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転生剣士の異世界TS令嬢録〜

「自分は周りと変わっている」

そんな考えを持ったことはありませんか?


些細なことから大きなことまで、精神的な気質に、身体的な特徴、才能なんてものもあるかもしれない。

あるいは蓄積された経験から構築された性格、人格と呼ばれるそれが、他人とは決定的に異なっている場合もあるかもしれない。


そんな中でこれは、「現代の剣聖と呼ばれた日本の青年」、「最高の剣士と謳われた戦乱の王子」、その二つの経験を一つの人格で体験した少し変わった剣士が、機械獣と呼ばれる暴走した機械が溢れる世界に、少女として転生した物語だ。









「俺は少し変わっている」、そんな考えを持ったのはいつだっただろうか?

1度目の人生であったことは覚えているのだが、それがいつであったか、まるで覚えていない。初めてこの手に剣を握った時?それとも初めて剣を習った時?

もしかすれば、初めて出来たライバルとも呼べる、あの「なにかが足りない」といつも言っていた友人と言葉を交わした時だったかもしれない。


たが、それがいつだったにせよ。

高校生になる頃には息を吸うように剣を振るい、思うがままに体を動かす、そんな隣に並ぶ者がいなくなっていた俺の中には、自分が一人の人間であるよりも先に、剣を極めんとする一人の剣士だという認識があった。


「その犠牲か知らんけど、表情筋が死んでるけどな」


何時ぞやに思ったことを夢の中で思い出した俺は、起き抜けざまに鏡に映る自分の動かない表情筋を見て、思わずそう呟いた。


スッと通った鼻筋に切れ長の青紫の瞳、眉は元々の形が綺麗な上に整えられていてクールなイメージを際立たせている。桜色の唇はやや薄いように見えるが形が良く柔らかそうで、顎のラインはシャープな線を描いていて美しい。

ネグリジェの下に見える女性らしい柔らかな印象を残しながらも引き締まった身体付きは、俺が女性らしい高い柔軟性を残しながらも鍛えた努力の結晶だ。


「お嬢様、おは…ちっ、相変わらず美しいボディしてやがりますね。羨ましい限りですよ」


そうやって鏡を見ていると、音もなく扉が開き、俺専属のメイドのユーリカ・アティナが入ってきて、盛大な舌打ちをした。


口調をよそ行きのものに変えて、そんなユーリカに言葉を返す。


「おはよう、ユーリカ。そんなこというのなら、貴方も私と鍛錬する?」

「そんな暇ありませんよ、映えあるレティリーナ・パレンスティア様の専属メイドは忙しいんです」

「私の我儘といえば罷り通るのだけど、素直に言いなさい。嫌なのでしょう」

「はい、嫌です。だってお嬢様の鍛錬、常軌を逸脱してるじゃないですか」


まあ、確かにそうだ。柔軟重視のトレーニングだから前世よりも負荷的には緩くなっているものの、剣の素振りから始まり、全身にバランス良く負荷が掛かるように考えながらあらゆる方向に剣を振り続けるのだ。

全身に重りを付けて高負荷をかけていることもあって、かなり辛い。


何気に鍛えているこのメイドでも嫌がなるのは普通に分かる。

まあ、剣を振ることに関していえば俺にとって一切の苦痛ではないので、この世界に生まれてからは苦痛なんて無茶なトレーニングよって生まれる筋肉痛くらいだ。


「確かにそうだけれど、それなら多少負荷を軽減してやればいいじゃない。貴女くらい優秀なメイドなら短剣くらい扱えるでしょ」

「まあ、確かにそうかですが、王宮のメイドほどじゃありませんよ」


その言葉に思わず首をひねった。王宮に仕えるメイドは給仕の技術を主としている。

護衛の術として短剣の技術も習得しているがそれは、そこに訪れる上級貴族や豪商などの富豪、そこに住まう王族を見に変えても守る捨て身的なものだ。


普通に腕を上げているこのメイドが、技量で負けているとは思えないのだが。


「…もしかして、本業の技術のことを言っているのかしら?貴女がなかなか面白そうだと思ったから専属したんだから、そんなこと期待してないのだけど」

「ひどい、私を本業で期待しないなど、私ほど瀟洒で慇懃なメイドなどいないというのに」

「ああ、そう、どうでもいいわ」


何かほざいたユーリカの言葉をバッサリ切り捨てて、着替えの為にクローゼットを開けた。すると、うちの専属メイドは俺の視線の動きだけで、俺がこれにしようと思った黒のドレスを運んで来た。


「ありがとう」


お礼を言ってドレスを受け取り、ユーリカに手伝って貰いながら着付けた。

別に一人でも着られるのだが、ドレスというのは着るのはとても面倒なのだ。公爵家のメイドともなれば、視線から欲しいものを運んで来るのも、衣装を来つけるのも、当然の技能らしいのだが何気に凄い技だ。


まあ、王宮に行くと雰囲気だけでそれを察してやるメイドがデフォルトらしいので、本人曰く自分はメイドとしては一流止まりらしい。

そんなことを思いながら、薄く青を帯びて輝く自分の銀髪をポニテに纏め、口を開く。


「さてと、今日は辺境への視察に行く日だったかしら」

「ええ、そうですよ。辺境のお姫様が今度は私の家に来て下さいと招待状を送って来られました」


この前、王城で知り合った王国の辺境の守りを担う珍しい黒髪の少女を思い出す。

古代の遺物たる機械の獣が闊歩する今の世で、特に機械獣が多い、人のテリトリーの外から内の王国を守る戦姫、それが俺に招待状を送った彼女…リリアーラ・シュバルツだ。


王城で知り合った後、私の屋敷に招いて談笑したのだが、きっとその時の言っていたセリフを実行に移したのだろう。


「移動に魔導駆動車は使ってもいいかしら?」

「はい、既に許可は下りておりますよ。ええ、駆動二輪も二機搭載済みですので、いつでもいけますがどうします?」

「なら、すぐ行くわ。屋敷のみんなには伝達してあるんでしょ?」

「もちろん、当然ですね。さあ、さっさと行きましょう」


音頭を取ったメイドの姿に内心苦笑いしつつ、機械獣に対抗する為の魔導強化装衣(マギア・パワード)の効果を劣化版ながらも持つ外套を二着持って、車庫にある一台の装甲車の元に向かった。






ガタゴトと揺れる装甲車の中で、車内に置かれた魔導駆動二輪の整備をしつつ、徐々に悪路になって行く辺境へ続く道を行く。

辺境へ行くほど機械獣の被害が増える為、道が整備されていないのだ。


魔導駆動二輪…あー、もう面倒い、魔導バイクでいいや。魔導バイクの整備をしているのは、まあ、念の為だ。


「ふぅー、こんなもんかな」

「お疲れ様です、どうでしたか?」

「全く問題よ、いつもはどこかしらに不備があるのに珍しい話だわ」

「そうですか、やっぱり整備士を変えて良かったですね。前のあの整備士、多分、パレンスティア本家から嫌がらせですよ」


その言葉に頷いて答えた。

面接で止められていたあの女性を雇って正解だった。面接官をしていたのが、実家から送られて来た奴だっただけに信用していなかったのだが、優秀な人材まで堰き止めていたとは思わなかった。


まあ、おかげでそいつを実家の方に送り返す口述が出来た上に、前から警戒していた奴を解雇出来た。

結果としては万々歳だが、やっぱり実家の嫌がらせは面倒くさいな。


「いっそのこと潰してしまいますか?王妃様に言えば、あっさりと潰してくれると思いますよ。最近のあの家からは色々と黒い噂が絶えませんし、悪事の証拠も色々と掴んでいますから」

「駄目ね、こっちはこっちで公爵並みに力のある侯爵に成り上がってやったけど、あそこは腐っても三公家の頂点よ。せめて家を弱らせるか、大公爵様を味方につけないと馬鹿にならない影響が出るわ」


本家とは思いっきり敵対しているが、それでも同じ苗字を持つ関係上、新興である俺のパレンスティア侯爵家はあの公爵家の傘下になるのだ。

だから、なんとかしてうちの家に本家以上の力を持たせるか、三公家以上の力を持つ大公爵の傘下になるかしないと、家にも影響が出てしまう。


一人の家ならそれでもいいのだが、貴族家である以上雇用主でもあるのだ。

何人もの人生と信頼を背負う立場にある以上、こちらに従順な雇用者を路頭に迷わすわけにはいけない。


「はぁ、いろいろ見るに耐えなくて独立したけど、これなら大公爵様に雇って貰ったかも知れないわね。やっぱり人材を雇うのって面倒だわ」

「お嬢様、それなら大公爵様に断られていたじゃないですか。『お前ほどの逸材の制御など誰にも出来ぬ、大人しく貴族にでもなっておれ』って」

「…そうね、私はただ剣を振っていたいだけなのに」


ユーリカの上手過ぎる声真似に、当時に事を思い出してげんなりしてしまう。

あの王国最強ロリババアがそんな事を言ったせいで、国王陛下が実際に俺に伯爵の地位を与えてしまったのだ。そのくせ、傘下に入ろうとすれば「もう少し、貴族として実力を伸ばせ」というし、領地を持たない貴族にこれ以上一体何を求めているんだよ。

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