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8/12

とある吟遊詩人のものがたり

 十七年前といえば、それはめでたい年でした。

 第一王子さまが王位をついで王さまになり、王弟さまとなった第二王子さまも、かわいらしい男の赤ちゃんにめぐまれたからです。

 王宮でのパーティーには、たくさんのおどりこや、吟遊詩人がよばれました。

 そのころ吟遊詩人だった、若き日のおじさんもその中にいました。

 歌の天才と言われていた彼は、せっかくだから、自分のすべてをつぎこんだ、さいこうにすばらしい歌をつくろうと思いました。

 はたして、王さまも、お妃さまも、みんなみんながすばらしいといってくれました。


 ――ここで、客席がざわつきました。

 まさか、この人は。

 おじさんはすこしみんなが静まるのを待って、つづきを話しだします。


 けれど、天才のすべてをつぎ込んだその歌は、とてもとても、難しい歌だったのです。

 あんまりにすごすぎて、満足に歌えるのは作った本人だけ。

 むりを押してまねをすれば、のどを痛めてしまいます。

 それでもと、むりを重ねた歌姫がひとり声をなくしてしまったとき、彼は王さまにお願いしました。

 王さまの許可がない限り、その曲をステージでうたうことを禁じてください、と。

 自分がよかれと作った歌が、誰かをきずつけてしまう。それが、彼にはとてもつらかったのです。

 その曲こそ、『森羅万象』。今日、二人が歌った曲でした。


 若き日のおじさん――吟遊詩人ラートは歌と名をすて、歌姫の声をとりもどすために旅に出ました。

 その後、声をとりもどすことには成功しましたが、ふたりは結局、歌の道にはもどりませんでした。

 旅の間に愛をはぐくんだふたりの間に、かわいい双子の娘と息子が生まれたからです。


「え? 息子? 『リーナ・ルーカ』は……」

「ばかだね、どちらかが女の子のかっこをしていたんだよ! よくあることじゃないか!」

「いやいや! うそでしょ? またどうしてよ?」

「誰かを傷つけたくないって出て行ったラート様が、そんなことをさせるのかい?」

「まあ、ひとは時の流れで変わるものだし……」

「ちがう、それ! ボクがいいだしたんです!」

 お客さんのざわめきに、ルカがさけびます。


「だって、ただのきょうだいより、ふたごの歌姫ってほうがぜったいぜったい人気でるから!

 そういって、歌姫にしてもらったんだよ! お父さんはわるくないから!!

 お父さんがほんとはラート様だったなんて……かくしてたなんて、おどろいたけど。

 それもきっと、ボクたちのためなんだから!!」


 ぱっとかけだしてお父さんをかばおうとすると、その体と衣装はみるみる縮んで、すがたをかえていきます。

 ひっしでみんなのまえに両手を広げるころには、ルカはちいさなスーツをきた、かわいい男の子にもどっていたのです。

 そのとなりに、リーナもならびます。


「わたしも、賛成したの!

 ルカは、だから、いっぱいがんばってくれたの。

 なのにわたし、そんなルカにやきもちやいて……

 体がおっきくなって、声もかわりはじめて、いちばん、たいへんなのはルカだったのに……」


 小さなドレスの少女にもどり、泣きながらルカを抱きしめるリーナ。

 リーナのをあたまをやさしくなでて、なぐさめるルカ。

 そんなふたりを、アトラお父さんはかんしゃをこめて、包むように抱きしめます。


「私のけなげな天使たちのために、リオン様たちがお力を貸してくれました。

 錬金術師エレンさんにお願いして、変身の魔法をかけてもらって……

 兄王モッフール様にお願いして、こんなすてきなステージを用意してくださったのです。


 今日、皆さんがみたのは、未来から少しだけ遊びに来てくれた『リーナ・ルカ』です。

 これからルカは本格的な声変わりを迎えます。リーナも、難しい時期に入るでしょう。

 でも、いつかかならず、さっきの素敵なふたりになるのです。

 それまで皆様、この子達の成長を、あたたかい目で見守ってください。


 なにとぞどうか、よろしくお願い申し上げます」


 ふかくふかく頭をさげた親子三人が、ゆっくりと顔を上げれば――

 巻き起こったのは、まえ以上の大きさと、それ以上のあたたかさの大かっさいでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  リーナとルカ。  バートとリオン。  それぞれが絡み合いながら、みんなが成長していきました。  物語としても、リーナとルカの入れ替わりなど、伏線や仕掛けがあちこちにちりばめられており、読…
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