幸せ 【月夜譚No.18】
日記に綴った言葉は、決して嘘ではない。それなのに数日後に読み返してみると、どうしてかそこに書かれていることが夢物語のように思えてしまう。
数日前のことを忘れてしまったわけでもないのにそう思うのは、きっと毎日がまるで夢のように充実しているからだろう。
彼と――彼等と出会ってから、彼女の生活はがらりと変わった。希望を失い、暗闇の隅に蹲っていた彼女を、彼等は差し伸べた手で光の中へと引っ張り上げてくれたのだ。鬱々とただ時間が過ぎるのを待っていたあの頃が嘘みたいに、今は毎日が楽しくて仕様がない。
その毎日が未だに半信半疑のようで、時間が経つ毎にふわふわと夢に近い記憶になってしまうのだろう。けれどこれは現実で、日記に書かれたことは実際にあったことなのだ。
いつかこの毎日が、当たり前のこととして受け入れられる日がくるのだろうか。彼女はそんなことを思いながら、名を呼んだ彼の声に返事をして日記を閉じた。