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7/12

はれの舞台と、いがいな結末

 へんしんしたリーナとルカは、まちのあちこちであらかじめ、予告公演をしていました。

 短い歌を、たった一曲歌うだけ。それでもみんなが足を止めました。

 キャラバンのひとや、冒険者ギルドのひとたち、いろんな知り合いの人にもおねがいして、宣伝もたくさんしてもらっていました。

 意外なことに、バートはとても絵がうまく、彼の作ったビラやポスターは大好評でした。


 そのおかげで、当日。

 王宮の前庭にもうけられた、広いひろい特設会場は、押すな押すなのおおさわぎ。

 ほかの場所だったら、完全にパニックになっていたところです。


 きらきらまぶしいライトのなか、二人がステージに姿を現しました。

 りっぱなわかものになったルカは、リオンが王子さまだったときの衣装を……

 きれいなむすめさんになったリーナは、フィリスさまがとくべつに貸してくれたドレスをきています。

 息をのむほどうつくしい、とはまさにこのこと。

 満場の期待のなかで、ふたりは声を合わせ、歌いだしました。


 かろやかにはずむポルカ、しっとりと歌いあげるバラード。

 かけあいながら歌う恋のワルツにうっとりすれば、『リーナ・ルーカ』の十八番おはこであった、元気なわらべうたで楽しく声をあわせます。

 もちろん『こううんのドラゴン モッフールのうた』も、ひとつの目玉です。

 どの曲もどの曲も、割れんばかりの拍手のあらし。

 そんな中、ラストをかざる曲はなんと、あの伝説の吟遊詩人ラートののこした『森羅万象しんらばんしょう』でした。


 ラートは歌の実力がすぐれているのはもちろん、ひとなみはずれて広い音域でも知られていました。

 天の高みの高音から、地の深みの低音までをひとりで歌い上げることができたのは、あとにもさきにもラートだけ。

 無理にまねをして声を失った歌い手もいたため、『森羅万象』をステージで歌うのは原則、禁止されているほどのむずかしい曲です。

 ですので今回は、高音域をリーナが、低音域をルカがぶんたんしつつ、もっと歌いやすくアレンジしたオリジナル・バージョンをひろうしました。


 曲のさいごに、世界の全てを愛し、祝福し、幸せをいのるフレーズがそらにひびいて消えてゆけば、会場はいたいほどのしずけさに包まれました。



 やがて、ぱちり。だれかが手をたたきます。


 ぱち、ぱち。


 ――ぱちぱちぱち。



 そこからあとは、どとうのよう。

 お客さんもスタッフも、ぜんいん立ちあがって、かんせいを上げます。

 アンコール! アンコール!

 アンコール! アンコール!

 そのひびきは、地面をゆらすほどでした。



「すごい……こんなのはじめて!」

「ちょっと怖いくらいだよ。でも、うれしい!」


 舞台袖で、リーナとルカはささやきあいます。

 ひたいの汗をふいて、すこしお水をのんで。

 かみと衣装と、のどの調子をととのえなおしたら、さあ、アンコールです。


 アンコールには、きょう歌った曲の中から、お客さんのリクエストをお聞きして歌うことにきめてありました(もちろん、『森羅万象』いがいですが)。

 三回のアンコール、いちばんにリクエストされたのはみんなだいすき『モッフールのうた』。

 次が、さいしょに歌ったポルカ。

 そしてラストはなんと、わらべうたでした。


 リーナとルカは予想外のことに、かたまってしまいます。

 だって、ふたりの一押しはバラード。二番目が、恋のワルツだったのですから。

 大人の声と音域を生かした、しっとりとしたナンバーよりも、軽快でゆかいな、もっといえば小さな歌姫『リーナ・ルーカ』の十八番おはこのほうが、人気だなんて!


 そのとき、ステージにあらわれたのは、アトラおじさんです。

「みなさま、今日は子供たちのステージにいらしてくださり、まことにありがとうございます」


 そういって一礼すれば、お客さんもスタッフさんもえっ? という顔になります。

 くにいちばんの有名キャラバンの団長さんのお顔は、みんなが知っています。

 でも、団長さんの子供といえば『リーナ・ルーカ』のはず。

 こんな大きい子供は、いたっけ?


 ……というか、実はアトラおじさん本人も、エレンさんにまけずおとらず、なぞのひとなのです。

 どこからきたのか、むかしはなにをしていたのか。だあれも知らない人なのです。


 ぽかんとしているみんなの前で、おじさんは話し出しました。

 わたしが何者か、ぎもんの方も多くいらっしゃると思われます。

 今からさかのぼること、十七年前――

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