第十三話 ざまぁ
五大貴族のバーナー・フレイルが、平民を演習場に呼び出した。
その噂は瞬く間に広がり、興味のある全学年の生徒が演習場に集まっていた。
否、学生だけではない。入学式に訪れていた、親族や関係者各位も観客席に訪れていた。
「パワーさん、大丈夫かな……」
「わからへん。相手はあの五大貴族やからな。わかるのはヤバいっちゅ~ことだけや」
パワーと親しくなったアルフレッドとリコも、演習場の観客席に訪れていた。
彼等だけではなく、観客席が全て埋まるほどの見物人がいる。
「入学早々、フレイル家の長男はやってくれましたな」
「話によると、平民の生徒を粛清すると聞きましたぞ」
「なんだあの平民は、黒髪ではないか」
「黒髪ってそんな馬鹿な……本当だ、黒髪だ」
「黒い髪の人間なんて初めて見たぞ」
「いや、十年前に聞いたことがある。フレイル家の双子の長男が、黒髪であったという話を」
「私も聞いたことがあるが、そやつは行方不明で死んだのではなかったのか?」
「まさか生きておったのか?」
「そんな馬鹿な……」
観客席にいる貴族たちは、パワー見て驚愕していた。
それは、この男も同様であった。
「まさか……あれはパワーなのか?」
フレイル家当主ボイラーも、十年ぶりに目にした息子のパワーを、亡霊の如く見つめていた。
事が大きくなってしまった中、本人たちは演習場の中心で対峙していた。
「お前……本当にあのパワーなのか?」
「ああ。今はただのパワーだがな」
十年ぶりに顔を合わせた双子の兄弟。
バーナーは亡霊でも見ているかのような表情で、パワーに問いかける。
「死んだんじゃなかったのか」
「一度は死のうと思ったんだがな。だが、こうして元気に生きている。バーナーも元気そうだな」
「なんの真似だ。何故魔力がないお前がこの由緒ある魔術学校に土足で転がり込んでいる」
「魔術を学ぼうと思ってな」
「どんな卑怯な手を使った」
「入学試験を正式に受けて、合格したからここにいる」
「そんなこと信じられるか。平民で、しかも魔力がないお前みたいなクズが入学できるはずがないだろ」
「信じるか信じないかはお前に任せる」
「なんだと」
とても十年ぶりに会った兄弟の会話ではないが、パワーはこうなるだろうと予想していた。
子供の頃から、バーナーは自分のことを憎んでいた。
パワーが考えていたよりも憎しみが強かった。
だから自分が生きていると知ったら、こうなるだろうと分かっていた。
「俺の前から消えろ」
「それはできない。俺はこれから三年間この場で魔術を学ばなければならないからな」
「ふざけるなよクズ野郎が」
バーナーは顔を歪ませると、右手につけていた手袋を脱いでパワーに叩きつけた。
「おい、フレイルが手袋を投げたぞ」
「あれって決闘の合図だよね?」
「なんで五大貴族が平民なんかと決闘したいんだ?」
「さあな、気に入らなかったんじゃねーか?」
魔術師には決闘というしきたりがあった。
己の手袋を相手に投げつけ、手袋を拾えば決闘を受ける合図となる。
決闘を行う理由としては、主に意見の食い違いなどが起きた時に、相手に言うことを聞かすためにある。
用は、勝った方が負けた方に何でも言うことを聞かせられるのだ。
「拾ったらあかんでパワーはん!」
「そうです! 酷い要求をされるに決まってます!」
観客席にいるリコとアルフレッドが、慌ててパワーに訴える。
五大貴族のバーナーに平民のパワーが万が一にも勝てる可能性はない。
受けてもし負けてしまったら、どんな暗い未来が待っているかわからない。
だから受けてはダメだ。
「拾えクズ。五大貴族のこの俺が引導を渡してやる」
「決闘か……お前の望むものはなんだ?」
「俺の目の前から消え失せろ。二度とその面を見せるな」
「いいだろう。では俺が勝ったら、学校にいる間は俺に関わらないでくれるか」
「お前の要求など聞く必要はない。まさかお前、魔力がないくせに俺に勝てると思っているのか?」
その問いに、パワーは手袋を拾ってバーナーに投げ返しながら答えた。
「ああ、負けるとは微塵も思ってない」
「っ!! お前はまだ自分の立場が分かっていないようだな!! その余裕をかましている面が昔から大嫌いだったんだよ!!」
決闘は成立した。
二人はその場から離れ、準備をする。
「先手はくれてやる。いつでもいいぞ」
「そんなに死にたければ殺してやる! フレイムランス!」
バーナーは三等級魔術の火槍を放つ。
その手から放たれた炎の槍は激しい音を立ててパワーのもとに真っすぐ飛来した。
「なに突っ立ってんのやパワーはん! 早く逃げるんや!」
後ろでリコが必死の形相で指示をしてくるが、パワーはその場から一歩も動かず、裏拳でフレイムランスを掻き消した。
「「………………………………は?」」
観客席にいる全ての者が、己の目を疑った。
それはパワーが、なんの魔術も使わずフレイムランスを無力化したからである。
驚いているのはバーナーも同じで、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「お前……今、何をした……」
「戦いの最中に問答をする時間なんてないぞ。それともお前の力はこの程度のものなのか? なら、もう終わらせるぞ」
「ちょ、調子に乗るなよクズが! ファイアーボール! フレイムランス! ダークインフェルノ! バーストファイア!」
バーナーは連続で三等級や二等級火属性魔術を使用する。
だがその全ては、パワーの“打撃”によって弾かれてしまう。
最早何が起きているのか、この場にいる全ての者が理解できなかった。
「ば……馬鹿な!? 何がどうなっている!? 魔力のないお前は魔術が使えないはずだ! どんな汚い手を使っているんだ!?」
「汚い手など使ってない。俺が使っているのは筋肉魔術だ」
「き……筋肉魔術? ふざけるな、何を言ってやがる! そんな魔術聞いたことねーんだよ!!」
「だろうな。この魔術を使える者は世界に二人しかいない。それよりもういいのか? 終わりなら今度は俺がいかせてもらう」
「殺す! 殺す殺す殺す! やっぱりテメエだけは殺してやる!! イフリートオオオオオオオオ!!」
怒るバーナーは、自身が使える最強の魔術、一等級魔術の火精霊を召喚した。
彼の背後に、炎の巨人が現れる。
「イフリート、あのクズを焼き殺せえええ!!」
「危ない!」
「逃げるんや!」
主の命令に従い、火精霊は雄叫びを上げながらパワーに迫る。
パワーは腰を落とし、息を深く吸うと、己の肉体を流れる力を拳の一点に集中させ、力強く放った。
「武神流筋肉魔術一ノ型、正拳大砲」
それはただの正拳突きだった。
だがパワーが放った正拳は音を殺し、イフリートを跡形もなく吹っ飛ばしたのだった。
「「………………」」
信じられない光景を前に、観客達は言葉を失っていた。
「な……何が起こって……」
「バーナー、あの時のことを覚えているか」
ひたひたと、パワーはバーナーのもとへ静かに歩いていく。
バーナーは化物でも見るかのような脅えた顔でパワーを見やった。
「あ、あの時って……」
「お前が俺のことを散々殴ってくれた時のことだ。あの時は立場もあって反撃しなかったが、本当はお前のことをおもいっきり殴り飛ばしたかったんだ」
「ひっ! や、やめ……っくるんじゃねえ!! お、俺は五大貴族のバーナー・フレイルだぞ! 俺になにかしてみろ! 平民のお前なんてどうなるか――」
「今は立場など関係ない。俺とお前は、対等な決闘を交わした“魔術師”だ」
「く、くるなああああああ!!」
近づいてくるパワーに、恐怖で耐えきれなくなったバーナーは咄嗟に殴りかかる。
へなちょこのパンチを受け止めたパワーは、その拳を軽く握り締めた。
「ぐああああああああ!! 痛い痛い痛い! 離せ、離しやがれええええええええ!!」
「お前の十年はこの程度のものだったのか、ガッカリだ」
「くそ! くそ! くそがあああああああ!! 平民のクズ如きが俺を見下すんじゃねえええええ!! お、俺は、俺は五大貴族だぞおおおおおおお!!」
「喋ってないで歯を食いしばれ。でないとその歯が全部折れてしまうぞ」
「ひっ、待っ、待って――」
「待たない」
パワーはバーナーの顔面をおもいっきり殴り飛ばした。
彼の身体は一直線に吹っ飛び、そのまま壁に激突する。
気絶したバーナーの顎は陥没し、歯は全て砕け落ちていた。
パワーは殴った自分の手を見つめると、十年間分の晴れやかな笑顔を浮かべる。
「はっ、これがスッキリするというやつか」
一つの因縁に決着をつけたパワーは、その拳を高く挙げ、この場にいる全ての者に、世界に、神に向かって宣言するのだった。
「俺はパワー! ただのパワー! 世界最強の魔術師になるその名を、胸に刻み付けろ!」
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!
打ち切り感満載ですが、これで完結となります。
今作は、今流行りの追放ざまぁ系に乗ってみようという考えで書き始めました。
本来ならこの後も続ける予定でしたのですが、久しぶりの三人称書きは難しいなぁという理由と、読むのも苦手な追放ざまぁ系は書いていても自分の中で盛り上がらず、すぐに筆を折ってしまいました。
投稿するか迷ったのですが、ここまで書いたのに投稿しないのはちょっともったいないと思い、投稿してみようと思いました。
短いお話でしたが、ここまで読んで頂いた読者様、誠にありがとうございました。
また何かふと思いついたら書きますので、その時はよろしくお願い致します。




