あらたなふたごの歌姫ライフ!
はたしてやってきたのは、アトラおじさんに連れられたルカでした。
ルカのむらさきのひとみはくらくしずみ、すてきなエレンさんにお茶をすすめてもらっても、しょんぼりとかたを落としたままです。
エレンさんは、みんなにこうたのみました。
「わるいけれど、ほんのしばらく外に出ていてくれないかな。
リーナちゃん、ルカちゃんと、三人だけで話をさせてもらいたいんだ」
しばらくたって……
ふたりをつれてアトリエからでてきたエレンさんは、こういいました。
「あした、もう一度ここにおいで。
ふたりを一時的に、歌えるようにしてあげる。
でも、それは一ヶ月のあいだだけ。
それをすぎたら、元にもどってしまうから、その間に、どうするかを考えておいて」
* * * * *
次の日のこと。
アトリエにやってきたリーナとルカは、ねむりぐすりでねている間に、おそろいの銀のうでわをはめてもらいました。
うでわのひとつにはむらさき、もうひとつにはみどり――ふたりの目の色とおんなじ色をした石がはめこんであります。
みどりの瞳のリーナにはむらさきの、むらさきの瞳のルカにはみどりのほうがはめられました。
ふたりが目をさませば、効果はたちまちあらわれました。
リーナは声が出るようになり、ルカも明るい表情で、ふたり声をあわせて歌いだします。
春風のようなハーモニーに、町の人たちや、ねこたちも集まってきます。
『リーナ・ルーカ』完全ふっかつのステージは、町角ゲリラライブとあいなったのです。
エレンさんはにこにこして言いました。
「今日はいいものを聞かせてもらったよ。ありがとう。
うでわのお礼は、今ので充分だ。
いいかい、一ヶ月たったら、そのうでわはこわれてしまうからね。
でも、そのまえにでもこれをはずして、元にもどりたくなったらまた、ここへおいで」
アトラおじさんとリーナとルカは、なんどもなんどもお礼をいって、キャラバンの待つパペルのみなとまちへもどっていきました。
『リーナ・ルーカ』はたちまち、人気の歌姫にかえり咲きました。
ひらくステージひらくステージ、連日大入り満員です。
けれど、それから二週間ほどあと。
『リーナ・ルーカ』は、とつぜん解散してしまったのです。
* * * * *
ふたたびリオンとバートにつれられて、アトラおじさんとリーナとルカは、エレンさんのアトリエにやってきました。
みんな、この世の終わりのような顔をしています。
エレンさんはお茶を入れて、話をきいてくれました。
さいしょに話しだしたのは、むらさきのひとみのルカのほうです。
「わたし、目がさめておどろきました。
だって、声が出るんですもの!」
あれほどがんばってもでなかった声が、まるでうそのようにすいすい出るのです。
それも、あのきれいなかわいい声で、ちょっとにがてなトリルもやすやす歌えます。
かがみを見れば、目はむらさき色。顔と体もちゃんと、ルカのものになっています。
やった、エレンさんのいってくれたとおりだわ。
ルカ、いいえ、体をルカと入れかえたリーナはもう有頂天です。
となりをみれば、自分と入れかわったルカがうれしそうに笑っています。
手を取り合ってはしゃげば、すこしだけせきが出ましたがそれだけです。
うれしくてうれしくて、ふたりはそのままうたいだしてしまいました。
しばらくそうして、リーナとルカはあらたな歌姫ライフをまんきつしました。
あこがれていた、相手の声でうたえるのです。
自分のにがてだった歌い方もおもいのまま。
リーナはしあわせのなか思います。
もう、一生このままでもいい!
そうだわ、エレンさんにおねがいして、わたしたちをこのまま、いれかえたままにしてもらおう!
しかし、それをいうとルカは顔をくもらせました。
それはよくないよ、やっぱりやくそくどおり、もとにもどらないと……
そう、かなしそうなかおで言います。
そんな、だってこんなにたのしいのよ。
ルカだって、そうでしょう?
そのとき、リーナはまたせきこんでしまいます。
すこし、のどを使いすぎてしまったかしら。のどあめをなめて、お茶をのんで、今日はすこしだけ早くねましょう。
ルカもはやくねなさい、リーナはそういって、おへやに入っていきました。