2, 夏の始まり
2 夏の始まり
7月24日、夏休みが始まって3日目のことだった。僕はバイト帰りになんとなくコンビニに入り、そして夏の暑さに耐えられずアイスを買った。
コンビニを出て、家に帰ろうと歩き出す。
と、そこで結衣に会いにバイト先に来ていた山本さんがいて、目があった。
晒すのも感じ悪いと思ったので声をかけた。
「暑いね」
急だったからこんな言葉しか出てこなかった。
山本さんは少し驚いた様子で
「そうだね」
とだけ返して来た。
「あ、じゃあね」
クールに見えて、実はコミュ障の僕にはこれが限界だった。
このたったの5秒ほどの短い時間に幸せを感じながら、僕は帰ろうと再び歩き出した。
そこで山本さんが僕を止めた。
「あ、あのっ!!いい名前だよね!秋山瑞生って、、」
「じゃあ、それだけ、、、」
「え?あ、うん。ありがとう」
正直僕には意味がわからなかった。秋山瑞生
あきやまみずき
とは僕の名前だ。
だからどうした?
まさか、彼女も僕に興味を持っているとか?
いやいや、それはない。思い上がって違っていたら恥ずかしい。
そんなことを考えている間に、僕のアイスはこの暑さの中で固体から液体に変わっていた。
翌日、バイト先で結衣から今夜の花火大会に誘われた。それには山本さんもくるらしくて、結衣に慎太郎も誘っとけと言われた。
結衣は高校に入ってから、すぐに慎太郎に好意を寄せていた。
結衣はバイトが終わると花火大会の準備をすべく、さっさと帰っていった。
僕はというと、実は少し楽しみだった。
待ち合わせの5時半。着いたのは僕が1番らしい。花火大会だから山本さんも浴衣を着るのかな、なんて少し、ほんの少しだけ心を踊らせながら3人を待っていた。
次に来たのは山本さんだった。浴衣はというと、着ていなかった。
心の中でさっきまで心を踊らせていた自分を殴りながら聞いてみた。
「浴衣じゃないんだね、結衣が着てくるって言ってたから山本さんもそうかと思ってた。」
まるで、君が浴衣じゃなくて残念だといっているように聞こえて、僕は再び心の中で僕を殴った。
「うーん、着ないのに特に理由はないけど、、歩きにくくなっちゃうから!ほら、走ったりできないでしょ!!」
山本さんはそう言って笑ったあと、下を向いて少し切なそうな顔をした。その時なぜか僕の鼓動は早くなった。そして彼女のその表情から目をそらすことができなかった。