“歌姫”ルーカのぜつぼう
しかしよくじつも、のどの調子はおかしいのです。
のどあめとお茶、歌姫としてのけいけんで、ごまかしごまかしうたいますが、声はどんどん、おかしくなっていきます。
たかい声が、でにくいのです。
むりをすれば、すぐに割れたようにひずんでしまいます。
子供ながら、ながく歌ってきたリーナにはわかります。
あれだけきれいだった『天使のうたごえ』が、なにか、別のものになろうとしていることが。
ぜったいにおかしいわ。ここのところ、やけにドレスもくつもきつい。
ついにたまりかねて、お父さんにそうだんしました。
すると、それはしかたのないことなのだ、と言われてしまいました。
ひとは大きくなるとね、どうしても、声がかわってくるんだよ。
からだも、どんどんたくましくなる。
だってルカは、男の子なんだから。
もともとリーナには、わかっていたことです。
ルカは男の子。10さいともなれば、声もかわり、体も大きくなっていきます。
でもそのことが、わが身のこととしてふりかかると、それは重く、おもく、リーナのむねをふさぎます。
もう、わたしは――ルカは――うたえないんだ!
そう思うとまるで、目の前がまっくらになったようでした。
お父さんは、いままでむりをさせてすまなかったと、ぎゅっとだきしめてあやまってくれました。
いっぽうリーナのこころには、ルカへの申し訳なさがひろがってきます。
ルカはこんな怖さにたえて、がんばっていたのか。わたしがいないあいだはひとりで。わたしが泣いているときは、やさしくなぐさめてくれながら。
ごめんなさい。ごめんなさい。ルカ、ごめんなさい。
リーナの目からは涙があふれだしました。
けれど、その胸にはひとつの決意がうまれていました。
* * * * *
三人でかわるがわる、涙ながらにすべてを話し終えると、リーナはふかく頭をさげます。
「おねがいしますエレンさん。わたしたちを、このままにしてください。
だってルカは、ルカはわたしよりずっとがんばってきたのに、歌だってずっとうまいのに、もう未来を閉ざされてしまうんです。
そんなの、かわいそうすぎます。
そんなくらいならわたしが、ルカのかわりに男の子になります。
ルカを、歌姫でいさせてあげたいんです。
どんなことでもします。エレンさんのために一生はたらきます。おねがいします!」
アトラおじさん、ルカもさんざん話し合った後なのでしょう。
はらをくくったようすで、頭をさげました。
きけばきくほど切ないおはなしでした。
一緒にいたリオンも、涙をこらえています。
バートは、じっとうつむいてかたまっています。
エレンさんはそんなみんなを、ひとりひとりじっとみて、しずかに目を閉じます。
そうして、しばらくすると、こういいました。
「それじゃあ、リーナちゃんとルカくんには、ひとつの実験につきあってもらおう。
リオン君にも、ひとつの依頼をはたしてもらいたい。
それでいいなら、ふたりを『入れかえたまま』にしてあげる。
でも、今度『入れかえ』をしてしまったら、二度と元にはもどれない。
どんなにたのまれても、うまれかわった後の人生までぜんぶくれるといわれても、絶対にだよ。
いいね?」