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元の世界に戻ったら俺がいた。

ボロボロの体で最後の敵に剣を突き立てる。

頭の中に『レベルアップしました』という音声が響き、俺の剣に身を貫かれていた魔物はその命の鼓動を止め、ドロップアイテムを残してその身を粒子に変えた。

全身から力を抜き、そこに自分から倒れ伏す。


「…やっと、終わった」


地面に倒れる俺の周りには沢山の粒子が舞っている。

ここに漂う全ての粒子は、俺が倒した魔物のものだ。中には、準魔王級と呼ばれるような化け物も居ただろう。

だが、俺はその全てを自分の手で倒し切ったのだ。

とても長かった、尋常ではないほどに長かった。既に時間感覚は曖昧で開戦からどれほど経ったのか分からないが、とにかく長なった。


「ははっ、これでやっと眠れる」


少なくとも三日三晩戦い続けた体は悲鳴を上げ、体の端から徐々に崩壊し始めている。

とてつもない痛みが走り続けているが、そんなものを気にする余裕は今の俺には一切存在しない。ただただ崩れゆく我が身を見つめるばかりだ。


もうこの世に未練は一切存在しない。

だから、あとは崩れていく俺が完全に消えるのを待つだけだ。


と、そんなことを思っていたからだろう。胸を中心に大きなヒビが体に走り、体の崩壊がその速度を加速させていく。

そんな中、俺は一言呟いた。


「俺…アールス・ディテルスの人生に、悔いなどなし」


言い切ると同時に、ヒビが全身に広がり…そして、俺はこの世から消え去った。






…消え去ったはずだった。


「なんで俺、生きているんだ」


冷たい地面の感触を背に、俺は空を見上げていた。

空が見せる顔は、雲一つない晴天だ。日本にいたことだったら、昼休みにでも屋上にいって気持ちよく昼寝をしていただろうな。って、まさか…


ガバッと体を落として、周囲に視線を向ける。

そして、俺は呆然と呟いた。


「…本当に学校だな。まさか、さっきまでのあれは全部夢だったのか」


視界に映ったのは、懐かしい学校の屋上だった。

それもさっきまで見ていた光景は転生前に見た最後の光景だった。だから、俺はもしかしてさっきのは夢だったのじゃないかと思ってしまう。


「いや、そんなわけないか。夢がこんなにしっかり記憶に残るわけないし、あんなにリアルなわけがない」


だけどまあ、俺には確かに生まれ直して生きた30年の記憶が残っている。当然、そこで感じた様々な思いや経験もそのままだ。

だがら、あれが夢が生み出した幻想だなんて思いたくもない。


それを証明する為に五本全ての指先に意識を集中し、体の中に流れるエネルギーを…魔力を集める。


「小火球、小水球、小風球、小土球、小光球」


指先にはイメージの通り、球の形を取る火、水、風、土、光と俺が使える全て属性の小球が現れる。

その様子に俺は安堵した。

やはり、あの体験は偽りではなかったようだ。


どうせなので指先に生み出した五属性の魔法小球を手のひらの上に集合させて、上手くそれを編み込み、創造魔法を発動する。


「んー、まあ、ちょっとお腹空いたし食べ物だな」


作り出すのは単純な塩おにぎりにする。向こうでも良く創造していたものだし、少し集中するだけで普通に作り出すことが出来た。

早速、創り出した塩おにぎりに口をつける…


バンッ!


「うおっ!」


…ことはできなかった。


突然、屋上の扉が開かれて塩おにぎりを地面に落としかけたのだ。

思わず、扉の方に恨めし気な視線を向ける。だけれど、そこで視界に映った人物を見て思わず俺は固まった。


「…俺?」


やや長めの黒髪に眼付きの鋭い怜悧な容姿、そのクールな佇まいにはとても見覚えがあった。

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