バートとリオンの「みらいよそうず」(2)
おさなくして亡くなった兄上のことを、いつも話していた父上。
それでもさいごには、いまはお前だけだよ、おまえは元気にそだっておくれと、自分を抱きしめてくれた父上。
けれど、リオンはみてしまったのです。
ふるびた写真のなか、笑っている小さな兄上に向けて、あやまりながら涙を流すすがたを。
その日から、リオンはがんばりました。
自分は、兄上にはなれない。だからその分自分として、父上を喜ばせてあげようと。
べんきょうも、たんれんもがんばりました。
論文大会、剣術の試合。かがやかしい成績をのこすたび、父上はとても喜んでくれました。
けれど、いつからでしょうか。
それだけでは足りないと、リオンが思い始めてしまったのは。
こっそりお城をぬけ出して、友だちをつくり、ともに冒険のゆめを見はじめたのは。
そして、いつからでしょうか。
父上が怖い顔でこっそり、だれかに指示を出すようになっていったのは。
リオンがどんな成績をとってきても、父上は笑ってくれなくなりました。
それどころか、城の外に出ることもかたく禁じられ、友だちと会うこともできなくなってしまいます。
そうしてある日父上は、兄王さまの客人を、リオンに斬らせようとしたのです。
そうとは知らぬままとはいえ、愛する息子のうまれかわりをです。
こっそりお城にのり込んできたもふもふドラゴンからその話を聞いたとき、リオンの気持ちはかたまりました。
自分は、城を出よう。
兄上の魔法でぬいぐるみになり、フィリス姫の手でモッフール離宮に連れて行かれたら……
そのまま町に出て、バートといっしょに冒険の旅にでようと。
でもそれは、父上への怒りからではありません。
それは、一度はショックを受けました。
けれど、とうの本人 (本竜?)は、父上を前世の父と、やさしく思いやってとりなします。
それゆえに、怒ることもなかったのです。
つまり……なんといったらいいのでしょう。
そう、ただ『そのときがきた』とささやく声が、リオンのこころに聞こえたからなのです。
それからすぐ、兄上と父上、自分と父上は和解しました。
それゆえリオンは、もと王族として国をよくするためにと、『むしゃしゅぎょう』という名目で、どうどうと冒険者をしているのです。
子供のころから夢みたように、この手でだれかを幸せにするために。
けれど、リオンは考えます。
こんどのコンサート。たったの一週間で、王宮でのかいさいにこぎつけたのは、やはりリオンがモッフール陛下の弟さまだったからです。
ギルドのマスターや、いろいろなひとが「リオン様だから」と信用してくれるのも、半分くらいはそれがあってのものなのです。
だから、リオンは考えます。
もし、王族としての自分が、求められる日が来たならば。
兄上たちが、王弟としての自分の力を、必要として自分をよぶ日が来たならば。
そのときは、お城にかえろう。そして、この生活でつちかった力をいかし、りっぱにお役にたってみせよう。そう、心にちかうのです。
* * * * *
リオン、そしてバート。
なかよしふたりは、それぞれの『みらいよそうず』を胸に、歩いていきます。
けれど、ふたりの行く道は、今はまだひとつ。
次はどこに行こう、やっぱり海をこえようか、それとももう少しここをまわろうか。
そんな風にはなしあいつつ、歩いていきます。
あたまのうえの空は、青くあおくすみわたっています。
足もとには、ながくつづく街道。
若きふたりの冒険者は、なかよくにぎやかに話し合いながら、ゆっくりとその道のりを、たどってゆくのでした。
~おしまい~




