第5話 新たなる羊①【骸骨視点】
「笑っている場合ではないわよ、骸骨。透をよく見てみなさいな」
いばら姫ちゃんの忠告で僕の意識は現実へと引き戻される。
《冒涜生誕》は確かに成功した。、百鬼零からもジェネシスがあふれ出している。まだ目覚めてはいない。《冒涜生誕》で蘇生直後の人間は三日三晩程度は眠り続け、そして“その間僕はジェネシスを一切使えなく”なる。
そう、《冒涜生誕》はあまりにも代償が大きい。死者の記憶が消え、僕が一時的に無能になる。《死姦人形》や《死屍累々》を使っても特にそのような代償はないが、異能の性質によっては手痛い代償を払わされることもある。
正直、《処刑斬首》で処刑されたジェノサイダーに対して《冒涜生誕》で蘇生できるか、ジェネシスが使えるかという不安要素はあったが、それでも――――
「ッ!?」
全身に戦慄が走る。言葉にならない驚愕。それほど、目の前の光景が理解を超えていた。
「ば、かな…………」
今後何かに驚くような事態なんてそうそうないだろうと思っていた。だが、今回ばかりは言葉が上手く出てこない。
「透、さん……」
蘇生直後の亡骸だった肉体がまだ目覚めることはないが、ジェネシスだけが煙のように身体からじんわりと染み出している。百鬼零からはジェットブラック、透さんからは――――
「何も、出ていない……」
見間違いかと思い目をこするが、やはり現実は変わらない。
透さんからはジェネシスがあふれ出していない。《冒涜生誕》は死者蘇生の能力。死者を生者として再生する異能。
「まさか……そうか。《処刑斬首》か……。百鬼零から与えられた異能の傷は《冒涜生誕》でも完治させるには至らないほどまでに深いのか」
僕らを統べる漆黒の王。絶対的な王。今までも、そしてこれからも完全無欠に僕らを殺戮と混沌の蔓延る自由な世界へ導いてもらうはずだった。だと、いうのに……。
「ま、この件は後ね。蘇生直後のデータは少ないし、目が覚めたらジェットブラックに戻る可能性も皆無ではないし。それに、花子。あなた、少し落ち着きなさいよ、みっともない。あなたは透がいないときの保険。司令塔なのでしょう? これから《赤い羊》としてどう動くのか、少しは考えなさい」
いばら姫ちゃんは怒り狂っている花子ちゃんに喝を入れている。
「…………」
花子ちゃんは忌々しげに目を眇めると、眠っている百鬼零に近づき、そっと身体を起き上がらせる。とはいっても、片腕で、だが。百鬼零に切り落とされてしまっている。
まるで大事な宝物のように、百鬼零を花子ちゃんは見つめている。
「感傷に浸っている暇はないわよ、花子。で、どうするの?」
いばら姫ちゃんは無感動な目で花子ちゃんを見下ろしている。
「……殺人カリキュラムは中止にする。透が使えない以上、ここにいる意味はない。私の目的も達成できた。不本意だけど、一度アジトに戻る」
「オメガとピュアホワちゃんはどうするの? このままじゃ逃げられちゃうけど。リリーの《発狂密室》も、オメガとピュアホワちゃんの能力次第では意味をなさないわ」
「本当は今すぐにでも殺しに行きたいけど、私は満身創痍、透と零と骸骨は戦力外の状態。深追いするのはーーーー」
そんな花子ちゃんの言葉を遮る言葉があった。
「なんなら俺が行くぜ? 狩ればいんだろ? ウサギを」
下卑た笑みを浮かべ、ヒコ助が名乗りを上げる。
「曲がりなりにも透が負けた相手。あまりなめない方がいい」
「ヒヨったか花子? 俺はもうお前をSSとは認めてねえ。無様に敗北して透さんの足を引っ張ってボロ負けしたくせにナンバー2とは笑わせてくれるぜ。その傷じゃあロクに戦えもしねえ。その辺の雄ザルにファ×クされて終わりだ」
矛盾部分削除。




