3, 花火の帰り道
そのあとすぐに結衣と慎太郎が来て、屋台をまわったり花火をみて、21時ごろに帰ることにした。
結衣と慎太郎は違う方向だったから、帰り道は山本さんと2人きりだった。
僕の心臓は慎太郎たちと別れる前から鳴りっぱなしで、2人で並んで歩き出した頃には、花火のように破裂してしまうんじゃないかと思うほどだった。
僕が緊張して頭真っ白になっていると、山本さんから話題を振ってくれた。
「瑞生くんって兄弟とかいるの?」
「僕はいないよ、一人っ子。だから家の手伝いとか全部僕がやらされるんだ」
「山本さんは?」
「私は兄がいるよ、今は別々に暮らしてるんだけどね」
詳しく聞いてもいいのかどうかわからずに、僕は
「そーなんだ」
とだけ言って話題を変えようとした。だか先に口を開いたのは山本さんだった。
「聞かないの?兄のこと」
「いや、、、聞いてもいいの?」
「だめ。秘密事項なの!誰にも話せない」
僕をからかうようにそう言ってから、またあの時と同じように下を向いて切なそうな顔をした。
顔を上げた彼女と目が合い、少しの間沈黙が続いて、そういう雰囲気になった僕らはキスをした。彼女は再び下を向いて切なそうな顔する。
深い意味はない。完全に流されてしまった。
好きな女の子にあんな風に見つめられたら、普通我慢できない。
正直頭の中は真っ白で、何を言えばいいのかわからなかった。
そのまま沈黙が続いて、気がつくともう駅についていた。電車の中は花火の帰りの人でいっぱいで、とても話せる状況ではなかった。
僕が少女漫画のヒーローだったら壁ドンでもして、人混みからかばうこともできただろうが、それどころではないし、何より僕にそんな度胸はない。その日は山本さんを家まで送ることなく、駅からそれぞれの家に帰った。