エレンさんのたからもの
錬金術師エレンさんといえば、ゆうめい人です。
お話をしたい人もたくさんいます。
モッフール王もそうでした。
もっとも彼は、お礼をいいたくて、ですが。
王さまらしくもなく、エレンさんがとまっているお部屋に自分でやってきて(もちろん、人のすがたでです)……
おれいを申し上げたいのでどうか、お話をさせてくれませんか、とていねいにお願いします。
ありがとうって、いいたければぱっと言っちゃえばいいのに?
いいえ、王さまともなるといろいろあるのです。
でも、そのくらいならまずお使いのひとを行かせればいいようなものなのに、王さまのバランス感覚は、ちょっぴりばかり不思議です。
でも、エレンさんもむしろそんな王さまとお話がしてみたくなり、こちらこそ、と丁重に一礼するのでした。
「あの……ありがとうございます、エレンさん。
弟とその友人が、たいへんお世話になりました」
「いいえ、こちらこそ、おふたりにはいろいろとお手伝いをいただきまして。……
陛下は、ほんとうにきどらないお方ですね。そして、リオン様も。
我々のような者たちにすら、わけへだてなく接してくださる。
やさしくあたたかく、幸せのてだすけをしてくださる。
聞いてみたかったのです、なぜ、そうしてくださるのか。
この地に生きるいのちのひとつとして」
「僕は、ええと……そうしたいからです!
モッフールとして生まれ変わるまえ、僕は不運な男の子でした。
でも、死んだときに思ったのは、生まれかわったらみんなとしあわせになりたいなってことで……それで、神さまが生まれかわらせてくれて。
そのあといろいろあったけど、いま僕は幸運のドラゴンだから。できるかぎりのことを、せいいっぱいしたいなあって、そう思うんです。
リオンは、やさしいからだと思います!」
ニコニコ笑ってのその答えは、まるでむじゃきなこどものよう。
それをみて、ああ、とエレンさんは納得しました。
これほどまでにすみきった、むじゃきな魂だからこそ、ただそこにいるだけでもしあわせをひきよせ、呼びよせることができるのだと。
エレンさんは知っていました。
あの日、がけからおちたリーナを助けたのが、一体だれかということを。
ドラゴンに生まれかわったわが身を悲しんで、モッフールが谷底に身をなげたとき。
地面にころげた背中にちょうど、リーナがおちてきたのです。
とてもいきおいよくぶつかったので、モッフールのせなかはちょっぴりかゆくなりましたが、リーナは無傷ですみました。
つまり、あのきせきのステージも、ふたごたちの明るい未来も、この幸運がなければ、ありえなかったものなのです。
でも、エレンさんはだまっておくことにしました。
このことは、いつか、時がきたなら知れればよいことなのです。
それまではこのひみつを、自分だけの宝物として、そっと胸にしまっておくことにしました。




