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第十一話 旅の終わり

 


 試験官を倒したのはパワーだけではなかった。


「この程度で粋がるんじゃねーよ雑魚が」

「ほっほ、試験官のレベルがこれとはウエスタン王国も落ちたものよな」

「ごめんなさいごめんなさい! ついやりすぎちゃいました!」

「あかん……ぶち切れてもうたわ」


 平民の受験者でパワー以外に八人の者が試験官を倒していた。


 これには学校側も予想外である。

 毎年行っていた試験内容を変え、全ての平民をふるいにかけるつもりであったのだが、試験官が九人も倒されてしまったからだ。


 午後の実技試験が全て終わり、名前を呼ばれた合格者だけが演習場に残り、それ以外の者は立ち去った。


 平民の受験者で合格したのはパワーを含めた十人。

 それぞれ適当に待っていると、試験官が現れる。


「おめでとう。君たちは見事試験を合格し、歴史あるウエスタン魔術学校の生徒となる。入学に関しての説明は追って伝えよう。それまでは各自待機していてくれ。以上、解散」


 試験官がたったそれだけの説明を終えると、合格した受験者たちは次々にその場を立ち去っていく。

 パワーも続こうとしたのだが、その前に声をかけられてしまった。


「あの……さっきはありがとうございました」

「ああ、さっきの。君も合格したのか」


 声をかけてきたのは、パワーが助けた受験者の少年だった。


 年齢はパワーと同じくらいで、薄い赤色の髪から適正属性は火属性だろう。良く言えば優しい顔つき、悪く言えば頼りなさげな雰囲気な少年であった。


 ここにいるということは、合格者の一人なのだろう。


「はい……なんでか分からないけど僕も合格してしまいました。あの、僕はアルフレッドっていいます。パワーさん、僕を助けてくれてありがとうございました」


 頭を下げてくる少年――アルフレッドに、パワーは首を横に振って、


「気にしないでくれ。むしろ俺の方こそ試験の邪魔をして申し訳なかった」

「邪魔だなんてそんな! パワーさんが助けてくれなかったらどうなってたかわかりませんでしたよ。最悪死んでいたかもしれません。なので、助けてくれたパワーさんには感謝しかありません」

「そうか……君の感謝、素直に受け取ろう」


 パワーがそう言うと、アルフレッドは満面の笑顔を浮かべる。


「あの、パワーさんって何者なんですか?」

「どういう意味だ? 俺はただの人間だが」

「いえ……その、さっき試験官がパワーさんは魔力が無いって言っていて、でも凄い魔術を使ってるし……それに、なんだか貴族様みたいに高貴というか」

「それはワイも気になってたわ。良かったら教えてくれへん?」


 二人の話に割って入っていたのはリコだった。

 彼女も合格者の一人であった。

 リコはパワーの肩に気安く手を置きながら、


「あのけったくそ悪い試験官が使った魔術は二等級やった。それを一撃で葬ったあんさんの魔術は、今まで目にしたことがない魔術やったで。それにあんさん、喋り方や佇まいもえろーかくばってるし、本当はええとこの坊ちゃんなんちゃうの? もしくは訳ありとか?」


 他人のプライバシーに遠慮せずドシドシくるなーとパワーは心の中で呆れながら、言葉を濁して説明する。


「訳ありの方だ。魔術は師匠に教えてもらった筋肉魔術を使っている」

「き……筋肉魔術?」

「なんやそれ……ふざけてるんか?」


 筋肉魔術と聞いて目が点になっているアルフレッドとリコに、パワーは「ふざけてはいない」とはっきり告げる。


「これは師匠が編み出した独自の魔術だ。だから君たちが知らないのも無理はないだろう」

「ほ~ん、まあええわ。それよりあんさん、その固い口調なんとかしてくれへん? 背中がかゆ~てしょうがないわ。これから同じ生徒になるさかい、もっと砕けた感じで喋ってええよ」

「あっ僕もアルって呼んで欲しいです!」

「まあ……善処する」


 それからパワーは二人から沢山話しかけられ、久しぶりに同年代と喋って疲れてしまったのだった。



 ◇◆◇



「試験の方はどうじゃった」

「はい、無事に合格しました」

「それは良かったの、おめでとさん」


 その日の夜。

 泊まっている宿で、パワーは武神老師に試験の結果を報告していた。

 弟子が合格したと知った師匠は、朗らかな笑みを浮かべる。


「これで目的が一つ叶ったの」

「はい……ですが、一つ気になることがありました」

「なんじゃ?」

「今のこの国は、俺が思っていたよりも貴族の力が強いようです。それと同時に、貴族としての在り方が歪んでいるように感じました」


 パワーは思い出す。

 平民の受験者に対し、貴族の試験官が放った罵詈雑言や信じられない悪質な態度を。


 あんな程度の低い者が貴族なんて、パワーからしたら有り得なかった。


 有り得てはならなかった。


 あの試験官だけがそうである可能性もあったが、どうやら他の試験官も同じようなもので。

 最早この国全体の貴族が、平民に対し悪辣な態度を取っていると思われる。


「それは恐らく、王家よりも五大貴族の力が強くなってしまったからじゃろうな」

「そうなのですか?」

「うむ。数年前から王家の力が弱まり、五大貴族を筆頭に貴族の力が強まってしまったことで、貴族が増長してしまったのじゃろうな。忌まわしいことじゃよ」

「元々五大貴族の影響力は国内でも大きかったですからね……王家の力が弱まったのを見てすかさず国を牛耳ったのでしょう」


 二人の予想は当たっていた。

 五年前、王宮内では跡目争いが行われていた。その所為で王家全体の力が弱まってしまい、そこを五大貴族がつけこんで国内の政治を乗っ取ってしまったのだ。

 なので今の王家は、ただのお飾りに過ぎない状態であった。


「この国は今、儂が思ってたよりも酷い状態におる。どうじゃパワー、入学などやめて国を出るか?」

「いえ、その考えはありません。どちらかといえば、この現状を見過ごせないです。このままでは、民が苦しむ一方になってしまいます。俺に何ができるか分かりませんが、少しでもこの国を良くしたいと、今日の試験で思いました」

「そうか……パワーならそう言うと思ったわ。それじゃあ、儂は先に出るとしようかの」

「行ってしまわれるのですか?」

「入学式を見ずに去ること、許しておくれ。じゃがパワーなら、何があってももう大丈夫じゃろ」


 自分を信頼してくれる師匠に、弟子は深く頭を下げた。


「ありがとうございました、老師様」

「そうかしこまるでない、今生の別れというわけでもあるまいし。逆に寂しくなってしまうじゃろ。お前さんの様子を見にふらっと帰ってくるから、それまで学校の話を積もらしておいてくれ」

「はい。お任せ下さい」

「元気でな」

「老師様も」


 パワーと武神老師の十年の旅は、一時的だが終わりを告げたのだった。


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