異端人形は邪道を往く
『《ALTER STORY ONLINE》にアクセス中……ERROR!ERROR!ERROR!…CLEAR』
『貴方の適性を診断します』
『適性診断中……完了しました』
『貴方の種族が(異端人形)に決定しました』
『自己修復:Lv01、魔力吸収:Lv01、自己改造:Lv01、人形作成:Lv01、最適化:Lv01、機械身体:Lv01を習得しました』
『適性に応じてステータスが割り振られました』
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名前:(リウス・クライシス)
種族:(異端人形)
ステータス:
攻撃力1000 防御力1000 敏捷値1000
魔攻力1000 魔防力1000 器用値1000
スキル:
自己修復:Lv01、魔力吸収:Lv01、自己改造:Lv01、人形作成:Lv01、最適化:Lv01、機械身体:Lv01
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『ようこそ、《ALTER STORY ONLINE》へ!』
その言葉とともに俺はゲームの世界に降り立った。
どこからともなく爽やか風が吹き、純白の髪が靡く。
どこかに座っているようだった身体に力を入れ、立ち上がると同時に目を開ければ、ボロボロになった壁から射し込む陽光が視界を照らし、辺りのどこか近未来的な壁に苔が生い茂っていることから、ここがどこか古代の遺跡のような場所で、俺はそこにいるのだと分かった。
「…なるほど、俺のスタートはここなのか」
人の適性によってスタート地点が変わるこのゲームだから、どこでスタートになるのか気になっていたけど、俺好みな場所だ。
ふむ、それにしてもまずはなにをしようか。
このゲームは世界再現型のVRMMOだから、かなり自由度が高くなんでもすることが出来る。
だから街スタートじゃないと最初の行動に戸惑うんだが、俺は見事にそれに掛かったようだ。
とはいえ、ここにずっといるわけにもいけない。まずは周りを見回してみた。
辺りにはベッド、テーブル、クローゼットなどいったとちょっとした居住スペースがあった。
その中には姿見もあり、そこには俺…少し長めの白髪に青い瞳の少年が写っている。
自分の種族からして人形らしい要素が外見から伺えると思っていたが、そういった要素は特に見当たらない。
どうやら、(異端人形)という種族は内部構造はともかく、外見自体は普通の一般人と変わらないようだ。
「えっと、外に出る扉は…あった、あそこか」
自分の種族が容姿にそう大きな影響を与えないことを確認した俺は、今度はこの部屋から出る為に扉を探す。視界左上に表示されているミニマップを使えば、それの場所はすぐに分かった。
近寄り、扉を開けて外に一歩踏み出す。すると視界端のミニマップの表示が変わり、エリア名が『異端人形の住居』から『異端人形師の古塔』に変わる。
周囲を見渡せば部屋にあった人が通れるか通れないかの瀬戸際のようなザイズの亀裂とは違う、人なら同時に二、三人は同時に通れそうな亀裂を見つけた。
「ここの塔、一体どこまで続いているんだ?」
そこから身を乗り出して上を覗けば、先に延々と続く塔の姿が見えた。下にも地面が見えるくらいの高さではあるが、そこそこ高い位置に居るのが分かった。
これは登るほどじゃないにしろ、下に降りるのも苦労しそうだ。
まあ、上手く飛行手段が早々に手に入ればその限りじゃないがな。
(飛行手段か…、そういえば自己改造スキルを鍛えたら飛行出来るように俺の身体を改造出来るんじゃないか?)
思考の最中にその可能性に思い至り、一度頭の中を整理する。
この塔に出て来る敵がいるなら、この塔に迷い込んだ敵とこの塔に警備として作られた異端人形師の人形だろう。
それならば、この塔の中で飛行している人形が居ればそいつの飛行機構を自己改造で取り込めば飛行出来る筈だ。上手く使えなくとも数を集めて人形作成のスキルで俺用に変えればいい。
少なくともそれは人形のパーツであるのだから、人形作成スキルで弄くれるだろうからな。
となればさっさと外に出るなら、塔に迷い込んだ敵が増えていきそうな下へのルートに向かうよりも、警備の人形が増えるだろう上へ昇った方が良さそうだ。
「まあ、まずは階段を見つけないとな」
呟き、俺は無手のままで探索を開始した。
そうして、しばらく歩いていると通路の先に俺以外の動く物体を見つけた。
いや、正確には戦闘中と言った方が良いだろう。
通路の先に居たのは黒いオイルのような色合いで、べっとりした印象を受ける魔粘体生物と人型こそしているものの腕が剣になっていて顔のないのっぺらぼうのような制御を失った警備人形だ。
それぞれ頭上には少し削れた青色のHPバーが浮かんでいて、攻防を繰り返していた。
(HP的には若干スライムの方が優勢か…?だがこれは、人形の方が優勢か)
戦闘の状況としてはスライムが粘体の身体を生かして攻撃し続け、人形はそれを受けつつも果敢に両手で攻撃を繰り返しているといった風貌だ。
HPを確認すると人形のHPの方が多めに減っていて、スライムが優勢のように見える…が、これは見た目だけの話だな。
スライムには明確な弱点であるコアがあるようで、時々身体の表面に激しく動くオレンジ色の影が映っている。対して人形の方は、そのコアの位置がどこにあるか分かるようで、執拗にそのコアを追っかけて回していた。
執拗な攻撃に焦っているように激しくコアを移動させていることからして、あのコアは大切で明確に生命に関わるものなのだろう。
そう考えると人形の方はコアに一撃入れれば勝ち、スライムの方は人形を倒すまで叩き続ければならないということになる。
こうならば、どちらが優勢かなど一目瞭然だろう。
そんなことを思っていたら、ドールの一撃が核に擦り、スライムのHPがごっそり削れて、さっきまで優位が覆った。
これは時間の問題だな。
そう確信した俺は、さっとドールの方に近く付き、両手に魔力吸収:Lv01を発動させる。
そうすれば俺の手は淡い青色の粒子を散らし始め、その光を視認したスライムはずずっと身を引いた。
(なるほど、魔力を吸われるのは困るのか。となれば、本格的にドールから処理した方が良さそうだ)
拳を握り、未だにスライムに攻撃し続けるドールの頭にストレートで打撃を加える。
するとHPが思ったよりも削れ、魔力吸収を起動してから継続的に減っていたMPが回復した。起動時にごっそり持っていかれた分はまだまだだが、この調子なら十分元は取れそうだ。
そんなことを思いつつ、追加で背中に拳を叩き込み、思いっきり蹴り付けてスライムに顔面から突っ込ませた。スライムの身体に突っ込んだドールは、捕食本能為か身体を広げて拘束しに掛かったスライムに拘束される。それを見た俺は瞬時に目標を変更してスライムの核に直接魔力吸収を当てた。