未来にむけて……
もとのすがたのリーナとルカは、アンコールにこたえて元気に歌いました。
いつもの十八番、はずむような童謡です。
みんなみんな、自然に体がゆれてきます。
手拍子をうちながら、たのしく声をあわせます。
『リーナ・ルーカ』としてはさいごの、『リーナ・ルカ』としてはさいしょのステージは、みんなの拍手と合唱、涙と笑いで幕を閉じました。
楽屋にもどれば、エレンさんがにこにこと待っていました。
「お疲れ様、ふたりとも。すごく、すてきなステージだったよ」
「ありがとうエレンさん! すっごくたのしかった!!」
「ありがとうエレンさん! ゆめみたいだったわ!!」
ルカとリーナは、エレンさんに飛びつきます。
エレンさんはふたりをやさしく受けとめて、頭をなでてくれました。
そして、問いかけます。
「どういたしまして。
……さて、さっそくだけど、聞かせてもらおうかな。
お父さんにはわかっていたみたいだけど、今日までリーナちゃんとルカくんは、『未来の自分』になっていた。
未来のすがたでステージに立ってみて、どうだった?
ルカ君の未来は、閉ざされているとおもったかな?
リーナちゃんは、まだ歌姫をやめたい?」
「ううん、ちっとも!!」
ふたりは声をそろえます。
ルカはぐーんと両手を広げます。
「ボクね、おっきくなりたい!
自分のままで。あんなすてきなおとなになりたい。
ラートさま、ううん、お父さんみたいな、すっごくかっこいい歌い手に!」
「わたしも、あんなすてきな歌姫になれるなら、歌姫引退なんかやめちゃうわ!
そしていつかきっと、大人っぽい恋の歌がホントに似合う、ほんものの大人になるの。
未来のわたしったら、むかしのお母さんそっくりだもの。
お母さんもきっと、よろこんでくれるとおもう!」
そう答えるふたりの声は力強く、もう、ちょっぴりだけど大人です。
それをきいてエレンさんは、うん、と満足そうにうなずきました。
* * * * *
さて、これでとりあえず、こまりごとは解決です。
リオンとバートは、キャラバンのみんなに惜しまれながら出発します。
「リオンおにいちゃん、バートおにいちゃん。どうせならいっしょにくればいいのに!」
「そうよそうよ。何かあったとき、つよいひとがいてくれるとたすかるわ!」
「それにとってもカッコイイしね!」
「そーそ。ほんっとかっこよくて、毎日目の保養だったわ~」
「そ、そうか? じゃあ俺、のこっちゃおっかなー」
「ああ、リオンさまがね。バートは可愛いの方だから!」
「ええええ!!」
この短い間に、いろいろとありました。
リオンが実は音痴だったとわかったり、バートはうまーくお化粧すればドレスも似合うと判明したり。
いじられる本人たちはいい災難でしたが、それでも付き合ってくれる優しさに、なれない姿でがんばるリーナとルカ、そしてキャラバンのみんなが大いに助けられていたのは事実です。
リオンとバートにとっても、家族のように接してくれるキャラバンの人たちとの生活は、やはりとても楽しく、新鮮なものでした。
またご縁があったらご一緒しましょう。そう約束しあって、彼らは道を分かつのでした。