第1話 殺人カリキュラム⑤
「さて、俺も行くか」
セリカも結も一年年下だから、俺は学年ではぼっちだ。話すような友達は一人もいない。赤染アンリと”同じ”だ ただ、話すか話さないか、という違いはあるが、本質は同じ。
群としてではなく、個として生きることを選んだ異端の人間。その道はどこまでも自由である代わりに、どこまでも険しい。なんてな。
俺は自分の思考に冷笑しそうになりつつ、それを噛み殺しながら校長のありがたいお話を聞くために教室を出て行った。
♦♦♦
「あ、先輩だ」
体育館へ行くと、セリカに声をかけられる。セリカは友達に「あとでね」とにっこりと微笑んで別れると、こっそり俺に会いに来てくれる。なんて健気なんだ……と感動してしまった。
「さっきぶりだな、セリカ」
「はい。会えて嬉しいです先輩」
セリカは本当に嬉しそうに微笑む。それ以上何かを言おうと唇が動くが、特に話題もないのか押し黙ってしまう。それでも一緒にいられればそれだけでいいのか、言葉はこれ以上いらないというような感じで俺の側に近寄りじっと俺の目を見つめている。
ああ、安らぐなぁ……。時間が止まってしまえばいいのになぁ……。
あ、これはまずいな。周りに人が沢山いるのに、二人の世界みたいな感じになってる。俺はフォローするようにセリカの肩をそっと手で触れ、遠ざける。
「また後で、な?」
「は、はい……」
しょんぼりとして、セリカは行ってしまう。ああ、惜しいことしたな、と思う。一目をはばからずもう少し二人の世界に浸っていたかった。
「げ」
「…………」
いつの間にか俺の視界の中にいた結と、目が合う。悲しげな目をしていたように見えたが、その目は一瞬で蔑むような目に変わっている。……見間違いか? まったく、嫌なところを見られてしまった……。
俺は戯けるように笑いながら結に手を振ると、結は俺から目を逸らしさっさと自分のクラスの人混みに混ざっていく。あーあ、後で小言言われるか卵焼きなしのパターンだなこれは。
俺は大人しく自分のクラスへ戻ると、列に並んだ。