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転生勇者は二度目の人生で斯くありける


…どうしてこうなったんだ。


壁に叩きつけられ、ボロボロになった体で地に這い蹲りながらオレは呆然と思った。

そんなオレの歪む視界にはここまで共に歩んで来た大切な仲間たちが身体中から血を流しながら倒れ伏し、ピクリとも動かない。

心はその光景に壊れそうなほどに悲鳴を上げ、ただただ負の感情になされるがままになっている。


そんなオレのもとに、カツン…カツン…と靴を鳴らし、それを成した元凶が傲然とした気配を滲ませ、近付いて来る。

視界にその元凶の漆黒のブーツが映ると、すぐに鋭い爪を生やす手に首を掴まれ、持ち上げられた。


「…うっ、がぁ…」


「ほう、まだ生きていたのか。ただの確認のつもりだったが、やはり勇者とはしぶといものだな」


持ち上げられると同時に傷口から血が溢れ、地面を血が汚す。血が抜けて力も弱まってくるが、反抗の意思は失くさないことを示す為に剣は取り落とさない。

そして、限界ギリギリの中、取り零しかける意識を縫い止めて意地で言葉を紡いだ。


「……なん…の、つも…り、だ」


「いや、特になんのつもりもないが?だがまあ、せっかくだ。最後まで生き残った哀れな貴様に一つ選ばせてやろう」


「はぁ…はぁ、なにを…、いって、やが…る」


笑みの気配を被る真っ黒な仮面に滲ませるそいつに、猛烈に嫌な予感がオレの中で膨れ上がる。


「なに、ただの戯れとして貴様に死に方を選ばせてやろうと思ってな。死にゆく『勇者』に『魔王』としての慈悲だ。ありがたく受け取るが良い」


「そんな…ものっ、いら…ねぇ、っ!」


「ふむ、いらないか。ならば貴様の仲間と同様に一思いに殺してやろう。なに、痛みは一瞬だ。安心すると良い」


そんなことを宣いながら、そいつ…魔王は開いている手に一般の光も無い漆黒の魔法弾を出現させ、オレに向ける。


「さあ、最も我が同胞を手にかけた勇者よ。我の前に立ったことを後悔しながら…


―その命を散らすが良い」


そして漆黒の魔法弾が放たれ、それにオレはなすすべもなく飲み込まれる。

かくしてオレは、聖剣を握りながらもただそれを見ていることしかできず、その命に終止符を打った。











…かに、思われた。


「う、うぁ、あ…どこ、だ?こ、ここは?」


全身がボロボロで動かないことに変わりはないが、なぜかオレは五体満足で生きていた。

ただし、その空間はどこを見渡しても真っ白であり、見覚えなんてものはどこにもない異質な場所であったが。


そんなオレのもとにどこからともなく声がかかる。


『哀れですね。これが勇者と呼ばれ、敵に恐れられ、味方には畏怖と畏敬の念を向けられたものの末路ですか』


そういうがその声に哀れみの感情は微塵も感じられない。ただ古代遺産の機械のように無機質なだけだ。


「だれ、だ?」


『貴方方が住まう世界[ゼルセディア]の管理者とでもいうべき存在です。まあ、俗に言う神さまみたいな存在とでも思って下さい』


「かみさ、ま?」


『あくまでも神さまのような存在です、そこお間違えなく。さてと、早速ですが勇者として、ある程度の戦績を示した貴方には3つの選択肢があります。一つ目はこのまま輪廻の輪に戻り、今の己を捨てること。二つ目は身体を万全の状態に回復させ、他の世界に転移すること。三つ目は人魔対戦が終戦して100年経った300年後のもとの世界に転生すること。どれを選びますか?どれをとっても多少の特典は付けますよ』


「それな…ら、3、で、たのめねえ…か?」


示された選択肢にオレは三つ目のものを選択した。

一つ目は仲間たちと交わしたいくつかの誓いの一つに反することになるから論外、二つ目にも興味はそそられるが、それよりも戦後にどうなったのかの方が気になり、最終的に3を選んだわけだ。


『わかりました。では死にそうですし、早速転生を開始します。余裕はないでしょうし、特典はランダムとします。詳しくは向こうで確認して下さい』


そして、それに頷くこともできずにオレの意識は暗転した。











意識が明転する。ぼやけながらも視界が映り始めた。

そこには幸せそうに微笑む二人が映っている。ぼやけているから男性らしき方が赤髪に翡翠の瞳、女性らしき方が青髪に青い瞳というくらいしかはっきりとはしないけど、二人が自分の両親であることは不思議とわかった。


その時、急にお尻に衝撃を感じて痛みが走った。それで、塞き止めることもできずに涙が溢れてくる。

ああ、これあれだ。生まれてすぐに泣かない赤ちゃんにするやつだ。

そう理解すると同時に、体の底から何かかが込み上がってきて、オレはその衝動のままに泣き叫んだ。






目が覚めると今度は真っ白な天井が視界に映った。

気怠いに体を動かして周囲を見回す。細部までこだわりの見られる優美な調度品に飾られた優しい白を基調とした部屋、落ち着いた雰囲気で安心感が感じられる構成だ。


(…それなり以上に裕福な家庭に生まれた見てぇだな。それも部屋の様子からして教会関係だろう。貴族にしては華美じゃねえし、商人にしては調度品自体が少ねえ)


家の身分に当たりをつけた。

位階はさすがにわからないが、質実剛健を主にする教会で、これだけの生活が出来るのなら大司教以上の位階なんじゃないかと思う。


まあ、当時とは状況が異なるわけだからオレの思う教会と違うものの可能性はある。とはいえ、オレが思っているのは当時最も盛況を誇った宗教だ。

この可能性は充分にあるんじゃないかと思う。


(ダメだな、さすがに300年後だけどれもこれも憶測ばっかだ。どうにもなんねえとはいえ、これ以上続けても意味がねえな)


そう思い考察は打ち切り、10歳の『授祝の儀』まで魔力やスキルなんかは使えないし、前世の知識の中から今からでも出来そうな鍛錬でも行っていこう。

そういうわけで、この日からオレの自己鍛錬は始まった。




自己鍛錬は、身体を鍛えるよりは器用さ…つまりは身体を如何に緻密に動かせるかを鍛える。体はこの鍛錬で結果的に多少鍛えられるかもしれないけど、これは出来るだけ控え目に、だ。

下手に鍛えると逆に悪影響があるらしいと聞くし、それにオレの持つ身体を鍛える知識は、前世の勇者としての身体があってこその無茶なものだ。転生の特典があるらしいけど、それは恐らくスキルの方だろうから身体を鍛えると言う方面ではあまり使える知識はなさそうだから、下手なことは出来るだけ避けたい。


(特に肩に筋肉が付くと身長が止まるって話じゃねえか、身長はそのままリーチになる。それだけは避けてぇ)


赤子特有の動かしづらい手と足の指でグウとパーを繰り返し、動かすことに身体を馴染ませながら思考を巡らせる。それも出来るだけ集中して行う。動作と思考の両立は並列思考の、集中しての思考は思考加速の、それぞれのスキルの感触を思い出しながら使う。


スキルの鍛錬は出来ないけど、でも優秀なスキルを身に付けるのに必要な前提条件を満たすことは出来る。思考加速はゾーンと呼ばれる超集中状態を体験することが、並列思考はスキル無しで充分な並列思考が出来ることが、それぞれ条件になっている。だから今は、改めてそれを満たしている最中だ。

他にも今の年齢でも出来ることは色々とあるから、10歳まではそれをこなして行こうと思う。


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