さいごの変身
実験はかんたんなものでした。
まえに入れかわったときのように、別のへやのベッドの上で、ねむりぐすりを飲んでよこになります。
目を覚まし、体をおこすとルカは、みてごらん、とエレンさんから大きなかがみをわたされました。
かがみのむこうからこちらを見ている男のひとは、どこかでみたことのあるひとでした。
ルカを思わせるはれやかな金髪と紫の瞳。
けれど、かわいらしくやさしそうなルカとはちがい、きりりっとハンサムな、それでもとってもやさしそうなすてきなひとです。
「ええっと……もしかして、ラートさま?」
声に出してといかければ、かがみの中の男のひとも、同じように口をうごかします。
えっとおどろいて、自分の顔をぺたぺたさわって、おおきくなったからだをみおろして、ようやっとルカはそれが、変身した自分のすがたとわかりました。
立ち上がってみれば、ちょっとふらふらするけど大丈夫。
エレンさんは、おおきくなったルカをみんなのところへつれてきました。
みんな、大いにおどろきます。
「ええと、その人は……」
「もしかしてルカ? ルカなのか?」
おとうさんはさすがです。すぐに、わが子とみぬきます。
バートはわらって軽口をたたきます。
「おいおい、こりゃリオンよりずっとハンサムだぞ。どうなってるんだ?」
「ふふ、ないしょ。
さあルカくん、うたってごらん。すてきな声が出るはずだよ」
エレンさんのうながしで、ルカは歌ってみることにします。
いつものキーでは高すぎます。なんどか試して、軽く発声練習。
いつも練習用にうたう歌をうたってみると、まるでふかみがちかいます。
「あれ? もしかして、ラート様?!」
おどろいているともうひとつのへやから、きれいな女のひとがでてきました。
かつてくにいちばんの歌い手として名をはせた、けれど十七年前とつぜんどこかに消えてしまった、伝説の吟遊詩人ラートの名前をよんでいます。
「ちがうよおねえちゃん、ボクだよ。ルカ!」
「うっそー!」
「あのう、そういうあなたさまは……?」
かるくちをたたいていたバート、こんどはしどろもどろです。
「もうっ、あたしよバートさん。リーナ!」
「えっえっええええっ!!」
「バート、驚きすぎだって。リーナちゃんは変身してるんだから。
えっと、それでエレンさん。俺は、何をすれば……」
リオンがたずねると、エレンさんはうん、とうなずきました。
「王宮にステージを作って、この子たちのコンサートを開かせてはもらえないかな?
なまえをふせた、歌い手として。
モッフール陛下の弟ぎみである君ならば、なんとかできるはずだ」
リオンはすこしびっくりしましたが、それならそうむずかしいことでもありません。
いまやりっぱな王さまとなったお兄さんに、さっそくおてがみを書きました。
そうして全てを打ち明ければ、心優しいモッフール王が、断るわけもありません。
リオンとモッフールさま、モッフールさまのお妃さまのフィリスさまは、いろんなひとにお願いをしてまわりました。
そうして一週間後、ついにその日がやってきました。