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AWS

徐々に崩壊して行く世界の中、恐ろしい速度で何度も影が飛び交い交錯する。

それは自身の目的の為の手段として世界を壊そうとする者と自身の為にそれに真正面から抗った者の戦い、理不尽をさらなる理不尽で押し潰し、気に食わない不条理を覆し続けた者同士の戦いだった。


数瞬に彼らが持つ得物が何重ににも衝突し合って美しき闘争の歌を奏で、彼らが放つ魔法が炸裂するとともに身体を突き抜ける衝撃音がそれを彩る。

それは真の強者のみが奏で、聴くことが出来る、一つの完成された音楽だった。故にこの戦いで傷つくもの誰もおらず、何もない。

なぜなら彼らの得物は衝突こそすれ、互いの圧倒的技量故にどちらにも攻撃が当たらず、攻撃以外に決して変換されることのない力もまた、どれだけその攻撃が強力であろうとも、その攻撃に見合っただけの強烈な余波を生じさせることはないのだから。

そうして、その戦いは延々と終わらずに続き続けた。

ただ永遠の終焉に向かう世界を背景にして…。










俺…破界(はさかい) (りん)は、一週間前の正午から配信開始となったフルダイブ型VRMMO《ANOTHER(アナザー) WORLD(ワールド) SITUATION(シチュエーション)》通称AWSに午前で学校の終業式が終わり、夏休みが始まった今日、初めてログインした。

夏休みの課題は配布された三日後には全部終わらせてある。というわけで、夏休みはAWSをメインにゲーム三昧の日々を過ごす予定だ。


さあ、事前登録数がエグいことになってるこのゲーム、目一杯楽しませて貰うぜっ!


『Now Loading……初回ログインを確認しました。キャラクタークリエイトに移行します。

…作成済みのキャラクターが確認されました。このキャラクターを使用しますか?』


そんなことを考えてるうちにも話は進んでいき、にいつのまにか目の前に『はい』と『いいえ』の選択肢が浮かんでいた。

やっべ、話聞いてなかった。

すぐに選択肢の上に表示されている問いを読み、『はい』を選択、ついでにログも読み返す。


その数秒にも話は進み、俺が事前に作ったアバターである赤いメッシュが入った銀髪に真新しい血のような赤眼で灰色の野戦服を纏った目付きの鋭い青年が『このキャラクターでよろしいですか?』という再確認の言葉と『はい』『いいえ』の選択肢とともに表示されていた。

もちろん、返事は『はい』だ。厨二病全開だとからかわれそうだが、ゲームは自分が楽しんでこそだよな。


『続いては能力(アビリティ)選定です。適性検査を行いますので、指示に答えてください』


このゲームのスキルはここで手に入る五つが全てだ。

これは公式がHP(ホームページ)で公言していることなので確かだ。だけどこれが厄介で自分で選択するのではなく、適性検査の結果で能力(アビリティ)が決まるのだ。

つまり、ここは好きなようにキャラを弄れない。


だからここは完全に自分の適性を信じるしかないんだ。というわけで銃器や魔法が使いたいから頼むぜ、俺の適性っ!






結果…

〈武器適性:銃〉〈武器適性:剣〉〈魔法適性:火〉

〈成長適性:力〉〈成長適性:速〉


よしっ、やったぜっ!


この二つなら昔取った杵柄っていうやつがある。

個人的にも好きな武器だし、それを引くとか、さすが俺だなっ!(自画自賛)。

…いやまあ、昔一通りの装備試した結果でその二つに絞ったんだから、あって当たり前って言ったら当たり前なんだけどな。


『チュートリアルを受けますか?

※『いいえ』を選択してもヘルプから同じ内容のチュートリアルを受けることが出来ます』


チュートリアルは『いいえ』でスキップ、説明書は穴が空くほど読んだし、公式HP(ホームページ)も腐るほど読んだ。

だから、きっと大丈夫だろ…多分な。


『それでは、《ANOTHER(アナザー) WORLD(ワールド) SITUATION(シチュエーション)》の世界をお楽しみ下さい』


その言葉とともに世界が白く染まっていく。

そして、一際強く白い光か瞬くと同時に俺は《ANOTHER(アナザー) WORLD(ワールド) SITUATION(シチュエーション)》の舞台となる仮想世界『シェヴァンス』へと旅立った。






『遥かなる昔、神代と呼ばれていた時代より…』


始まったOP(オープニング)は何度も見たものだからカット、大雑把な世界観設定は頭の中に記憶してるから必要な時に思い出せばいいだろう。

そもそも世界観を知りたいなら、図書館を訪ねる方が推奨されてるから、わざわざOP(オープニング)は見なくて良いって運営が言ってるしな。


そして一瞬の浮遊感、気がつけば俺は見知らぬ街の広場に立っていた。

続き、視界のど真ん中に文字が浮かび上がる。


"始まりの街【ニユラ】・中央交遊広場"


さて、ここから始まりだな。

早速、思考操作でインベントリを開いて初期アイテムとして入っている初級体力回復ポーションと初級魔力回復ポーションをショートカット枠に登録して、ワンアクションで呼び出せるようにする。

あとは最初から装備欄に入っている初心者用装備を外して、マップを確認する。

向かう先は武具屋だ。初期装備は課金してまで作成したアバター装備の野戦服があって、インナーオンリーの変態野郎にはならないから売っ払ってワングレード上の武器を買うのに使うつもりだ。


ちなみに買うのは、銃の方が優先順位が高くになる。初期装備の武器は短剣で適性が一切関係無く装備出来るが、一応、分類としては剣に入るらしいからな。


カラン カラン


そうして、考え事が終わる頃には目的地の武具屋に到着した。扉を開ければ客の来店を知らせる鈴が鳴る。

俺以外の客は何人か居るが少ない、サービス開始当初はかなりの大混雑だったらしいから、もしかしたらしばらく置いたのは正解だったかもしれない。


「えーっと、銃のコーナーはどこだ…?」


さてと、銃を探すまでにこの世界の銃について再確認しよう。さすがに現実(リアル)と同じ銃だとそのうち通用しなくなるから、ここの銃とは差異があるしな。


まず前提としてこの世界の銃は物理攻撃と魔法攻撃、それに物魔混合攻撃の3パターンを切り替えて使うことが出来る。

その為、銃のマガジンには普通の銃弾と魔力を装填する場所が二つあって、それぞれの装填数は現実よりも半数より少なくなっているが、この銃の真骨頂はそれではない。というか、モード切り替えに関しては節約の便利機能であって本命の機構じゃない。

本命の機構は物魔混合の物理弾と魔法弾の完全同時に発射になるのだが…、っと、ここで見つかったか、丁度いいし、実物を試しながらにしよう。






「すいません、これの試し撃ちよろしいですか?」


「それならいくらでもいいですよ〜、試射場はあちらですのでそちらをお使いください〜」


一丁の拳銃を手に、カウンターに向かって店員さんに試射場の使用許可を貰った。なんかぽわぽわした人だったけど、動きの最適化が並みじゃない。

魔力は近接戦に必要な最低量といった感じだったけど、武器なら大体高水準の扱えそうだ。


まあそれはいいとして、俺が試し撃ちにカウンターに持って行ったのはこれだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名称】『量産型魔導拳銃:壱式』

【種別】『拳銃・セミオート』

概要:大戦期初期に大量生産された初期型の拳銃、威力・命中精度・反動のどれもが悪い。

現在では銃の危険性を知る為の初心者用銃として僅かに生産されており、一定需要が存在している。

なお素材・機構ともに簡素である為、非常に安価。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


概要を見ての通り、威力は低いは、弾は正確に飛ばないは、反動は大きいは、多分この感じだと暴発の危険性もある、銃の悪いところを詰め込んだような銃だ。

とはいえ、値段自体は初心者用の剣より多少とはいえ安上がりだし、貴重な遠距離攻撃でもあるから、銃士(ガンナー)じゃなくても補助武器(サブアーム)として持つのは良いんじゃないかな?


それにもう一つ、これもだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名称】『量産型魔導拳銃:参式』

【種別】『拳銃・セミオート』

概要:大戦期終期に大量生産された拳銃、威力・命中精度・反動のどれもが弍式よりも改善されている。

現在では正規兵の装備として大量に生産されており、街を守っている兵士は大体が持ち歩いている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こっちは初期装備の大半を売ればギリギリ買うことが出来る一般的なスペックの銃になる。

概要の通り、壱式を改良した弍式から改良してあって安定性が飛躍的に増している。突飛した点のない平均的な銃みたいだけど、かなり使いやすそうだ。


そうこうしていると、試射場に辿り着いた。

カウンターの隣の通路を進んで、一度曲がれば着いたので、割とすぐだった。


「…広いな」


試射場はざっと見た感じ、横に60m、奥に100m、高さは5mと言ったところだろう。的は100m先に30個あって大体2m毎に区切られている。

距離は足元に線と数字が書かれているから、それを参考にして調整出来るようだ。

生まれてこの方、一度も試射場なんて使ったことがないからなんとも言えないが、普通に広い。


「誰も居ないし、早速使わせて貰うか」


小さく呟き、個室状になっているそこの一つに入る。

部屋を隔てる壁はガラスのように見えるけど、触った感じそれとは違う頑丈な素材みたいだ。何で出来ているのか気になるが、それは後回しだな。

というわけで、無造作に壱式拳銃で照準、通常弾、魔力弾、物魔混合と切り替えながら射撃していく。


やはり精度はお察しだが、古参の銃士(ガンナー)としての意地で全弾、的の中心から5㎝未満に収めてやった。

それで結果は、通常の実弾は的に軽くめり込んで止まり、魔力弾は軽く傷をつけただけで霧散し、物魔混合はしっかりと的にめり込んでいた。

さて、とりあえず一通りは撃ってみたけど、結果は思っていたものとほとんど同じだった。これはやっぱり、()()()と大体同じ仕様みたいだな。


「ということは実弾の威力は銃の性能に弾の素材、魔力弾の威力は銃の性能に魔力の質、物魔混合の威力は実弾の威力と魔力弾の威力、それに+アルファか」


それにしても見事に俺の予想を外してくれた+アルファの分は一体なんなんだろう?想定の1.5倍くらい威力が高くて結構驚いたんだけど。

んー、昔との違いといえば属性適性くらいだろうか?

昔は全属性に適性があったから恩恵が分散して分かりずらかったけど、火に属性の恩恵が集中しているなら、強い威力増加が掛かっても不思議じゃないな。


物魔混合じゃ、実弾に火属性に属性適性が集中している俺の魔力で出来た魔力弾を付与しているわけだし。

まあ、だからと言って魔力弾の威力が上がるわけじゃないんだよな、あれは物質に付与してこそだから。


「おー、お客さん。凄いですね、100mも離れてるのに壱式でそこまでしちゃうなんて」

「だろ?なんてたって努力の結晶だからな。…ところで、あんた誰だ?」


考え事をしていると突然現れ、ずっと俺をガン見していた気配の主がやっと喋りかけて来た。

話に乗って振り返って見てみれば、そこには大体俺と同じ、16歳くらいに見える少女がいた。身長は高めで細身、まだ僅かに幼さが残る怜悧な美貌を持った翡翠の緑髪に赤眼の美少女だ。


「私ですか、私は通りすがりの店主ですよ。隠してもすぐバレそうだからいいますが、三代くらい前の銃神(ガンマスター)でもあります。まあ、挑戦者が多過ぎて鬱陶しかったので、500年くらい前に一番出来が良かった弟子に押し付けて辞めましたが」

「500年って、あんた一体何歳だよ。精神的には1000年くらい生きてる俺より年上か?」


《『翠銃皇神』エルミス・ナル・シルヴァリアとエンカウントしました。》


いや、なんでだよっ!


「その質問は1000年超えて年下ならなんとも思いませんが、200前後しか変わらないとムカつきますね。女性に年齢を聞くとか非常識です、一度死んで来て下さい」

「そりゃごもっともなこと…ちょっ、まっ」


おかしな勢いで額に突き付けられた散弾銃(ショットガン)に更に額を押し付けて膝カックンされたように膝を降り、無理矢理に散弾銃(ショットガン)の下に潜り込む。

次いで来るだろう散弾銃(ショットガン)による頭頂部強打を警戒して身体を捻る。


ごきりっ


「っっっっ……!!!生きてる…よっしゃ、まだいけるっ!」


結果、散弾銃(ショットガン)は右肩を強打し、そこの骨を折るに留まった。こっちの身体能力なら脳天に直撃したら、その時点で即死だったから助かった。たとえ、膝立ちの状態で上から衝撃が来た所為で両足に甚大なダメージが来てたとしても助かったもんは助かったんだ。


というわけで、手で地面を叩いて強引に身体を弾き出す。目指すは通路、壱式と参式はどうせ意味ないので既に手放している。


「逃がしませんよ」


向けられる拳銃の銃口、放たれる銃弾。

肩が折れている右腕を左手で動かし、軌道上に設置、弾丸を腕の中に通すことで弾速を僅かに遅延(ディレイ)、決死の行動で弱点の心臓に弾が当たる即死コースだけは意地でも阻止する。


痛み?んなもん感じる余裕なんてないわァ!アドレナリン、ドバドバ分泌されて無効化されてるに決まってるだろっ!

よしっ、隣は抜けた。そのまま突き進んで、ドアを蹴り開け…


ガンッ←(蹴りがドアに阻まれる音)


「あっ…」

「残念ですね。うちのドアはこちらに来たばかりの異邦人(プレイヤー)に蹴破られるほど柔な作りじゃありません、それにそこの扉は()()()ですよ」

「ああっ、」

「それでは、またのご来店をお待ちしております」

「皮肉かっ!」


叫びは虚しくも銃声に掻き消され、俺は買い物に来ただけの筈なのに初リスポーンを果たすことになった。


《【称号】『圧倒的理不尽に抗いし者』『稀代の戦闘者』『極限を知る者』を獲得しました》

《ステータス一覧に【称号】が追加されました》






広場のベンチで項垂れている野戦服姿の青年が一人。

もちろん、俺のことだ。だがしかし、その手には見慣れない大型の拳銃が握られている。見た目は好きな人も結構いるだろう自動拳銃…デザートイーグルに近い。性能も似たり寄ったりで高威力で高反動、俺が昔から好んで使うタイプの拳銃だ。

ついさっきリスポーンしたばかりの俺が、なんでこんな強力な拳銃を持っているかと言うと…。




時間は十分数前に遡る。




《死亡しました、リスポーン地点で再構築されます》

《デスペナルティが発生しました。

以下の状態異常が発生します。

一時間、身体能力50%低下

一時間、能力成長率50%低下

一時間、スキル使用不可

所持額二割ロスト、インベントリから初級体力回復ポーションが落ちました》


「…ふぅー、なんとかセーフか」


VR機器本体のメニューを呼び出し、時間を見てホッと息をついた。やっぱり俺の体内時計は正確だったか、それならこのデスペナも気にならないな。

多分、あの戦闘は成長率に倍率が掛かる特殊状況に分類されるだろうし。今更になるけど、このゲームのステータスが熟練度制みたいなやつで良かった。


それを意識すると途端に緊張が解けて、その場にへたり込みそうになった。

正直、気が緩み過ぎて腰が抜けかけているが、この場で座り込むことは出来ない。さすがに中央広場のど真ん中に座り込めるほど俺の精神は図太くないし、なによりも明らかな邪魔になるからな。


というわけで、広場に設置されているベンチにデスペナルティで気怠いが、急激に身体能力が上がって軽い身体を動かす。


『メッセージを2件受信しました』


「ん?こんな時にメッセージ、しかも2件も一体誰だ?」


このゲームでのメッセージはフレンドリストに名前が載ってなくても、知り合い以上の関係であれば、送りつけることができるんだけど、その仕様は今関係ない。

…と思うだけど、この時間帯にメッセージを送ってくるやつなんていただろうか?

ひとまず、ベンチに移動して読むことにした。


「差出人不明が一通に、あ?なんでこいつのメッセージが届いたんだ?あいつ、社会人だろ」


メッセージボックスを開いてみれば、通知の通り2件のメッセージが届いていた。片方は差出人が不明になっていて、もう片方は『フレア・ベルジュ』になっている。

とりあえず、差出人不明はなんか怖いし後回しだ。

それにどっちかって言ったら、社会人のはずなのにバリバリの平日の昼間にメッセージを送ってきた、友人(愛すべきバカ)の方が気になるしな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

差出人:フレア・ベルジュ

宛先:リン・ディストア

件名:会社サボってるわけじゃないからなっ!

本文:王都でクラン機能見つけたんだが、今回はお前がクラマスでいいか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁー、『散弾銃でリスキルされたくなかったら、お前がやれ』っと、返信」


散弾銃でのゼロ距離ヘッドショットは控えめにいって、撃った側も、撃たれた側も最悪だからな、これで諦めるだろう。

えっ?最悪な理由?撃った側は軽くトラウマレベルの光景―相手の頭が爆発したみたいに大量の赤いダメージエフェクトに包まれる。顔全体が隠れるから首が吹き飛んだようにみえて耐性がないとツラい―を見るハメになって、撃たれた側はリスポーン後にも残る多段ヒットした散弾の感触が普通にツラい、って感じだ。


一週時点で王都を見つけてるのはこの際、無視だ。

どうせ住民にでも話聞いて、不眠不休で行ったんだろう。ほとんどのプレイヤーがまだこの【ニユラ】を活動の拠点にしている状況でな。

…というか、中央広場に起動してない感じだけど、転移ポータルみたいなのがあるんだから、それに関連するクエストがその内出るだろうに、なんでそんな無茶するだか。まあ、思い立ったら即行動ってのはアイツらしいけどな。

さてと返信もしたし、差出人不明の方も開けるか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

差出人:不明

宛先:リン・ディストア

件名:さっきのお詫びです。

本文:エルミス・ナル・シルヴァリアです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちょっと待て、特殊NPCからはメッセージが届く場合もあるってのは聞いてたが、もう届くのか?俺、さっき始めたばかりなんだけど」


というか、ついさっき頭撃ち抜いて来た奴のメッセージにどう反応すれば良いんだよ。

ま、まあ、とりあえず続きを読もう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

差出人:不明

宛先:リン・ディストア

件名:さっきのお詫びです。

本文:エルミス・ナル・シルヴァリアです。

さきほどは思わずイラッときて、脳天撃ち抜いてしまって申し訳ありません。正直反省してはいますが、後悔はしてないので許して下さいというつもりは一切ありません。ですが、さすがに一度殺しておいて何もしないのは後味が悪いので、以下のもの同封させて頂きます。


・『魔導拳銃:攻型参式』×1

・『スキル書:銃〈クイックリロード〉』×1

・『スキル書:銃〈チャージショット〉』×1

・『スキル書:銃〈ウィークネスアイ〉』×1

・『エルミス武具店のA級割引券』×1


追伸、私自身がカスタマイズがしたものなので不具合はないと思いますが、玄人向けの物なので使いづらければ別の元と交換しますので送り返して下さい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして、アイテムの獲得ログが流れる。

なにか納得がいかないながらも、インベントリから銃だけ取り出してみれば、俺好みの大型拳銃が入っていて、なんともいえない微妙な気持ちに項垂れた。


そこで冒頭に戻る。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名称】『魔導拳銃:攻型参式』

【種別】『拳銃・セミオート』

概要:『翠銃皇神』によってとあるプレイヤー用にカスタマイズされた攻撃に偏重している参式拳銃、高威力で高い安定性を誇っているが反動があまり考慮されておらず、使用には高い技術力か高い身体能力が要求される。ただし、使い熟すことが出来れば伍式にも劣らない性能を発揮する。

強すぎるが故に孤高の少女の期待が込められている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まさかの俺専用カスタマズ、しかも『最強』の一角の期待込みってなんだよ。普通にモチベ上がるな」


なんとも言えない微妙な気分が一気に吹き飛んだ。

俺って期待されて伸びるタイプなんです。あと、ゲーマーとしてこんな意味ありげなテキスト見て、テンションが上がらないわけがない。

えっ?チョロい?うっせ、自覚してるわ。


なお、敵意なんかの悪感情には昔からかなり敏感なので誰にでもチョロいというわけではない。

ここ重要だから、テストに出るから覚えとけよー。






"原初の森林【オリジン】・浅層"


探索必需品と大量の弾丸、貰った拳銃を抱えて【ニユラ】の近くにある森林に移動した。

理由は実戦での試し撃ちに、成長率に補正が掛かる戦闘という状況を作るためだ。


「で、早速試し撃ちに来た訳だけど…」


新緑の森の中で鳴り響く銃声、倒れる二つの影。

さらに数発銃声が轟き、飛び掛かってきた三つの影の脳天に突き刺さり貫徹。続いて上空から現れる一回り大きな影、そこで実弾から物魔に変更、さっきより大きな銃声が響き渡り、そいつもあっさり生き絶えた。

だけどそれだけじゃ止まらない。


今度は前後から一体ずつ、前方の方は飛び掛かろうと足に力を込めた一瞬を狙って初期装備の短剣を目玉に向かって投擲、躱さざるを得ない状況に持って行って連携を崩し、その隙に後ろから飛び掛かってきていたもう一体にヘッドショット、向き直って噛み付きに掛かって来た前方の一体も瞬殺する。

そこで〈クイックリロード〉、弾丸が速攻で装填され、素早く左右に感じた敵意に向かって射撃、ガサガサッとそこの背の高い草が揺れ、その敵意が離れて行った。


「いくらなんでも多過ぎだよな」


少なくとも最低5体ずつ同時に敵が出てくる現状に異常事態を覚えつつも、とりあえず道具屋で買った解体ナイフを影の正体…瘴気ようであり、影のようでもあった真っ黒な霞を()()()()()狼たちに突き立て、片っ端からドロップアイテムにしていった。ひとまず狩った狼を回収し終わり、そこから先に進むことにした。

異常事態は感じれど決定的な証拠がない。そもそもの話、普段の森の様子を知らないから何とも言えないのだ。まあそれは戦闘不可領域(セーフティーゾーン)でも見つけた時にフレンドにでも聞いてみればわかるだろうからいいとして⋯、正直な話、この事態に最前線で頭を突っ込みたい。

こんな明らかに何かありそうな状況、絶対に何か⋯予測で言うなら襲撃イベントのフラグだろうし、ゲーム(この世界)を楽しむのなら見逃すなんてことは絶対に出来ない。


そんなことを考えながら進んでいると、視界に淡い光を放つ小さな湖畔が見えてきた。

戦闘不可領域(セーフティーゾーン)の目印にもなっている安息の泉、通称:回復池だ。ここでなら町の外では基本的に使えないUIの通信機能が使える。体力も魔力もほとんど減ってないから回復池はいいとして、誰か分かりそうな友人に普段の森林の様子を聞いてみよう。


「といっても、この時間にログインしているフレンドなんて俺の知る限りは一人しか居ないんだけどな」


というわけで宛先を『フレア・ベルジュ』にして質問を飛ばし、休憩がてらに回答を待つ。

しばらくは座禅を組んで瞑想でもしながら過ごしていよう。幸いにして時間はあるし、精神統一とか瞑想とかがスキルにあるのなら、習得出来る可能性もあるからな。そんなわけで俺は、瞑想の体勢に移行した。






『メッセージを一件受信しました』


返信は思ってたよりもすぐに届いた。

集中していたから分かりずらいが、多分送信から十分は経ってないはずだ。フレアは一人だと基本的に何かしらやらかすから、何かのイベント中で返信が遅くなると思ってたから1時間くらいは覚悟してたんだけどな。意外だ⋯!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

差出人:フレア・ベルジュ

宛先:リン・ディストア

件名:

本文:原初の森林は蛇、狼、熊を基本に動物系なら大概何でもいるぞ、だから対策っていうのなら考えるだけ無駄だ。自分が一番使いやすい装備を使うことをお勧めするぞ。じゃあ、オレは皇子殿下の護衛に戻るから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「多種多様な生物が居たか⋯。俺、ここに来てから狼以外に生き物は見てないよな」


最後の一文は努めて無視し、インベントリを確認する。そこにはスタックされるほどに膨れ上がった狼素材の数々、しかしどこをみてもフレアが言うような多種多様な生物を示す素材はどこにもない。

これ、絶対に異常だよな。なんか狼が異常繁殖してるみたいだし、他の生物が激減してる⋯というか、一部では絶滅寸前なんじゃないか?とにかく、もう少し奥地まで進んで異常の原因を探ってみよう。

その後は冒険者ギルドにでも駆け込もう、傭兵スタイルで行くつもりだから報告自体は他の誰かに任せることになるかもしれないが、まあそれはそのとき考えればいいか。


それより調査が優先だ。それが一番事態に関われそうだし、何よりも面白そうだしな。


「あー、こんなこと考えてたらムズムズしてきた。よしっ、もう出発しよう。返信待ってただけで、疲れてたわけじゃないしなっ!」


ちゃちゃっとフレアにお礼のメッセージを送信し、さっと立ち上がる。

さあ、出発だ。まだ見ぬ騒動が俺を待っている。そして、俺は森の奥地を目指して行動を開始した。






side:フレア・ベルジュ


ドカァァァンッ!!


苛立ちに任せて背負った大剣を地に突き立てれば、凄まじい音が鳴り響いた。

爆音とともに地に刺さったその大剣は美しく研ぎ澄まされていて鏡のようになっており、その面には業物たる大剣を地面に突き立てた張本人である、燃え盛る炎のように真っ赤な髪をポニーテールにした真っ赤な瞳の麗しくも凛とした少女が恐ろしいほどの無表情で映っている。

⋯正直言って怖い、それが自分であることが分かっていても恐れるような怖い顔をしていた。


「あとここでオレは何時間待たされるんだ」


おかげで近寄って来るような猛者は誰一人いない。

みんながみんな、恐怖に顔を歪め、オレから距離を置いている。どうやら1週⋯いや、こっちだと10日で頭角を表したオレがよほど怖いらしい。ったく、これからもっと凄まじい奴が来るってのに情けない奴らだな。

仮にもこの城の騎士だろうに。


そもそもこの国の皇帝は泣く子も黙る『統剣之皇』だろう、あっちの方が圧倒的に化物だぞ。

しかも、この国にはそれを上回る『氷銃之神』なんて奴も居るそうじゃないか。こいつら、本当に大丈夫だよな⋯。


「フレア殿。すまぬ、待たせたな」


「ええ、待っておりました。ところでそちらの方は?」


そんなこんなで威圧感全開で待っていると、やっと目的の人物がやって来た。苛つくほど遅れて来たとはいえ、相手の立場が立場だ。威圧を引っ込め、口調を整える。

待っていた相手は王弟閣下とこの国の第五皇子だ。どちらも綺麗な金髪碧眼で美形、王弟閣下は凛々しく威厳ある顔立ち、皇子殿下は今年で齢15になるらしいが、少女のように愛らしい顔立ちをしている。

さらによく見れば、その後ろに二人と同じ金髪碧眼の美少女がいる。その子は温かみのある綺麗さを持っていて、幼さが残る可愛らしい顔立ちながら既にどこか母親のような安心感がある。

その雰囲気にはなんとなくだけど将来は、優しくも厳しく国を導く国母のような存在になるじゃないかと想起させられた。


「この子はこの国の第三皇女だ。急で申し訳ないが、護衛対象にこの子も加えてくれないか?」


「報酬は?」


「当然、上乗せさせて貰う。それに君が立ち上げるというクランに王族御用達の商会への紹介状を私と兄上の名義で一筆したためる。悪くない条件だと思うが?」


皇帝の弟と皇帝自身の名前が入った王族御用達の商会への紹介状を報酬上乗せに付いてくれると…。

大口の取引先はそのうち必要だとは思ってたが、こんなに早く目処が立つとはな。…このクエスト、絶対に失敗出来ない。


というわけで、こっちに来ている友人にささっと手伝いを要請する。

リンが使った脅しをそのまま活用させて貰ったからOKの返事は確実として⋯


「分かりました。その条件でお受けします」


「うむ、では【ニユラ】まで護衛を任せたぞ」


返事はしとかないとな。




こうして騒乱(イベント)に向かい世界は進む。だが、それはある者の予期せぬ介入によりこの世界を管理する者たちにとっても予想外の方向に進むことになる。

⋯具体的に言えば、ゲーム序盤じゃまだ明かされないはずの世界の秘密の一端が一部の異邦人(プレイヤー)たちによって明かされることになる。






side:リン・ディストア


休憩が終わり、行動を開始した俺は原初の森林の奥地まで辿り着いていた。

現在はさっきまでより明らかに連携の練度、個体の質がともに上がった狼集団を倒し、ドロップの回収を終えたところになる。


「ふぅー、今のステータスだとさすがにつらいな」


正直、この連戦となると今の段階だとかなり厳しい。銃の腕前や反射神経なんかの内面的なものともかくとして、根本的な能力値の絶対値が足りていないのだ。

要するに見えても、捉えれても、身体が追い付かない。経験則や直感で予測が出来るから、今はまだ何とかなっているものの、これ以上強くなるのだとなるならば対応は確実に間に合わなくなるだろうな。

⋯これ以上進むなら、隠密行動を心掛けて進まないといけない。あんまり隠密は得意じゃないけど、頑張らないとな。


「⋯よしっ、やるか」


小さく気合を入れ直し、周囲と同化するように自身の気配を隠す。こっちは過去の自分じゃなく今の自分が師匠から会得した技、まだ拙いけどここで通用するだろうか?


「って、やばっ⋯」


慣れない技を頼る不安を蹴り飛ばし、そこらの草むらに飛び込む。

遠くから巨大な足音が物凄い速度で接近して来たんだ。これはあれだ、絶対にダメな奴だ。

今動くのは悪手と判断、インベントリから備えとして買った消臭剤で自身の匂いを消し、今度は草葉を使って自分の匂いを周囲に溶け込ませる。

すると、その直後…、


「グルゥゥ…」


ダラダラと涎を垂らしながら、さっきまでの狼たちとは一線を画する大きさの大狼が現れた。

そいつも通常の狼と同様黒い霞を身体に纏っており、さっきまで俺がいた辺りでクンクンと鼻を鳴らしている。辺りを探るような様子から見るに、どうやら俺は上手く隠れられているらしい。

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