第5話 新たなる羊②【骸骨視点】
《処刑斬首》――ショケイザンシュ――
花子ちゃんは何の躊躇もなく一瞬で現れた大剣をヒコ助の眼前に突き付けていた。その動作は瞬きするほどの間しかなく、全く無駄がなかった。
「片腕しか使えず、片足も折れた今の私でもアンタのジェネシスを破壊した後、女の子の親指みたいに小さいチ×コを切り落とすことぐらいはできる」
……まるで見えなかった。《即死愛撫》も使わずに。いや、《即死愛撫》を使えば攻撃が来ると分かる。予備動作として察知されかねない。だからこそ、いや計算しているのかは分からないが、花子ちゃんは“敢えて”《即死愛撫》を使わずに《処刑斬首》だけを使用したのだと僕は直感した。
……また、この子は一皮剥けた。“負けて”強くなった。百鬼零、オメガ、ピュアホワちゃんを同時に相手どったことによって更に進化したのだと分かる。
「動くな」
ヒコ助が息を呑んだのと同時に、花子ちゃんは命令を下した。
「確かにお前は一対一の対人戦、こと格闘戦においては《赤い羊》の中でもズバ抜けているし、戦闘狂という、ただその一点の狂気に関してだけは透以上。そこは私も認めているし、お前を買っている。だが……」
花子ちゃんの目はヒコ助を静かに射抜いた。その目はまるでピラニアのように血走っていて、殺気が電流として散らばっているのではと錯覚する程の威圧感があった。
「お前は今、私に生かされていると気付け」
「あ、ああ。悪かったよ。ちょっとした冗談だろ。マジになるなって。あと俺のチ×コはそんなに小さくねえからな?」
ヘラヘラとヒコ助はおどけたように笑みを浮かべ、両腕を上げた。
「あまり調子に乗ると本当に切り落とした後ソテーにして食わすからな? ケチャップをたっぷりかけてな。血の味と判別つかなくしてやる」
「あ、ああ。悪かったって。でも俺のチ×コはそんなに小さくねえからな?」
焦ったようにヒコ助は花子ちゃんに詫びを入れている。上っ面ではなく、本心で。
ヒコ助の性格はとても分かりやすい。分かりやす過ぎるほどに。
強者には従順。弱者には絶対的支配。
たったこれだけ。
この二つだけがヒコ助の自我を構成していると言ってもいい。
頭が悪く、単細胞で、暴力だけを信奉し、人の死に欲情する狂人。
ただの馬鹿なのだが、それでもSSに到達し《赤い羊》となった男。異能も単純過ぎるし頭のキレも小学生以下だが、純粋な《力》だけの土俵で戦えば誰にも負けない男。
暴力に特化した狂気の愚者。暴力の化身。ヒコ助に能力を使わせる前に花子ちゃんは《処刑斬首》を使用したが、ヒコ助が先に異能を出していたら花子ちゃんに勝機はなかっただろう。ただ、それでも負けは負けだ。深くは考えず花子ちゃんは自分より強いとヒコ助は納得し、素直にまた従順に戻った。
「ある意味恐ろしい男よね」
いばら姫ちゃんがボソリと、「愚かさという点で」と付け加えている。相変わらず毒ばかり吐くなぁと苦笑がこぼれる。
「んーーー、ちょっと納得いかない……かも」
撤退の空気が流れる中、一人の女がゆっくりと手を挙げる。リリーちゃんだ。
「いばら姫ちゃんの《自在転移》でアジトに戦力外の人たちを置いて安全確保してから、またここに戻ってきてあの二人を狩るっていう発想はないの? やられっぱなしだよね、正直」
リリーちゃんは不満げに唇を歪める。
「アンタはあいつらをなめ過ぎている。零が選び、そして零を選んだ女。ギリギリまで私を追い詰めた。これ以上深手を負うリスクを上げる理由がない。何よりオメガは間接的とはいえ透を一度殺す要因を作った存在。無理に戦う理由はもうない」
「ねえ、花子ちゃん。花子ちゃんの言ってることは分かるし、正しいとは思うんだ。でも……ちょっと疑問がある、かな」
「……どういう意味?」
場合によっては殺すとでも言いたげ目じりを細める花子ちゃんに対し、リリーちゃんは困ったように笑う。




