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第7話 似た者夫婦

「こちら」ではどうか分からないが、「向こう」でのレオポルドの妻は「トスカ」という名だった。

 レオポルドと負けず劣らずの自由人で、好色な女性だったことを覚えている。

 レオポルドは非常に女癖が悪く、好き勝手浮名を流す男だが、トスカはそれを一切気にしない。

 彼女も、好き勝手をする女性だからだ。


「……奥様の名は……トスカ……殿、ですか?」


 ……一応、聞いてみる。

 レオポルドは「そそ」と頷き、私の顔を覗き込んで楽しげにほくそ笑んだ。


「その反応……『そっち』のトスカにちょっかいでもかけられた?」

「……まあ……」

「だと思ったよ。トスカが男のブラウちゃんを放っとくわけねぇし?」


 なるほど。「こちら」の世界のトスカもそうなのか。

 とはいえ、今の私は女性だ。以前の世界のように散々からかわれるようなことはないだろう。


「分かりました。お会いしましょう」


 トスカが面倒見の良い女性であり、味方にできれば心強いことに間違いはないのだから。




 ***




「なるほどねぇ。そりゃあ、厄介なことになったもんだ」


 私の腰をなぞり、トスカは悩ましげにため息をついた。


「でもアタイにとっちゃ、どっちも可愛いブラウだってことに変わりないよ。安心して頼りなぁ」


 心強い言葉ではあるのだが、私の胸を揉みしだきながらなのが気になって仕方がない。

 前言撤回。トスカは、性別すら気にしないほど奔放な女性だったようだ。


「あの、トスカ殿」

「何だい?」

「心なしか、ボディータッチが激しいように思うのですが」


 いや、いつもこんなものだったようにも思うが、今の「私」は以前と性別が異なる。


「いつも通りじゃないか。それとも、『そっち』のアタイは慎み深かったのかい?」


 ……なるほど。「こちら」でもいつも通りだったか……。

 とはいえ、私やお嬢様の性別が変わり、アルバーノの年齢が変わっている以上、トスカに何か変化が起こっている可能性はある。……あるのだが、今のところは見受けられない。


「相変わらず綺麗な目だねぇ。『(ブラウ)』たぁ、いい名付けだ」


 私の長い黒髪を撫ぜ、トスカは楽しげに目を見つめてくる。紫のベールの奥から覗く瞳は、紫か、茶褐色か……少し、不思議な色合いに見える。

 私の「ブラウ」という名は、両親に付けられたものではない。それだけは確かなことだが……名付けられた経緯については、記憶が曖昧だ。


 私には、お嬢様に仕える以前の記憶がほとんどない。

 人身売買の取引現場から拾われたのだ、と、情報としては聞いているが……詳しいことは何一つ知らないし、知る必要があるとも思わない。……記憶がなかったとして、職務遂行に不便が生じるわけでもないからな。


「……で、何を知りたい? ツラの良さに免じて、なんでも教えてやろうじゃないか」


 顔が近すぎるのが気になるが、まあ致し方ない。

 ただ、押し倒された場合は全力で逃げた方がいいだろう。

『向こう』での彼女は、確か元詐欺師だった。何を企んでいるのか分からない以上、警戒する他ない。


「そうですね……。まずは、『魔術』について、教えていただけますか」


 ボディーガードの役目を全うするに当たって、「魔術」はもっとも学習を急ぐべき事柄と言える。

 まず、仕組みを知らなければ、どうすることもできないのだから。

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