地に堕ちた友情
「ねえねえ、七瀬くんペンケース変えた?」
「うん。」
僕の前の席に座っている田崎さんが人懐こっい笑みを浮かべて話しかけてくる。
「いいなあ。あたしいま金なくてさ〜。」
何気ない会話。いつもと変わらない平穏な日々。はたから見ればよくある青春の一コマだ。
けれど、僕たちには普通とは決定的に違うことがある。
それは「友情」だ。
ただただ機械的に会話をしているだけ。そこに友情なんてものは存在しない。僕たちには親友も友達もいない。普通ならそれは忌むべきことで、少なくとも一人や二人は友達と呼べる人がいるものなのかもしれない。しかし、僕たちのなかにそれを気にする者はいない。これが僕たちの日常なのだ。
お世辞にも都会とは言えない、かといって田舎とも言えない場所に位置する誠葉高校。僕はそこに通う高校二年生。名前は七瀬 奏だ。べつに顔がカッコいいわけでもなく勉強も運動もたいしてできるわけでもない極めて凡庸な高校生だ。
今から丁度一ヶ月前、僕たちが二年生に進級した頃だ。学校にある人物が来た。
「どうも、皆さんこんにちは。政府から来ました、黒川 昌史と申します。
突然ですがこの誠葉高校はあるプロジェクトの実験校に選ばれました。」
政府やらプロジェクトやら突然訳のわからないことを言われて、僕たちはイマイチ状況が飲み込めないまま黒川というらしい男性が話を続けた。
「現代の高校生は友達が一人もできずに卒業してしまうという人が増えてきています。高校の交友関係はとても大事です。そこで、私達は友情を育むあるプロジェクトを計画しました。そのプロジェクトとはその名も―フレンドシッププロジェクト―です。」
―フレンドシッププロジェクト― そのプロジェクトの概要を簡単に説明するとこんなものだ。
まず、全校生徒は腕にバンドのようなものをつけなければならない。そのバンドは話している相手の心拍数や血圧を測ってそれを機嫌として数値化する。
その数値が一定数を超えるとポイントがバンドに貯まる。
そのポイントは相手の機嫌によって貰える量が変わる。驚くべきはそのポイントの使い方だ。
ポイントはなんと一ポイント一円で換金できるのだ。
この制度が僕たちの友情が堕落した一番の原因だ。みんなこのポイントが目当てに友情を育んでいる。
たしかにこのプロジェクトで色々な人が仲良くなっている。それはとてもいいことなのだろう。
しかし、ポイントを稼ぐことが目的の友情なんてなんの意味があるのだろう。バイト感覚で相手の機嫌をとって育んだ友情の先に待っているものは雀の涙のようなポイントと薄っぺらい関係くらいだ。
そもそもみんなそんなことは分かっているのだ。分かっていながら見て見ぬ振りをしているだけだ。
僕たちは友情の堕落を許容してしまった。
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どうもこんにちは。鈴鷹 詩です。
僕はこの作品が初めての自作小説なので少し不安です。
まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします。