第4話 Fランクの怪物㉘
「――――やめろ、秋桜」
「…………っ」
俺が名を呼ぶと、花子は驚愕に目を見開き、攻撃をやめる。結とセリカは視界から消えていった。
「な、まえ……」
花子は泣きそうな顔で俺を見つめる。
「ずっと思い出そうとしていた。お前の名前を。やっと……思い出したよ。お前の名前は、コスモス。秋の桜だ。どういう字を書くんだろうって、国語辞典で調べたのをついさっき思い出した」
「よそ見していいのか?」
頭上から透の黒き剣が俺の脳天にぶちかまされる。俺は即座に回避。剣を召喚し、第二の異能を使うべき意識を集中させる。
――――イメージしろ。
殺すんだ。透を。この怪物を、殺す。イメージしろ!
《絶対不死》という異能を、漆黒のジェネシスを、打ち破れ!
「死を受け入れてまで僕を殺そうとするか。自分の命に価値を感じないのか?」
「惚れた女と大事な家族を守れねえような命なら、そんなもんドブにでも捨てちまった方がマシだ」
「……狂っているな、君は」
理解出来ないようなものを見るような目で、俺を見る透。
お前ほど狂ってねえよ……。と言いたい。
「なあ、透。お前、善は悪に勝てないと言ったな」
「確かに言ったが?」
「善は悪に勝てない。だが、善は悪よりも強い!」
《処刑斬首》――ショケイザンシュ――
俺の剣が、6メートルまで刃が伸びる。俺は、ありったけの殺意を込めて、透の脳天へとぶちかます。
「ふっ、いくらSSSになったからといって、僕の《絶対不死》は破れな――――」
切り裂いた。透を、頭から局部にかけて真っ二つだ。
血が、あふれ出す。
「かはっ」
俺の口から。
気付かなかった。背後に花子がいたことに。花子が俺の心臓に、剣を突き刺していた。
「……秋桜、お前、それでいいのかよ」
ゆっくりと振り返りながら、俺は言う。
「……あなたは私を救ってくれた。でも……透も、私を救ってくれた」
「……そう、か。じゃあ、しょうがないな」
苦笑しながら、俺はゆっくりとぶっ倒れる。
血のプールに。死ぬには、あんまりいい場所じゃないな……。生首が沢山、転がっていやがる。
――――だが。
俺はほくそ笑む。《処刑斬首》の能力効果。それは花子が見せたとおりだ。そう、この異能は…………切り裂いた相手のジェネシスを…………完全に消去する。《守護聖女》と異なり、一時的では無く永続的に消滅させる。俺がジェネシスを復活出来たのは、セリカの《聖女抱擁》を受けたからだ。だが、こいつらに《聖女抱擁》の使い手はいまい……。
結局、殺す者は守る者には勝てない。セリカの異能があればこそ……結の異能があればこそ……透を殺すことが出来たのだ……。
「透、まさか……アンタ」
花子は透の死体を揺さぶっている。無駄だ。もう二度と、透が起き上がることはない。それを一番よく知っているのは、俺と同じ《処刑斬首》の使い手である花子だろう。
「……透! 透!」
いぶかしむ声が、どこか遠くから聞こえる。
声が、どんどん遠くなる。
ああ、死ぬのか……。
ぼんやりとした、気怠い感触。
だが、不思議と悔いは無い。
満ち足りたモノを感じる。
最期に二人を守れて、良かっ――――




