勇者がロボットバトルしちゃダメですか?
「シェルさん、シェルさん、お久し振りです」
「…ん?おっ、フェルミナか。久し振り、急にどうしたんだ」
「セツナさんに用があって来たんです。今お家に居ますか?」
お茶を飲みに自室の二階から一階へ降りてくると、そこで居候の背の高い赤髪の青年…シェルリアスと見覚えのある小柄な白髪の少女が話している光景が目に入り、俺は一瞬で回れ右した。
だが残念かな、かなり近くまで行ったせいでバレてしまったらしい。回れ右して階段を登ろうとしたタイミングで[縮地]で一気に距離を詰めたシェルリアスに首根っこを持ち上げられてしまった。
「丁度良かった。フェルミナ、セツナが二階から丁度降りて来たぜ」
「…離せ、シェルリアス。今の俺は勇者稼業休業中で、親友とのゲーム中だ。依頼を受ける気はないぞ」
「まあまあ、とりあえず話しは聞いとけよ。あっちだってお前が休業中なのは理解してんだから、余程のことがないと来ないと思うぜ」
それでも駄々を捏ねようとすると、「いいからいいから」と言われて強引にソファーの上に座らされ、そのまま両肩を押さえつけられた。
それもパワー型の勇者の力を遺憾なく発揮して抑えている。おかげでソファーのスプリングが悲鳴を上げているくらいだ。
もうこうなって仕舞えば、スピード型の、俺にはどうすることもできない、完全に逃す気のない体勢だ。
「はぁー…、分かった。とりあえず話は聞く。だからこの手を離せ、本気で骨が折れる」
「そうそう分かればいいんだよ、分かれば。んじゃ、俺はお茶持って来るから逃げんじゃねえぞ」
「分かった分かった」と言ってシェルリアスを追い払い、一緒にゲームをしていた親友に用事が入ったと連絡を入れて、白髪の少女…フェルミナに向き直った。
「では単刀直入に言いますね。…予期せぬ世界が発生しました。それによって予期せぬ転移事故が多発していますので、それの阻止の為、セツナさんには現地の捜査をして頂きたくて今日はここに来ました」
「予期せぬ世界?なんだそれ、新しい神でも生まれたのか?」
「それなら良かったんですけどね。どうも、そういうわけじゃないみたいなんです。ほら、最近人気のファンタジー要素のあるVRロボットゲームがあるじゃないですか?」
「あるな、というかさっきまでやってた」
最近人気のファンタジー要素のあるVRロボットゲームこと、《ROBOTICS REVOLUTION BATTLE》…通称:ロボレボは数ヶ月前に発売開始した話題沸騰中のゲームで、俺もプレイしているんだが、それがどうかしたのだろうか?
「どうも件の世界は、そのゲーム内での強い感情エネルギーの爆発によって生まれた模倣世界みたいなんです。そのせいか、やけに不安定でそれを補う為にこの世界から住民を呼び寄せているみたいなんです」
「なるほど、予期せぬ転移事故はそれが原因なのか。それで、何を探す必要があるんだ?捜査っていうなら何を探せば良いのかは分かってるんだろ」
「はい、その世界の核を担っているものを探して欲しいんです。そこにこの世界から必要最低限のエネルギーを送り込んで、転移事故の原因を無くす為にその世界を安定化させますので」
ここまで話した時点で俺の心はほとんど決まっていた。チョロい言うなかれ、こう言う事態はそれに関係しているものが巻き込まれやすいと相場が決まっているのだ。つまり、ロボレボをプレイしてまっている時点で、俺はもうこの事態に関わらざるを得なくなっている。
というか、何かと巻き込まれやすい星の下に生まれてしまっている親友が心配だ。
今までは奇跡的にこういう事態には巻き込まれていなかったが、今回こそ巻き込まれかねない。だから、そんなことが起きる前にこの事態を収束させなければ。
「分かった、今回は私情も絡んでることが判明したし、すぐに向かう。準備を整えるから、転移門を用意しておいてくれ」
「分かりました、ではいつも通りの場所に転移門を設置しておきます。それでは、ご武運を祈っております」
そう言ってフェルミナが立ち上がったのを見て、俺も動く。装備一式は部屋に置いてある、さっさと持ってこよう。
一つ問題があるとすれば、向こうはロボレボが基になった世界なことか。ロボバトルが戦場の中心になっているんだ、生身でどれだけ対抗出来るか…。
「仕方ない、いくらか財布から崩すか。メインコアさえ購入出来れば、後は戦場漁りでもして手に入れた素材で何とかしよう」
いくら勇者と言えども、俺も一人の人間だ。
生身でロボレボのロボ…人機装と戦いたくない。その為だったら、今まで貯めて来た財布の中身を使ってやろう。
「おっと、もう話しは終わったのか?」
「俺にも関わりがあることが分かったからな、受けざるを得なくなった」
「なるほどな。あ、っていうことはお茶は要らんかったか?いらんなら俺が飲むが」
「あー、俺の分は貰う。フェルミナは地下にいると思うから本人に聞いてくれ」
「ほいよ、これがお前のやつだ。そんじゃ、ちょいと言ってるくるわ」
自室に戻る途中、戻って来たシェルリアスからお茶の入ったコップを受け取り、シェルリアスが地下の方に行ったのを見送って、お茶を飲みながら階段を登る。
そこで持っていくものを考えた。
とりあえず、財布から幾ばくと護身用の太刀、財布の幾ばくを向こうのクレジットに等価交換する為の使い捨て錬成陣、それに非常食用の丸薬は確定として…、あとはどうするか。
自室に戻るまでに考え、持っていくものは以下のものに決めた。
・500万円
・護身用の太刀
・護身用の太刀の予備
・太刀の整備道具一式
・工具一式
・使い捨て携行錬成陣×5
・栄養満点で無味無臭な丸薬×5袋
・水筒×2
・鉤爪×2
・救急箱
一本の太刀は腰に帯び、一本は邪魔にならないように背負い、鉤爪と丸薬の入った袋はリュックサックの外側に下げ、太刀の整備道具一式と工具一式が入った道具箱、救急箱、水筒の順番でバックに詰める。
使い捨て携行錬成陣はポケットサイズのケースに折り畳んで入れ、ポケットの中に突っ込んだ。
ある程度のメインコアを買う為の500万円を入れたキャリーバッグを引いて、地下に向かう。
「転移門も大分不安定だな…、思ったよりも急がないと行けなさそうだな」
家の地下に降りて歪んでは元に戻り、戻っては歪むと言った具合に不安定な様相を見せる転移門を見て、俺は呟いた。
見た感じ、フェルミナの技量と魔力で無理矢理に安定されているような感じだ。
世界の核探しは、思ったよりも急務になりそうだ。
そう思い、俺は門の先に踏み出した。
「えっ?景色が逆?」
ドカンッ
「痛ぁーっ!」
荷物の重さもあってか、地面に叩きつけられて結構な音がなった。ズキズキと痛む頭を押さえて、上体を起こす。風景がぐわんぐわん揺れているが、脳震盪でも起こしたか?
とりあえず、バックを地面に下ろして後ろに倒れ込んだ。ダメージとしては俺の強度的に大丈夫だろうけど、衝撃で脳震盪みたいになってるのが結構辛い。
「うあー、一体何が…、あ、把握した」
何があったかはすぐに分かった。
こっち側に存在している転移門が、歪んだ状態から門の形に戻るたびに門の方向を変えているのだ。
こんなんじゃ、転移のタイミングが悪ければ頭から落下することにもなるな。
「はぁー、まあいいや、とりあえずクレジットに還元してしまおう」
原因が分かったならもうどうで良い、近くに落ちていたキャリーバッグを回収して、この世界の法則に合わせるように使い捨て携行錬成陣を調整してキャリーバッグに貼り付けて、等価交換開始。
この世界のクレジットは、全部この世界特有のカードに保存されるからこっちの世界に合わせて錬成しないと行けなんだよな。こっちは完全なキャッシュレスなわけで、それがないと生きていけないし。
というわけで、キャリーバッグはそのカードに、500万円は内部のクレジットに変換し終えた。
「さてと、じゃあ適当な街にメインコアを買いに…、んん?ちょっと待てよ、ここ、『ラウル戦野』じゃないか?」
『ラウル戦野』とは、このロボレボ世界の大国ヴィーリル帝国とシャルガフ王国の中間地点にあり、この二国の争いの中心地となっている広大な荒野のことだ。
今は何も起こっていないことから見るに一時的な停戦状態のようだが、戦力の拮抗している二国の主戦場となっている地点なんだ、時期に再開するだろうな。
まあ、それはいい。いや、このままだと俺も巻き込まれるから良くないけど、それは後で考えるとして…
「ここなら良質な素材が集められるよな…?というか、運が良ければ主戦力級の装甲も可能性があるし、メインコアも残骸から作成出来るほど見つかるんじゃないか?」
ここが激戦区であり、ゲーム時代から危険だが行く価値のある採取ポイントであったことの方が重要だ。
と言うわけで、戦場をハイエナの如く駆け回ることにした。
そうと決まれば話は早いもので、適当な洞穴を探してそこの奥に太刀一本以外の荷物を置いて、主戦場に繰り出す。
そして人機装の装甲の残骸をメインに、搭載されていたシールド発生装置の残骸、白兵戦用兵装の残骸、高速機動用のブースターの残骸、などなどの機体に必要な素材を片っ端から拾い集めた。
「ふぅー、これだけあれば十分だろ」
積み上がった素材の山を見つめて一息つき、早速作業に入る。
まずは作業台作り、洞穴の壁から石を切り出して、それを溶かした金属を入れる用の釜、人機装のそれぞれのパーツ型にした金型、そして一番重要な簡易溶鉱炉、それぞれを作り上げた。
次は完成した溶鉱炉の内の温度を魔法で火を起こして、それに常時酸素を供給するようにしてガンガン上げていき、溶鉱炉自体が溶けないように俺の魔力で補強、それでしばらく待ってから試しに適当な装甲を投げ入れ、それが溶けたのを見て、必要な機構を持っていない残骸を次々に放り込む。
全部溶けたらそれを釜の中に移し、携行錬成陣を貼り付けてそれぞれの金属ごとに釜ごと分けて、それが固まらないように溶鉱炉から熱だけを供給していくのも忘れずに行う。
続いて、それぞれの金属が何が調べて、現在の素材でパーツごとに合った合金をゲーム知識から選択、その合金を作成する割合で、それぞれの金属の液体を金型に流し込んでいく。
それが終わったら、そこに流れる空気を流れを断ち、パーツに使われる金属が酸化しないようにし、人機装に必要な機構の作成に取り掛かる。
まずは戦場に於いて必須のシールド生成機構、今作成している機体は、防御は二の次の敏捷性重視になる予定だから、シールドは防御の要になる。
とはいえ、敏捷性重視の仕様だからあまり大型のシールド発生装置は取り付けることが出来ないから、小型で低出力低燃費のあまり強くない常備シールドと、小型で高出力シールドを展開出来る代わりに、かなりの早さでオーバーヒートしてしまう半ば使い捨ての緊急用シールドを残骸から作成した。
あとは共食い整備の要領で、多数のブースター、それに高出力レーザーで刃を生成する白兵戦用兵装を修理した。
残るはエンジン…というかメインコア、これも共食い整備で多数から二つに修繕して、そこから携行錬成陣で二つを一つに上位変換、多少大きくなったが、出力が上がったメインコアが完成した。
こうなればあとは簡単、全部への魔力供給を終了してバックから工具箱を取り出し、作成したパーツの組み立て作業を行なっていく。
そうすれば、ものの数時間で全長5メートル程度の人型の人機装のフレームが出来上がり、そこから更に数時間で装甲以外のパーツ…つまり内部機構の組み込みが終わり、そこから更に数時間で機体は完成し、俺の目の前に白の装甲に覆われた細身の人機装が誕生した。
「さてと、ちゃんと起動するかな?」
胸部の装甲を開き、そこにある操縦席に座る。
手と足を所定の位置置いて固定、手を触れさせている場所に魔力を流せば、それはメインコアに流れ込む。
そうすればメインコアは起動し始めて、俺から流された魔力を増幅して機体の全身に行き渡らせて行く。
そして、機体の全身に魔力が行き渡り、各種機構が稼動を開始したタイミングで…、
「感覚同調、リンク開始」
『感覚同調システムを起動します』
人機装のメインシステムを起動させた。