表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

ちいさな歌姫・リーナのかなしみ

 リーナは今日もそっと、キャラバンをぬけだしてあるきます。

 いっしょうけんめいおさえても、かなしいなみだがあふれてきます。


 やっぱりだめ。やっぱりむり。

 だって、ルカのほうがだんぜんじょうずに歌えるわ。

 声だって、わたしよりすきとおってずっときれい。

『ふたごの歌姫』なんて、やっぱりわたしには、むりだったのよ。


 きれいな歌姫のドレスをぬいでしまえば、リーナはただの、10さいの女の子。

 だあれも、きづいてくれもしないのです。

 この国でいちばん有名な『ふたごの歌姫リーナ・ルーカ』のリーナだなんて。


 すれちがうひとびとは、だあれも、こちらをみてくれません。

 そのことが、リーナのむねをきゅうっとしめつけます。


 やっぱり、わたしはいらない子。

 わたしがたおれてしまったときも、ルカはひとりでりっぱにおきゃくさんたちを楽しませていた。

『なんて、すてきなうただ!』『それにとってもかわいらしいわ!』

 まちじゅうのひとが、そういっていた。

 これがわたしなら、こうはいかないわ。

 歌も、声も、かわいさも。ルカよりずっとだめだもの。


 気づけばリーナは、村のはずれのまたはずれ、おおきなガケのそばにいたのです。

 下をみれば、目もくらむようなぜっぺき。

 上をみれば、谷のむこう。『伝説のりゅう』がすむという、とがった岩山がそびえます。

 これをみたリーナは、けしてしてはいけないことを、おもいついてしまったのです。


 そうだわ。ここからとびおりてしまおう。

 そうすればわたしはぺっしゃんこ。

 ルーカのおまけのさえない歌姫も、こんなだめな女の子もやめて、じゆうになれるわ。

 もし運わるくたすかったとしても、ここは『伝説のりゅう』のなわばりよ。

 きっとわたしはりゅうに食べられ、この世からきえてなくなれる。


 ――リーナは、ほんとうにそうしたいのでしょうか?

 いいえ、ちがいます。

 リーナのねがいは、ルカとおなじくらいきれいな声で、じょうずに歌をうたうこと。

 そうして、いつかだれかにふりむいてもらうこと。

『リーナ・ルーカ』のひとりじゃなく、この世でひとりの、リーナとして。


 そのためにリーナは、何年もがんばってきました。

 かみがたやドレスを、くふうもしました。

 いっしょうけんめいためたおこずかいで、まほうののどあめを買ってみたりもしました。

 もちろんれんしゅうも、いっぱいいっぱいしてきました。

 それでも、やっぱりルカはリーナよりかわいくて、すてきな声で、歌もずっとうまいのです。

 みんなが『そんなことないよ』といってくれても、リーナにはわかります。

 いっぱいいっぱいがんばったからこそ、リーナにはわかってしまうのです。


 キャラバンのみんな、いつもありがとう。

 ルカ、だめなおねえさんでごめんね。

 そしてごめんなさい、おとうさん、おかあさん。リーナはもう、がんばれません。


 目のまえがなみだでくもります。

 リーナにはもう、なんにもみえません。

 ふらふらと、“転落防止”とかかれたさくにちかづき、ふるえる手をかけました。


 そのときです。

 雨風でいたんでいたさくがこわれて、リーナはいきなりまっさかさ。

 どんどん流れていくけしき、とめどなくおちていく感覚に、なにがあったのかをさとります。

 こわさでからだがすくみます。

 いやだ、やっぱりこわい。しにたくない、しにたくないよ!


 そのとき、なにかやわらかなものがリーナをうけとめました。

 それはまっしろで、もふもふとした、いちめんのきれいなけなみ。

 あたたかなそれにつつまれて、リーナは気をうしないました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ