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最終話後の英雄は新たなる物語にその名を刻む〜現実世界にエンドコンテンツは結構です〜

 白銀と黄金の薔薇が咲き乱れる最果ての地で、灼色を帯びる無数の魔法の弾丸…魔弾がそこにいる五対十枚の灰色に淀んだ翼を広げ、ひび割れた光輪を頭上に浮かべる鎧姿の巨大な人型に殺到する。

 それを成した魔弾の射手はゴーグルを付け、緋色の装飾が施された金属製の黒い軽鎧の上に黒衣を纏い、緋色の拳銃を二丁構える黒髪緋眼で高校生くらいの少年…俺だ。


しかし、その無数の弾丸で張られた灼色の弾幕は巨人が軽く腕を振るい、あっさりと砕いてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ…ふぅー」


荒い息を整え、深く息を吐く。

あの弾丸はさっきまで確実に聞いていたのに突然あの様だ。俺のゴーグル型の解析器が叩き出した大幅な性能の向上は故障ではなかったようだ。


『GAAAAAAAAAAaaaa!!!!!』


「…なるほどな、理性を代償に超強化か。とんだ生への執着心だな」


堕天一歩手前の鎧の天使が上げた咆哮に、俺は事情をなんとなく察した。

こいつは生き残る為に理性を捨てて自身を強化したのだろう。これではまるでゲームやアニメのような話だが、随分と厄介なことになったものだ。


だがまあ、それの対策が無いわけじゃない。


俺は拳銃の片方に純白の弾丸を込めて何もない場所にその弾丸を撃つ、そうすれば銃口の先の空間が歪み、そこに腕が一本入るくらいの大きさの時空を繋ぐゲートが現れた。

そこに腕を入れて煌々と緋色の光を放つ俺の身長ほどの長さがある一本の長槍を取り出し、少し表情を歪めて俺は呟く。


「…あいつは、こうなることを見越してこれを俺に渡したんだろうか?」


それは、神々の黄昏(ラグナロク)のキッカケとなった光の神バルドルの死を引き起こした宿り木の名…ミストルティンの銘を冠する槍だ。

これを俺に渡した作製者が信用のならないやつだという点やその槍を頼らないといけないというところ、ついでに神話の出自が俺の表情を歪めさせるが、俺の手札で突破出来ない以上、やるしかない。


銃をホルスターに収め、槍を構えて最後の啖呵を切る。


「さあ、泣いても笑ってもこれで最後だ。自らな狂おうとも生に執着する哀れな鎧天使よ、我がもとに沈め!」


そうして俺は地を蹴り、俺にとっての最終の決戦に向かった。




…結果については、まあ、特に何も起こらず、なんの問題もなく終わったと答えておこう。




それから数日の時が流れた。

この日、俺はバイクを駆って引越し先の新たな街に向かっていた。荷物はすでにその新たな街での住居に送ってしまっていて、あとは俺が向かうだけなのだ。

そんな俺が向かう先は東京湾の沖合に建設された東京の数倍のサイズの超巨大航空母艦『異星』のその上に建築された世界有数の技術都市にして、数々の異能事件が巻き起こる異能都市である『黎明』、その中心区画だ。


これは自分の物語を終えた一人の英雄が、魑魅魍魎が渦巻く『黎明』の名を持つ街で、それぞれの物語を終えた英雄たちと紡ぐ新たなる物語だ。






「ようこそいらっしゃいました、『緋色の弾丸スカーレット・バレット』の 黒空(クロソラ) (アケル)さんですね?」


バイクに乗って本土と『異星』を繋ぐ橋を渡り終え、『異星』に到着した俺は、ヘルメットを脱ぐと同時にやたらと長大なライフルを背負った黒い軍服姿の女性に話し掛けられた。


「えーっと、はい、そうです」


「ではこちらへどうぞ、貴方がこれからお住まいになられる『黎明』の中心区画までお送り致します」


素直に答えるとそう言って手でその先にある一台の車が示された。

何度か高級車には乗ったことがあるが、雰囲気、材質、黒塗りの色艶、どれをとっても外よりかなりレベルが高い。


しかも、装甲として見てもかなり高位のもののように感じる。俺のバイクほどの性能はないだろうが、こちらでも十分に高級車なんだろう。


どちらにせよ、俺の送迎には過ぎた車だ。

まあ、乗らないから関係ないけどな。


「いえ、結構です。そもそも送迎は事前にお断りしたはずなんですけど」


「と言われても上層部からは厳戒態勢で送迎するように言われているのですが…、うーん、そうですね。だったら、せめて護衛だけでもさせてくれませんか?」


「それ、俺のバイクに追いつけますか?確か、ここって法定速度とか無制限で好きなだけ速度出して良いんですよね」


本当の意味で自治権が与えられている『黎明』の都市では、一般人の法律とは別に俺たちのような英雄の専用の法律が制定されている。


そのうちの一つとして、法定速度を守っていない速度で走る時、一般人相手に事故を起こせば通常よりも重い罪が与えられるが、乗り物の速度制限が設けられていないというものがある。

今俺は、それを使って全速力で『黎明』の中央まで向かおうとしているのだ。


「なら、私が単体でついて行きましょう。どうせ、中央区画に入るには私がいなければなりませんし、あんな鈍いのより遥かに速いのを持ってきているので」


「はぁ、わかりました。そういうことなら、断りませんよ」


「そうですか、それなら良かったです。それでは少し待っていてください」


そういうとその女性はどこかへと足早に向かった。

気になって視線で追いかけて、その先を見てみれば俺のバイクに匹敵するほどのモンスターバイクを部下らしき小柄な女性から受け取る彼女の姿が見えた。


………もう少し揉めることになると思ったがさっさと代案を出されてしまい、決定してしまった。しかも中央区画に入るのにこの女性の協力が必要なら断ることは出来ない。

というか、ここまでスムーズならもう、これは折り込み済みだったまであるだろう。事前に言われていた送迎はもとより断っていたわけだしな。


明らかに折り込み済みだったことに思考を読まれているような気分になりつつ、現実逃避気味にそんなことを考えた俺は戻ってきた女性にいっそのこと尋ねることにした。


「…もしかして最初からそのつもりだった?」


「さあ、なんのことでしょうか?」


そう言って向けられた笑顔に肯定の意を感じ、俺はそっと溜息を吐くのだった。


こうして俺は一人の英雄である天性のスナイパーと出会った。そしてこの出来事は、これから始まる序章の始まりの出来事となる。






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