冒険者リオンと、ひみつの依頼
こううんのドラゴン『モッフール』のちからで、お城をぬけ出してから半年あまり。
もと王子の青年リオンは、すっかりりっぱな冒険者になっておりました。
親友であいぼうのバートとともに、ときにはなくしものを探しだし、ときにはまものをたいじして、あちらこちらで人を助けておりました。
お城にこもっているだけでは、こんなことはできなかった。
どんなに剣がうまくても、学問ができても、だれも助けてあげられなかった。
でもいまはちがう。この手で、ひとを助けてあげられる。だれかをちょっとでも、しあわせにしてあげられるんだ。
そう思うたび、リオンのきもちははずみます。
リオンがうれしいと、あいぼうのバートもうれしくなります。
ときには大変なこともあるけれど、なかよしふたりならへっちゃらです。
リオンとバートはそうして、冒険者としての毎日をまんきつしておりました。
北の町にもいきました。南の村にもいきました。
ずいぶんいろいろ回ったし、こんどは海をわたってみようか?
ふたりはそう話して、パペルの港町にやってきました。
どうせだから、海の向こうへのお届けものの依頼をうけていこう。
そう思って冒険者ギルドをのぞくと、ギルドのおやじさんがとびだしてきました。
「ああよかった、さがしてたんだ!」
――俺のふるい知り合いなんだが、助けてやっちゃくれないか。
リオン様とバートだから、たのみたいんだよ。
こんなたいへんなこと、他の人にはなかなかいえないからな。
たくましいおやじさんはそう言いながら、ふたりをギルドのおくにある、きれいなへやへとそうっとつれて行きました。
お茶を飲みきる前にやってきたのは、困りはてたようすのおひげのおじさん。
そして、しょんぼりとうつむくきれいな金髪のこどもたち。
よくみればなんと、その子たちはあの有名な『リーナ・ルーカ』です。
ふたりの父親で、『リーナ・ルーカ』キャラバンの団長であるアトラおじさんは、深く深く一礼して、おはなしを始めました。
* * * * *
アトラおじさんはちいさな旅芸人キャラバンをひきいて、国じゅうを回っていました。
旅芸人キャラバンというとたのしそうですが、現実はきびしいものです。
小さくて地味なおじさんのキャラバンは、お客さんもすくなくて、おじさんはいつも困っていました。
ある日、見かねたおじさんの子供たちが、自分たちもなにかする、とお手伝いを申し出てくれました。
まだ小さなこどもたちにできることといったら、かわいらしい声で歌うことぐらいです。
でも、おじさんは幸運でした。
ふたりの子供はとても歌がうまくて、声もきれい。
そして、とっても可愛いふたごだったのです。
リーナとルカが、ふたごの天才歌姫としてステージに立てば、うわさはあっという間にひろまりました。
『リーナ・ルーカ』キャラバンと名を変えたキャラバンは、くにいちばんの有名キャラバンになったのです。
……しかし、何年かたったころ。
リーナは『わたしなんて、ルカにくらべたらぜんぜんだめ』といいだし、元気をなくしはじめたのです。
おじさんたちからすれば、ちっともそんなことはありません。
でも、リーナはみんなの説得でもなっとくできず、ある日すがたを消してしまったのです。
近くのガケの上のさくはこわれていて、みんなが最悪のじたいをかくごしました。
谷ぞこでみつかったリーナには、幸運なことにかすりきずひとつありませんでした。
ですが、その日いらい、声を失ってしまったのです。
* * * * *
アトラおじさんは、涙を流してたのみこみます。
「いまは、むずかしいのどの病気でちりょう中ということにしてありますが、いつまでもごまかせるわけではありません。
長くもっても、半年でしょう。
それまでになんとか、おねがいいたしします。
この子が、もういちど歌えるようにしてやってください!」
こうしてリオンとバートのもとに、ちいさなお客さまがくわわったのでした。