はれの舞台と、いがいな結末
へんしんしたリーナとルカは、まちのあちこちであらかじめ、予告公演をしていました。
短い歌を、たった一曲歌うだけ。それでもみんなが足を止めました。
キャラバンのひとや、冒険者ギルドのひとたち、いろんな知り合いの人にもおねがいして、宣伝もたくさんしてもらっていました。
意外なことに、バートはとても絵がうまく、彼の作ったビラやポスターは大好評でした。
そのおかげで、当日。
王宮の前庭にもうけられた、広いひろい特設会場は、押すな押すなのおおさわぎ。
ほかの場所だったら、完全にパニックになっていたところです。
きらきらまぶしいライトのなか、二人がステージに姿を現しました。
りっぱなわかものになったルカは、リオンが王子さまだったときの衣装を……
きれいなむすめさんになったリーナは、フィリスさまがとくべつに貸してくれたドレスをきています。
息をのむほどうつくしい、とはまさにこのこと。
満場の期待のなかで、ふたりは声を合わせ、歌いだしました。
かろやかにはずむポルカ、しっとりと歌いあげるバラード。
かけあいながら歌う恋のワルツにうっとりすれば、『リーナ・ルーカ』の十八番であった、元気なわらべうたで楽しく声をあわせます。
もちろん『こううんのドラゴン モッフールのうた』も、ひとつの目玉です。
どの曲もどの曲も、割れんばかりの拍手のあらし。
そんな中、ラストをかざる曲はなんと、あの伝説の吟遊詩人ラートののこした『森羅万象』でした。
ラートは歌の実力がすぐれているのはもちろん、ひとなみはずれて広い音域でも知られていました。
天の高みの高音から、地の深みの低音までをひとりで歌い上げることができたのは、あとにもさきにもラートだけ。
無理にまねをして声を失った歌い手もいたため、『森羅万象』をステージで歌うのは原則、禁止されているほどのむずかしい曲です。
ですので今回は、高音域をリーナが、低音域をルカがぶんたんしつつ、もっと歌いやすくアレンジしたオリジナル・バージョンをひろうしました。
曲のさいごに、世界の全てを愛し、祝福し、幸せをいのるフレーズがそらにひびいて消えてゆけば、会場はいたいほどのしずけさに包まれました。
やがて、ぱちり。だれかが手をたたきます。
ぱち、ぱち。
――ぱちぱちぱち。
そこからあとは、どとうのよう。
お客さんもスタッフも、ぜんいん立ちあがって、かんせいを上げます。
アンコール! アンコール!
アンコール! アンコール!
そのひびきは、地面をゆらすほどでした。
「すごい……こんなのはじめて!」
「ちょっと怖いくらいだよ。でも、うれしい!」
舞台袖で、リーナとルカはささやきあいます。
ひたいの汗をふいて、すこしお水をのんで。
かみと衣装と、のどの調子をととのえなおしたら、さあ、アンコールです。
アンコールには、きょう歌った曲の中から、お客さんのリクエストをお聞きして歌うことにきめてありました(もちろん、『森羅万象』いがいですが)。
三回のアンコール、いちばんにリクエストされたのはみんなだいすき『モッフールのうた』。
次が、さいしょに歌ったポルカ。
そしてラストはなんと、わらべうたでした。
リーナとルカは予想外のことに、かたまってしまいます。
だって、ふたりの一押しはバラード。二番目が、恋のワルツだったのですから。
大人の声と音域を生かした、しっとりとしたナンバーよりも、軽快でゆかいな、もっといえば小さな歌姫『リーナ・ルーカ』の十八番のほうが、人気だなんて!
そのとき、ステージにあらわれたのは、アトラおじさんです。
「みなさま、今日は子供たちのステージにいらしてくださり、まことにありがとうございます」
そういって一礼すれば、お客さんもスタッフさんもえっ? という顔になります。
くにいちばんの有名キャラバンの団長さんのお顔は、みんなが知っています。
でも、団長さんの子供といえば『リーナ・ルーカ』のはず。
こんな大きい子供は、いたっけ?
……というか、実はアトラおじさん本人も、エレンさんにまけずおとらず、なぞのひとなのです。
どこからきたのか、むかしはなにをしていたのか。だあれも知らない人なのです。
ぽかんとしているみんなの前で、おじさんは話し出しました。
わたしが何者か、ぎもんの方も多くいらっしゃると思われます。
今からさかのぼること、十七年前――