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第一話 神から愛されなかった神童



 遥か昔、人間と魔族は争っていた。


 人間は数こそ多いものの、肉体も魔力も魔族に劣り、戦況は劣勢に追い込まれ窮地に陥ってしまう。


 誰もが絶望に打ちひしがれた時、五人の戦士が現れた。


 五人の戦士はそれぞれ火・水・風・光・雷の属性魔術を巧みに操り、劣勢だった戦況を瞬く間にひっくり返し、魔族を束ねる魔王を討ち倒して平和を取り戻した。


 国王は五人の戦士に五英雄という栄光を与える。


 その五英雄の子孫が、のちに五大貴族と呼ばれることになったのだった。



 ◇◆◇



 五大貴族、火属性の家系フレイル家に双子の男の子が生まれた。


 長男の名前はパワー。

 次男の名前はバーナー。

 フレイル家現当主ボイラーは、念願だった男の子が生まれて泣き喜ぶ。

 しかも男の子が二人だ。これでフレイル家も安泰だと心から安堵する。


 だが、一つ解せないことがあった。

 それは次男のバーナーの髪の色は澄んだ赤色に対し、長男のパワーの髪は“黒”だったのだ。


 この世界では、髪の色は適正の属性によって表れる。

 例えば火属性の適正が高いと、髪の色は純粋な赤色となる。適正が下がるにつれ、色が薄くなっていくのだ。


 最も属性の適正が高い色は純粋色ピュアカラーと呼ばれ、純粋色に生まれた者は保有魔力も多く精霊に愛されており、国家として重宝される存在だった。


 次男バーナーが純粋色だったのは、フレイル家として最高の結果だ。

 だが長男パワーの黒色は、どう捉えたらいいのか解らなかった。


 何故かといえば、髪の色が黒である者は長い歴史の中で誰一人として存在しなかったからだ。


 黒という前代未聞の異質な色。

 しかし当主ボイラーは、嫌悪や忌避するどころか大喜びした。

 歴史上存在しなかった髪色の子が、我が子として生まれたからだ。


 これは凄いことだ! パワーは神に選ばれた子なのだ!

 これで五大貴族の中でも、フレイル家の地位が高くなること間違いなしだ!


 当主ボイラーは天に召される気分で王家にパワーのことを報告し、フレイル家長男パワーは唯一無二の黒髪であることが王国中に知れ渡ったのだった。



 ◇◆◇



 パワーは五歳になった。

 勉強嫌いで貴族としての習い事をよくサボり、メイドにいたずらをして困らせたり遊びほうけている次男のバーナーとは真逆に、パワーは勉学や習い事に勤しみ、子供とは思えないほど落ち着きがあり大人びていた。


 そんなパワーを両親や周囲の人間は感嘆し、噂は国中に広まりフレイル家の長男は神童と呼ばれることになった。


 この子は他の子と違う。神に選ばれた子なのだ。

 両親を含め、誰もがパワーの将来に期待していた。


 子供が五歳になると、『神託の儀』という儀式が行われる。

 その儀式では巫女が神に祈り、子供に魔力と恩寵ギフトを授けられるのだ。


 神託の儀は人間にとって最も重要な儀式であり、儀式によってその者の将来が左右されることが多い。


 神から魔力を多く与えられた者、有用性が高かったり強いギフトを与えられた者は、例え平民の子供であっても国から優遇される。


 逆に貴族の子供であっても、与えられた魔力が少なかったり、使えそうにないギフトとなると、悲惨な人生を歩むことになってしまうのだ。


 晴れて五歳を迎えた双子の兄弟は、神託の儀を受けるため両親と共に王都にある教会に訪れていた。

 両親以外でも、今回の神託の儀は多くの者達が見学に参列している。


 それは我が国ウエスタン王国国王陛下であったり、五大貴族の現当主達であったり、名のある貴族であったり。

 神託の儀において、ここまで国の重要人物が注目することは一度たりともなかった。


 何故、彼等が自らの足で教会に訪れたのか。

 それは三人の才ある子供の輝きし将来を己の目で見届けたかったからである。


 五大貴族、木属性の家系ウッドル家が長女、純粋緑色ピュアグリーンのフローラ・ウッドル。


 五大貴族、火系の家系フレイル家が次男、純粋赤色ピュアレッドのバーナー・フレイル。


 五大貴族、火系の家系フレイル家が長男、黒色のパワー・フレイル。


 五大貴族の子供であり、髪が純粋色であるフローラとバーナー。

 未だかつて現れたことがなかった黒髪のパワー。

 特にパワーは唯一無二の色や神童と呼ばれるほどの才の持ち主であるからして、一番期待されていた。


 皆が期待に胸を膨らませ見守る中、ついに神託の儀が執り行われる。

 教会の巫女が壇上に立つと、儀式開始の挨拶を唱えた。


「これより、神託の儀を行います。名を呼ばれた者は壇上に上がりなさい。フローラ・ウッドル」

「ひゃ、ひゃい!」


 名を呼ばれた少女、ウッドル家のフローラは緊張しおどおどしながら巫女がいる壇上に上がる。

 自分の娘のフローラを、両親は心の中で(ガンバレガンバレ!!)と必死に応援していた。


「この宝玉に手を触れなさい。さすれば、偉大なる神から魔力と恩寵を授かるでしょう」

「はい……」


 巫女に促され、フローラは神台に設置されている水晶に恐る恐る手を置く。

 その瞬間、宝玉が眩しく光輝いた。


「「おおおおおおおおお!!」」


 強い光を放つ宝玉に、参列している者達は驚愕する。


 それは宝玉が放つ光が強ければ強いほど、与えられた魔力量が多いという証明であるからだ。

 光が収まると、巫女はビックリしておどおどしているフローラに神から授けられた能力を伝える。


「フローラ様が授かった魔力量は一等級です。そして恩寵は『木精霊ドリアードの加護』でした。おめでとうございます、フローラ様。貴女は神に愛された存在です」

「はえ?」


 巫女に褒められても何が凄いのかよくわかっていないフローラが小首を傾げていると、参列者がざわめきだした。


「魔力量が一等級だと!?」

「流石は五大貴族なだけはあるな……」

「それも精霊の加護というギフトまで……これは一人目から素晴らしい結果になったな」

「うおーーー!! フローラアアアアアア!! お父さんは感動したぞおおおお!! お前はお父さんの誇りだあああああああああ!!」

「アナタ、少しお黙りください」


 魔力量には基準が定められており、上から順に一等級・二等級・三等級・四等級・五等級となっている。


 平民のほとんどが五等級。あっても四等級。稀に三等級の者も出てくるが、滅多に出てこない。


 貴族は大体が四等級から三級。よくて二等級で、一等級となるとほとんどが五大貴族の者にしか出てこない。


 そしてフローラは、一等級の魔力量を神から授けられた。しかも、木属性と関係する『木精霊の加護』という最大級の加護まで受けた。

 この結果が、騒がれない筈がなかった。


「皆様、お静かにお願いいたします。続けて、バーナー・フレイル」

「は、はい!」


 名を呼ばれた次男バーナーは、緊張でガッチガチになり手と足が一緒に出てしまいながら壇上に向かう。


 貴族とは思えない所作に他の貴族たちはクスクスと嗤い、息子に恥をかかされた当主ボイラーは両手で顔を隠した。


「では、宝玉に手を」

「はっ、はははい!」


 緊張で頭が真っ白になりながらも、バーナーは水晶に手を置く。

 刹那、フローラに劣らないほど宝玉が輝いた。


「「おおおおおおおおおおお!!?」」

「おめでとうございます、バーナー様。神から授かった魔力量は一等級。ギフトは『火精霊サラマンダーの加護》です。貴方も神から愛された存在です」

「や……や……やったああああああああああああああ!!」


 巫女から最高の結果を伝えられ、バーナーは神聖な場であることも忘れ大声で喜んだ。

 フローラに続きバーナーまでも一等級と有用なギフトを与えられたことに、参列者たちは興奮気味に口を開く。


「なんと次男までもが一級とは!」

「これはフレイル家も安泰ですな!」

「いやーめでたい! 一日に二人も一等級の子供が現れるなんて初めてじゃないか?」

「よくやった……バーナー」


 本来なら神聖な儀式ではしゃぎ回るバーナーを今すぐに怒鳴り散らし引きずり込みたいが、最高な結果に安堵したのかボイラーは深いため息を吐きだした。


 二人続けて一等級魔力量の子が現れた熱気が収まらないまま、最後の一人が呼ばれる。


「パワー・フレイル」

「はい」


 落ち着いていて、それでいて堂々とした返事にこの場にいた誰もが息を呑む。

 背筋をしゃんとさせ、壇上に向かって優雅に歩くパワーに感嘆の念を抱いた。


「あれがフレイル家の神童か……言われるだけのことはあるな」

「神託の儀であんな堂々とした五歳の子供など見たことないわ」

「歴史上初めての黒髪……どれだけのモノが出てくるか」

「次男が一等級だったんだ。もっと凄いことになるんじゃないか」

「楽しみだな」

「ああ、楽しみだ」


 神童と呼ばれるパワーに、誰もが期待の眼差しを送っていた。

 それは五歳児とは思えないほど大人びているからではなく、黒色の髪が初めて生まれたからだ。


 これがもし平民から生まれたとしたら、そこまで期待はされていなかっただろう。

 いや、もしかすると不吉であると忌避され排除されたかもしれない。


 だが生まれた家が五大貴族のフレイル家となれば話は別だ。

 抱く感情は忌避ではなく、どれほどの才が眠っているのかという期待しかない。


「では、この宝玉に手を」

「はい」


 巫女に促され、パワーはそっと水晶に触れる。その刹那――、


「「……え?」」


 ――何も起こらなかった。


 本来宝玉が光る筈なのに、触れても一向に光らない。


 光らない筈がないのだ。

 ウエスタン王国の歴史上、宝玉が光らなかった前例は一度もない。

 魔力量が乏しい平民でさえ、僅かな光を放つというのに。

 パワーの場合、なんの反応も示さなかった。


 その結果に、酷く戸惑う参列者達。巫女でさえ、信じられないと言わんばかりに驚いていた。


「し……信じれません。パワー様は魔力が“ありません”」


「な、ないだと!? おい、それは一体どういうことだ!?」


 たまらずパワーの父ボイラーが抗議の声を上げると、巫女は動揺しながらもこう伝える。


「パワー様は、神から魔力を授けられませんでした」


 巫女の言葉に誰もが困惑し、騒がしくなる。

 神託の儀を受け、今まで魔力を授からなかった人間は一人として存在しなかった。

 神から魔力を授からなかったということは、愛されなかったということだ。

 それも、神童と呼ばれた五大貴族の長男が、だ。


「そんな馬鹿な……ギフトは、ギフトはどうだ!? 魔力がなくとも、ギフトが誰よりも素晴らしいということはないか!?」


 一縷の望みをかけてボイラーが問うも、巫女は切ない表情を浮かべて、


「パワー様のギフトは『不屈の体』です」

「ふ、ふくつのからだ? なんだそれは、聞いたこともないぞ……ははは、やっぱり凄いギフトなんじゃ――」

「いえ、このギフトはただ体が他の者より頑丈というだけのギフトです」

「な……な……」


 魔力もなく、貰ったギフトも使えない。

 平民以下の存在になった神童に、参列者達は失望の眼差しを送り、膝から崩れ落ちるボイラーを失笑していた。


「なにが神童だ、平民以下のクズではないか」

「そもそも魔力がないなど聞いたことがない。あの子供は本当に人間なのか?」

「ボイラーも哀れだな。あれだけ期待していたのにも関わらず、こんな無様な結果だとは」


 散々罵詈雑言を浴びせられるパワーとボイラー。

 ウッドル家フローラは心配そうな表情で、次男バーナーは満面の笑みを受かべて壇上に立つパワーを見つめていた。


「パワー様」

「はい」

「残念ですが、貴方は神から愛されませんでした」


 五大貴族、フレイル家が長男、神童と呼ばれたパワーは。


 たった一日にして、地の底に叩き落とされたのであった。



ありがちでありきたりな設定でございますが、暖かい目で読んで頂けると幸いです。


この作品は十三話で完結し、本日と明日で全て投稿いたします。


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