使わず滝を吹っ飛ばしておいて、パワーは納得がいっていない様子だった。


 あれから五年。

 十五歳になったパワーの身体は、大きく成長していた。


 身長は百八十を超え、肉体は鋼のような筋肉に覆われているが、無駄な肉が一切ないためガッシリとはしているがスマートな体型。


 厳しい鍛錬を行ってきた傷跡が、そこら中にある。

 顔つきも少年から青年に成長し、誰もが見惚れる美男子になっていた。


 成長したのは外見だけでなく、武闘家としても五年前より遥かに強くなっている。


 闘神と謳われる武神老師が魔力による身体強化を施して本気で相手をした場合でも、組手でパワーに勝つことは不可能になっていた。


 今やこの世で一番強い武闘家は誰かと聞かれたら、弟子のパワーであると師匠は答えるであろう。


 午前の鍛錬を終わせたパワーは、ついでに昼食用の食べ物を川で魚を取り武神老師のもとに帰ってくる。

 日陰で気持ち良さそうに昼寝をしている師匠に、弟子が声をかけた。


「老師様、魚が大量に取れたので昼は魚の丸焼きとスープと刺身にしようと思います」

「おお、任せたぞ」

「はい」


 早速調理に取り掛かるパワー。

 師弟関係において、食事は弟子が作るものとなっている。それは、十年前に武神老師の弟子になった時からずっとそうであった。


 姉弟子の雷華がいた時は交代で作っていたのだが、いつの間にか料理の担当はパワーだけになっていた。その理由は単純で、雷華の作るご飯が不味くてパワーが作る料理が非常に美味いからだ。


 最初はパワーも慣れない調理に戸惑っていたが、元々神童と呼ばれるほど要領がいい彼はすぐに上達し、獣や魚も一瞬で捌けるようになったし、料理のバリエーションも増やしていった。


 彼の料理を食べてしまえば、雷華の美味しくもない焼いただけの男飯など食べたいと思えなくなるだろう。

 パワーは料理人としても、一流と呼んで差し支えない技術を身に着けていた。


 手際良くあっという間に昼飯を作ると、パワーと武神老師は鍋を囲んでご飯を食べる。


「やはりパワーの作る飯は格別じゃの~。お蔭で身体が全然衰えんわい」

「老師様には長生きして欲しいですから」

「師匠泣かせなこと言ってくれおって。時にパワーよ、お前さん学校に興味はないか?」

「学校……ですか?」


 師匠の口から突然出てきた言葉に、パワーはキョトンと首を傾げる。


 この世界の学校は、文字や算術や歴史を学び、同年代と交流を深める場である。

 貴族の子は必ず通っている。それは貴族なのに学校にも通わせられないほど潤っていないのかと周囲に蔑まれないようにするためや、他の貴族との人脈を広げるためでもある。


 平民でも、商人の子や裕福な家庭の子は学校に通わすことになっている。それも、将来に役立つ力を得たり、貴族への人脈を広げたりするためだ。


 ただ平民でも、貧しい家庭の子は学校に通えず、親の仕事や子供でもできる仕事をしていた。


 中には特殊な学校も存在した。

 それは、優秀な魔術師を育てるための魔術学校である。


 神から愛され、与えられた魔力量が大きく才能に溢れた子供しか入学できない学び場であった。


 魔術学校は沢山ある一般的な学校とは異なりそれぞれの国に一つずつしか存在せず、一年で入学できる数は四十人と極僅か。狭き門を通れるのは、神に愛された才能ある子供だけだった。


 神童と呼ばれていたパワーは、五大貴族のフレイル家に追放された五歳の時点で生きていくための一般的な教養を十分に身に着けているので、今更一般的な学校に通う意味はない。


 魔術学校に関しても、そもそも神に愛されず魔力が0の時点で、入学することは不可能であった。


 なのでパワーは学校に興味があるかと聞かれても、興味などこれっぽっちもなかった。

 武神老師にそう伝えると、師匠は柔らかい眼差しでパワーを見やる。


「お前さんはずっと、自分の存在価値を証明するために強さを求めておったな」

「……はい」

「証明するためには、何を成せばいいと思うか」

「誰よりも強くなることでしょうか」

「例え誰よりも強くなり最強になったとしても、証明することにはならんよ。パワーが魔力無しでも強くなったことを、誰かに認めてもらうまではな」

「誰かに……認めてもらう」

「パワーは誰に認めてもらいたいんじゃ?」


 師匠にそう問われ、弟子は目を閉じて考える。

 すると、瞼の裏に焼き付いていた光景が蘇った。


『なにが神童だ、平民以下のクズではないか』

『そもそも魔力がないなど聞いたことがない。あの子供は本当に人間なのか?』

『ボイラーも哀れだな。あれだけ期待していたのにも関わらず、こんな無様な結果だとは』


 神託の儀の場で、魔力を与えられなかった自分を嘲笑していた貴族たち。


『貴様に期待した私が愚かだった!! 貴様など、生まれた時にどこかへやってしまえばよかったのだ!! いや、生まれてこなければよかったのだ!!』


 期待していた子供が役立たずだと分かり、家から追放した父。


『お前は平民以下のクズなんだよ! お前なんて、生まれてこなければよかったんだ!!』


 ずっと兄を憎んでいて、兄の存在を否定した弟。


 黒髪を馬鹿にし、神から愛を与えられなかった愚かで人間以下だと罵詈雑言を吐いてきた全ての人たち。


 その者たちの顔が、走馬灯のようにパワーの脳裏を過った。


「見返したいとは思わんか? お前さんを虚仮にした者共に、ただのパワーという存在を証明したくはないか?」

「……はい。見返したいです」

「よく言った、それでこそ儂の弟子じゃ。それでは早速、ウエスタン王国に向かうとするかの」

「ウエスタン王国?」


 何故西国に行くのだろうか。

 疑問を抱いているパワーに、武神老師は茶目っ気に説明する。


「あそこの国にある魔術学校にはちょいと伝手があっての。今から向かえば、入学試験に間に合うじゃろーて」

「魔術学校ですか……魔術学校ですか!?」


 魔術学校と聞いて驚愕するパワー。

 学校に通うとしても、一般的な学校だと思い、魔力の無い自分が魔術学校に入れる訳がないと勝手に判断していたからだ。


 予想通りの反応をした弟子に、師匠はくっくっくと可笑しそうに笑って、


「当たり前じゃろ、今さら普通の学校に通わせてなんになる。今から始めるのは、ただのパワーが世界に認めさせるための逆襲じゃ。じゃからまずは、お前さんを魔力がないからと存在を全否定した元家族や西国の奴等を、魔力がないまま見返してやろうではないか」

「……はは、師匠の思い付きは、やはり自分には予想もつきませんね」

「弟子の想像の範疇にいる師匠など、本当の師匠ではないわ」


 こうして二人は、ウエスタン王国に足を向けて旅立った。


 パワーは十年ぶりに、故郷ふるさとに帰ることになる。


 ただ、普通に帰るだけではなく。


 優秀な魔術師を育てるための魔術学校に、魔力の無いパワーが入学するための帰郷であったのだった。

おはようございます!

本日は完結まで投稿いたしますので、よろしくお願いします!

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