第4話 Fランクの怪物㉒
「……零」
花子が戸惑っているが、こいつの殺意は本物だ。すぐにでも対処する必要がある。
「透、取引だ」
「…………どういうつもりだい?」
透ですら困惑したように、俺を見据えている。
「お前は何故、この殺人カリキュラムを実施しようと思ったのか。俺はずっとそれを考えていた。そして、その答えは俺の手中にある。お前は殺人鬼ではない。お前は、あらゆる全てを超越しようとする人間。ただそれだけなんだ」
「攪乱する気? 勝機がもう無いからって――――」
花子がそう言って俺に剣を向けるが、俺は焦ること無く言葉を続ける。
「選べ、透。俺を今この瞬間花子に殺させれば、俺はこれ以上は喋らない。だが、花子を黙らせれば、この続きを喋ってやる。後悔しない選択を、な?」
俺は透を指さし、宣告する。
ダブルバインドを使えるのは、お前だけじゃねえんだよ。
「……僕に、選べと? 選択肢を与えるのか」
透は僅かに目尻を笑みの形に歪め、興味深げに俺を見据える。
「な、にを言っているの……兄さん」
「先輩……?」
2人は戸惑っているが、無理も無い。
俺は思考をセリカ寄りから、透寄りへとシフトさせた。
俺は自らの確証バイアスを外したり、寄せたりすることが出来る。これは生まれつきのもので、特に訓練をした訳では無いが、俺は自分の思考を限りなくターゲットに近づけることが出来る特殊な素養を持った人間だ。俺は俺自身を理解することだけは出来ない。だが、その代わりにそれ以外は理解出来る。
つまり、俺に、理解出来ない人間はいない。
聖人だろうが、快楽殺人鬼だろうが、教祖だろうがソシオパスだろうが自己愛パーソナリティ障がい者だろうが、サイコパスだろうが子供だろうが、それが人間である限り、俺は理解することが出来る。
「戯れ言を!」
花子は俺に対し能力を発動しようとするが、透がそれを制す。
「花子、一旦攻撃は中止してくれないか。彼に、最後まで話させてくれ。内容次第では即座に殺しても構わないが、今はやめろ」
「……正気?」
花子は眉を顰め、振り返る。
《赤い羊》全員が、息を呑み、透を見つめている。
殺人鬼を従える王が、そんなことを言い出すとは思わなかったのだろう。
「続きを、百鬼零」
透は子供のように目を輝かせ、俺を見つめ先を促す。
「お前が殺人カリキュラムを実施した理由。これは、《赤い羊》ですら答えられない質問だ。お前は《赤い羊》に期待しているのは、飽くまでも殺戮であって、知性ではないからだ」
「…………それで?」
「だがお前が育成できる人間は快楽殺人鬼のみ。それ以上の人材を育てることは出来ない。だから結も思い通りにならなかったんだ。それは、分かるか?」
「………………」
あらゆる主張に流暢に反論する男が、沈黙している。黙考しているのだろう。
「お前は快楽殺人鬼を育てることが出来るし、そうしたいとも思っている。だがそれはお前の本心ではないんだよ」
「………………」
「お前が本当に望んでいるのは、殺戮でも破壊でも、混沌でもない。ただひたすらの自由と、そして、友だ」
「自由は分かっている。僕は自由に焦がれている。だが、友とは?」
「お前は一人でも、全て成し得ることができる男だ。《赤い羊》など必要が無い。だが、それでもお前は求めた。だがそれでは満足できず、殺人カリキュラムを実施した」
「……それは、単純に破壊に狂う者を増やしたかっただけだ」
「いや、違うな。お前が最初に言ったことを覚えているか? 正しさを証明したいなら、僕を殺してください。お前は最初に、そう言ったんだ」
「…………」
「だが、お前を殺せるようなジェノサイダーなんているか? いないよな。どんなに殺戮に狂ったところで、至れる領域はSS。つまりは格下。お前が求めているのは、対等な友だ。格下じゃない」
「…………」
「だから、SSSを求めている。自分と同じ世界を眺めることが出来る人間を、な」
「仮にそうだとして、それがどうした? 君に何が出来る? SSの花子にすら勝てない君が」
「それを、証明してやるよ」
「…………何を言っている?」
「花子を殺せることを証明してやる。SSSになる方法は正直分からない。だが、お前と長く話し、理解していけば、俺はお前に近づくことは可能だ。手始めに、花子を殺すことで俺は俺の価値をお前の前で証明してやるよ」
「……ふむ、言っていることは理解した。だが、現実的では無いね。勝算はあるのか?」
「五分寄越せ。それだけでいい」
「五分……か。まぁ、別に構わないが」
「……透、アンタ本気で言ってるの?」
「花子、百鬼零は本当に面白い男だね。流石は君が見込んだだけはある。認めるよ」
「五分なんて待てない! こいつらは強い。しかも、零が”良心”を捨てたのなら、私の勝率はどんなに高く見積もっても50%が上限。いくら透でも――――」
「少なくとも、今死ぬより50%あると考えたら良いだろう。もし5分待てないなら、君は僕が殺すよ。好きな方を選ぶといい」
「…………っ」
透が目を見開き花子に殺気を飛ばすと、花子は震えながら、ジェネシスを解除する。
「5分、確かに貰ったぞ」
俺は念押しで言うと、花子が悔しそうに唇を嚙んだ。
俺は花子に背を向け、セリカ達の方へ歩き出し、側へ寄ると足を止める。
「せん、ぱい…………?」
「悪いな、セリカ。お前がいる限り、俺は一生弱者だ。だから――――」
ここで殺す、ぞ?




