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町医者ジルと、錬金術師エレン

 もしかして、とてもこわい目にあったからでしょうか。

 それとも、なにかほかに原因があるのでしょうか。

 まずふたりは、リーナをお医者さまにみてもらうことにしました。

 リオンたち、冒険者がよくおせわになる町医者のジルさんは、ちょっと変わりものですが、とっても美人で、うでのたしかなお医者さまです。

 なにより、しっかりひみつを守ってくれます。

 そこでふたりは、リーナをジルさんのところへつれて行きました。


 しばらく診察をしていたジルさんは、かなしい顔でくびをふりました。

「この子はね、心が疲れはててしまっているんだ。

 それをいやすためには、歌をはなれて、のんびり休むしかないよ。

 でもね、この子は何年もがんばってきた。それを一年そこらで治せなんて、無茶だしかわいそうでもあるよ」

『そんな、それじゃあこまります!』

 リーナは筆談でうったえかけます。

『わたし、こうなってわかったんです。

 みんながどれだけ、わたしを心配してくれていたのか。

 わたしがきゅうくつな思いをしないですむよう、どれだけがんばってくれていたのか。

 町のひとたちに、わたしたちがさんぽしているのをみても、そうっとしておいてあげてくださいって、いつもみんなでお願いしてくれていたんです。

 そのほかにも、いろいろ、いろいろ……

 だからわたしは、やらなきゃ、いけないんです!

『リーナ・ルーカ』キャラバンは、いまが花の咲かせどきなんです。

 このまま一年もたってしまったら、もうにどと、取りかえしはつかないんです!』

 こうふんしたリーナは、声の出ないのどで、けほけほとせきこみます。

『ルカがまだ、ああやって歌えるうちに。どうしてもなおしたいんです。おねがいします!』

 美しい緑のひとみに涙を浮かべ、リーナはなんども頭をさげました。


「……しょうがないね」

 しばらくうなっていたジルさんは、やがてため息をつきました。

「あたしの知り合いに、すごうでの錬金術師がいるんだ。

 クレールのエレンという名をきいたことはあるだろう?

 あいつならひょっとして、何とかできるかもしれない。

 というか、あいつでだめなら、もうあたしにはお手上げだ。

 あとは、王家のツテでもたよるしかないだろうけど、それでもやれるやつはいるのかどうか――」

「なるほど、それで……」

 バートの顔がちょっとくもりました。

 でも、リオンはすなおに納得しています。

「いいんだ、バート。

 おやじさんの判断は正しいと思う。

 そういう可能性があるならば、もと王子の俺に頼むのがいちばんいい。

 あいぼうのお前も、いままで依頼はまじめにこなしてきた。そのことを評価してもらえたんだよ」

「そっか。ありがとな、リオン」

 それをきくと、バートはにっこり笑顔になりました。

 そんなふたりのすがたに、ジルさんとリーナも、くすっと笑顔になりました。

「そうときまったら行った行った。

 知ってるだろ、クレールは猫いっぱいの町だよ。かわいい猫たちに癒されといで」

 じつは、リオンもバートも、リーナも猫はだいすきです。

 三人はもっと笑顔になりました。

 ジルさんにていねいにお礼をいって、三人はさっそく、クレールへと向かいました。


 * * * * *


 エレンさんはなぞの人物です。

 すらりと背が高く、すっきりとととのった顔立ち、ひとつにまとめた星銀色の髪はおとぎの国の王子さまのようでもあるし……

 優しいお声とあたたかい手は、みんなのお母さんのよう。

 おとこのひとなのか、おんなのひとなのか。どこからきたのか、なんさいなのか……

 だれも知りませんが、錬金術のうでまえは一流と、くにじゅうの誰もが知っています。

 そんなエレンさんは、リーナを診察するといいました。


「リーナちゃんは、歌うことが怖いのかい?」

『いいえ、ちっとも!

 みんなが待ってくれているんです。

 かならず、声をとりもどして、ぜったい、舞台にもどります!

 そうしたら劇場をいくつも大入り満員にして、王宮におよばれしたら、王さまたちにおほめいただけるような、すばらしい歌をうたうんです!

 伝説の吟遊詩人ラートさまの『森羅万象しんらばんしょう』。ことしこそカンペキに歌えるようになります。

 ぜったい、ぜったいにです。わたしは、そうできなくっちゃいけないんです!!』


 ここにくるとちゅう、ねこたちとあそんで少しげんきになったのでしょう。

 リーナはいきおいこんで目標をつづります。

 けれど、そんなリーナをみるエレンさんの目には、いたましげな表情がうかんでいます。

 リーナはまだ気付いていません。

 が、リオンとバートには、もうわかっています。

 どうしよう。ふたりが顔をみあわせると、だれかがアトリエのドアをたたきました。


「リオンたち、ここにまだいる?

 アトラおじさんがギルドで待ってるわ。すぐむかえに来て!

 エレンさんごめんなさい。大至急、もうひとり見てもらいたい子がいるのだけれど……」


 やってきたのは、冒険者の知りあい、ティコでした。

 お父さんが、どうかしたのかしら? リーナは不安でおもわず立ち上がります。


「よかった。ちょうどその子のことも診察したかったんだ。

 リオン君、バート君、すぐにおじさんたちを連れてきてあげて。

 リーナちゃんは、ティコとここで待っておいで。ここまでの旅でつかれているだろう?

 お茶をあがって、すわっていなさい。のどにやさしいハーブだからね」


 エレンさんのやさしい笑顔に、リーナのほっぺたはちょこっと赤くなりました。

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