表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/18

《WEAPON EVOLUTION ONLINE》

『同調率100%…クリア。これよりメインフロアにログインします』


電脳世界との同期が完了し、暗闇が晴れる。

現れたのは、高級感のある家具で構成されている落ち着いた雰囲気の一室。すべて既製品ではあるものの、家具の一つ一つは非常に丁寧に造られている一級の代物ばかりだ。

…まあ、お値段はそれ相応で懐具合は随分と寂しくなったけどな。

ほんと、電脳世界内の通貨とはいえ奮発して、一つ一つが家建てれるレベルの家具なんて購入するんじゃなかったわ


「っと、忘れる前にしないと。ディア、居るか?」


「はいはーい、居ますよー。(ともる)さん。今日は何の御用でしょうかー」


「《WEAPON EVOLUTION ONLINE》って言うゲームをインストールしてくれ。ついでにキャラクリも頼む」


「わっかりましたっ!では、キャラクターの設定はどうしますかー」


「見た目はいつも通り、PNはカタカナでトモル、武器は…、そうだな。大鎌で頼む」


「了解ですっ!残りの項目はランダムでよろしいですかー」


「ああ」


「では、いって参りますねー」


呼び出したサポートAIのディアに最近発売開始して話題になっているVRMMO《WEAPON EVOLUTION ONLINE》のインストール、それに諸処の設定を命じ、俺はコマンドでタブレットを呼び出して《WEAPON EVOLUTION ONLINE》の公式ページに繋げる。


「うーん、やっぱり『二つ名』は大量にあるな。俺もランダムにしたし、『二つ名』はつくけど、何になるんだろうか?」


このゲームでは普通に選んだらただのなんとか族になるところが、ランダムでの選択の場合、『怪力』の人族とか『頑丈』の獣人族(狼)といった具合に『二つ名』が付き、ステータスに特殊な補正がかかる。


その『二つ名』は公式ページに公開されているだけでも、

『怪力』『頑丈』『俊敏』『博識』『技巧』『強心』『強靭』『豪剣』『豪槍』『苛虐』『被虐』『軟体』『身軽』『凶器』『道化』『狂信』『単独』『博愛』『魔封』『正義』『極悪』『誠実』『傲慢』『寛容』『憤怒』『慈愛』『嫉妬』『勤勉』『怠惰』『節制』『強欲』『忍耐』『暴食』『純潔』『色欲』etc.etc.

といった感じに大量にあり、一つ一つがメリットとデメリットを背負っている。

特にメリット、デメリットともに大きい強力な『二つ名』はこのゲームの世界で唯一無二の相棒である武器にすら影響を及ぼすらしい。


次はスキルとステータス、これらはもともとランダムらしい。

ある程度、スキルとステータスが合ったものになるらしいが、スキルの絶対数が多いので、噛み合わないステータスとスキルになる確率もかなりあるみたいだ。

ちなみに武器に対応した『剣術』やら『槍術』なんかのスキルは武器選択時点で習得されるそうだ。

とりあえず、最初はこれだけ理解していればいいか。


と、その時だった。


「灯さん、準備完了しましたよー」


可愛らしい少女の声とともに目の前で光のエフェクトが瞬き、その声にあった手乗りサイズで妖精らしい三対六羽の羽を生やす少女が現れる。

最高クラスのAIを搭載するうちのハイスペックAI、ディアが帰ってきたのだ。


「了解、助かった。この後、すぐにログインするから、五時頃に起こしてくれ、それまではしばらく好きにしてていいぞ」


「はーい、では五時頃に起こしにきますねー。それでは、失礼しまーす」


軽い労いの言葉をかけて、五時頃にアラームを頼む。

その後、自由行動を許可すると間延びした声とともに綺麗な一礼をして、光のエフェクトに消えていった。


「さて、『コマンド:リンクワールド』《WEAPON EVOLUTION ONLINE》っと」


それを見送り、俺も《WEAPON EVOLUTION ONLINE》の世界にログインする為のコマンドを唱え、このゲーム内の身体を光のエフェクトに変えた。




「『コマンド:ステータスオープン』」


《WEAPON EVOLUTION ONLINE》にログイン早々に俺は周囲を見渡すこともなく、ステータスを確認するコマンドを唱える。

この辺りのコマンドは、メインサーバーがすべてのゲームを通して統合されているから同じ、説明書を見る必要も、チュートリアルを受ける必要もない。


================

トモル LV001/100

『断絶』の斬魔族


ステータス

HP[6000/6000] MP[500/500]

物攻[0125] 物防[0060] 敏捷[0030]

魔攻[0005] 魔防[0005] 器用[0005]


スキル

《大鎌術LV01》

『スラッシュ』―斬撃を放つ

消費MP050 CT010秒


《剣術LV01》

『スラッシュ』―斬撃を放つ

消費MP050 CT010秒


《怪力LV01》

『ハイパワー』―常時発動、物攻の身体反映値が《怪力》のLVに応じて向上する


《頑丈LV01》

『ハイディフェンス』―常時発動、物防の身体反映値が《頑丈》のLVに応じて向上する


《鎌技強化LV01》

『リッパーストライク』―次に放つ鎌系統スキルの攻撃の威力を《鎌技強化》のLVに応じて向上する

消費MP030 CT010秒


《限界突破LV01》

『リミットブレイク』―発動中、物攻物防敏捷が超上昇する

発動中、常にHPが減少する

発動中、外部からの支援効果は一切受け付けない


《反動軽減LV01》

『スキルアブソーバー』―常時発動、スキルのデメリットを《反動軽減》のLVに応じて軽減する


《戦闘本能LV01》

『アラート』―発動中、敵対対象の致命的な攻撃を予測して視界に表示する

発動中、HPMPの回復速度が半減する


《戦闘衝動LV01》

『バトルジャンキー』―常時発動、HPMPの回復速度が《戦闘衝動》のLVに応じて向上する

戦闘行為以外での経験値が《戦闘衝動》のLVに応じて低下する


《斬撃適性LV01》

『スラッシャー』―常時発動、斬撃動作及び攻撃に《斬撃適性》のLVに応じてプラス補正がかかる

打撃、突撃動作の動作及び攻撃に《斬撃適性》のLVに応じたマイナス補正がかかる

================


「…どんだけ戦闘に特化してるんだよ」


声はすぐに人混みに消えるが思わず呟く。

ステータス面は良い、普段から前衛職で主にプレイしているから、むしろここまで前衛型なのはかなりありがたいくらいだ。


だが、スキルが戦闘に特化し過ぎだ。普通は一つくらい生産系スキルがあるらしいのにまったくない。

それどころから《戦闘衝動》なんていう戦闘行為を強要するようなスキルまである。

これ、依頼(クエスト)報酬の経験値なんかにも影響ありそうだよな。


「はぁ、戦闘経験値が上昇するスキルがあるなら、よかったんだけどな」


将来的に《戦闘衝動》なんかは戦闘行為での経験値が《戦闘衝動》のLVに応じて向上する、なんて効果が生えそうだが…、仕方ない、とりあえずは戦闘特化の性能だけでも試してみるか。


そう思い、俺はこの場を後にした。

向かう先は始まりの街の四方で一番レベル帯が高い場所…このゲームなら『始まりの街:東-フェンシャの森』になる。






『フェンシャの森』は始まりの街より近い場所にあるが、ここら一帯の中でもっとも敵が凶暴で、人が近寄らない場所だ。

故に西にある比較的安全な『セレンの森』のように整備されておらず、樹々が鬱蒼としていて薄暗いのだが、今日はそんな不人気な場所に訪れる者がいた。


もちろん、俺だ。


「うーん、思ったより視界が悪いな。広場の地図に薄暗いとは書いてあったが、まさかここまでとは」


初期装備のダサい服と防具を着て、切れ味が悪そうな大鎌を背負い、長剣を腰に携えて訪れた『フェンシャの森』は想像以上に暗く、夜になってしまえ空から降る明かりが完全に防がれ、方角を見失ってしまいそうな感じだ。


「ソロで行くのは少し早まったか…?」


この様子だと感知能力に優れた斥候を探した方が良いかもれない。《戦闘本能》の『アラート』もあるが、あれが予測するのは致命的な攻撃のみ、HPギリギリで探索すれば全部の攻撃が致命撃になってすべて予測されるだろうが、さすがにそれは避けたいしな。


と、そんなことを考えていた時だった。


『【狂乱血狼】フェンシャとエンカウントしました』


そんな血赤のログが流れたのは…。


「はっ?」


呆然とした声を漏らす。だが、呆然とする暇はなかった。身体に嫌な予感が走る。慌てて『アラート』を念じて発動してみれば視界は赤い致命撃の攻撃予測に埋め尽くされていた。


回避は…無理。だったら全力で迎撃だっ!


「『リミットブレイク』『リッパーストライク』『スラッシュ』ッ!」


ガキンッ


効果光(ライトエフェクト)を輝かせ、動作補助(モーションアシスト)に乗せて斬撃を走らせる。するとそれは途中で硬質なものに衝突し、阻まれた。

前を見れば、そこには目を血走らせる赤黒い巨狼、それにその巨狼の爪と激突している大鎌が見えた。


当然ながら力は拮抗していない。

『リミットブレイク』に『リッパーストライク』、『スラッシャー』に恐らく二つ名の『断絶』の効果も乗っかった『スラッシュ』でも俺が押されていた。


「くそっ、いくらバフを重ねてもレベル差はどうにもならないかっ!」


悪態をつきながらも腕の力を一瞬だけ緩めて、巨狼の力のベクトルを逸らすように大鎌を引く。

すると巨狼は受け流された自身の力に引っ張られ、俺の後ろにへとそのまま突っ込んだ。


振り返り、一番威力が込められる一撃が放てる状態で構え、巨狼の動向を伺う。

動くのは巨狼の攻撃の予備動作を認識してから、タイミングが速すぎても遅すぎてもダメだから動作の微動すらも見逃すわけにはいけない。


「…来るっ」


『アラート』が大雑把な範囲の警鐘を鳴らし、俺の目が僅かな動作を捉える。

動作が示しているのは真っ直ぐ前進、止まる気なんてものは微塵も感じられない。


これを受け流すのはさすがに厳しそうだ。


「ふっ…」


だがら、大鎌を地面に突き刺し棒高跳びの要領で跳躍、巨狼の上を跳び、大鎌の重さを使った縦回転をすることで大鎌に速度を乗せて、その背にその刃を突き立てる。


「グァッ…」


巨狼が苦痛にあげようとする声を鼻先に着地することで封殺、大鎌に手を掛け…


「『リッパーストライク』『スラッシュ』」


CTが過ぎた二つをもう一度起動することで大鎌を強引に動かし、その背に斬撃判定を何度も発生させる。

そのまま大鎌を振り切り、巨狼が頭を振って俺を振り払おうとする力を利用して宙返りで離脱する。


そして、俺を睨みつけ殺気を放ってくる巨狼が臨戦態勢をとり、俺を向かい撃とうと体制を変えたそのタイミングで、意表をつくように俺は森の中に逃げ込んだ。

その際の血赤の巨狼がマヌケ面に呆然とする姿といったらなく、思わずスクショしてしまった。

さて、あとで掲示板にでも貼り付けさせて貰おうかな。











「ふぅー、大漁大漁。いやー、沢山狩れたな」


インベントリに並ぶ大量のドロップにニヤけつつ、『フェンシャの森』からアイテム『帰還の鈴』を使って脱出する。

『帰還の鈴』は探索中に見つけたいくつかの宝箱の一つに入っていた一つで五回使える帰還アイテムだ。

ほかにもいろいろ有用そうな物が手に入って、最初にフェンシャに遭遇したことが気にならないくらいにプラスの収穫だった。


というか、初の戦闘がフィールドボスっておかしいよな。なんで基本的に森の奥地に居座っている筈のボスが居たんだか、本当に謎だ。

まあいいか。別にそこまで重要ってわけじゃないし、それよりもインベントリの大量のドロップの方が重要だしな。


「うーん、これどう使おうか迷うな」


素材の使い道はいくつかあるが、どれにするか迷う。


βテスターでゲーム内の情報提供者の友人に情報料としていくつか渡すのは、そいつに1/3くらい売り付けるのと同じくらい当然として、残りは防具の作成に使うか、武器の強化に使うか、悩みどころなんだよな。


レベル005以上、《大鎌術》のスキルレベル05以上、敵のキルカウント50以上、といった感じで武器の第一段階の通常進化条件は満たしているから、あとは『フェンシャの森』で手に入れた必要素材を使って進化してもいいしな。


「灯さーん、本体の方に凛さんからメッセージが届きましたよー」


「ん〜、凛からメッセージ?なんて内容だ?」


そんなことを考えながら街を歩いていれば、丁度その情報提供者の友人からメッセージが届いた。


「『街の外れに僕たちの店があるから、適当な素材が手に入ったらそこに持って来て、買い取るから』だよー」


「おっ、ナイスタイミング」


「それと、はい。添付されてた画像データ、地図っぽいけど、この世界のものー?」


ディアがこてんっ、と首を傾げながら見せて来た画像データに目を通す。続いて、視界左上の街全体を表示しているミニマップに目を通した。

どうやら、ディアの言った通りのデータみたいだ。


街の外壁の外側にある農耕地が広がる区域の一角に、赤い点で目印が打たれている。多分、ここが凛の言っている店がある場所なんだろうな。


「ああ、そう見たいだ。面倒だし、案内してくれないか?」


「了解ですー、少し画像データを見せてもらいますよー」


「どうぞ、好きなだけ見てくれ」


目の前にホログラムとして表示されていた地図の画像データの裏表をひっくり返して、ディアに渡す。

同時にディア側から飛んで来たプライベート保護の為の閲覧許可の申請に、了承を出した。


「えーっと、こっちみたいですねー。私に付いて来て下さいねー」


「了解」


返事を返し、俺はディアの後を追って街の郊外に向かった。






「着きましたよー、それじゃ、私は時間まで好きにさせて貰いますよー」


「ああ、分かった」


いつものエフェクトとともに姿を消したディアから視線を外し、正面に立つそれを見上げる。


「それにしても、デカいな…」


それはパッと見ただけで三階はあるように見えるし、面積もそれに応じて結構な広さがある、大体になるが縦50m×横75mはあるだろう。見た目としては煉瓦造で、一昔前の工場のような印象を受ける建物だ。


「明らかに初日からあって良いのものじゃないだろ」


多分…というか絶対にβテストの時に建てて、本編に引き継いだものなのだろうが、凛のやつは一体、βテスト時代に何やってたんだ?

僕たちとメッセージで言っていたから、集団で活動しているのは分かるんだけど、βテストの期間は内部で一月だ、それにしたって半端ない。


「っと、ずっと見上げてても意味ないな。えーっと、入り口はどこだ?」


建物の一階部分を見つめて、入り口の場所を探す。

パッと見ればすぐに見つけた、そこに向かって歩く。

その途中で入り口の木製のドアが開かれた。


どうやら誰かて出来たみたいだな。と思い、そこ見ていると見覚えのあるアイオライトの瞳の茶髪の少年が出て来た。このVRの世界では宝石と同色の瞳を持つ者は、宝珠瞳(ジュエルリアイ)と呼ばれ、特別な意味を持つオンリーワンのものだ。

ということは、こいつはそうだろう。証拠に俺を見て笑みを浮かべ、駆け寄って来たしな。


「おっ、もう来たんだ。もしかして、丁度狩りからの帰りだったの?」


「そうだな、さっき帰って来たところだ。ところで、俺はいつも通りだが、そっちもPNはいつも通りか?」


「うん、僕もいつも通りリンだよ。トモル」


こうして俺は、この世界で友人と会合を果たした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ