第4話 Fランクの怪物㉑
「セリカ、《守護聖女》を撃て!」
俺はセリカに命令を下しつつ、花子の殺気がセリカ達に向けられているのを見逃してはいなかった。と同時、全身に鳥肌が立つ。勝利を確信していながら、俺は間違いなく花子を恐れている。勝機は、この瞬間にしかない! ここでトドメを刺せなければ終わりだ!
「強い、わね。アンタ達は……。正直、ナメてた。”二つ目の異能”を使っても勝てないなんて、ね。流石は……零と、零が認めた女達」
花子は苦笑しながら、そんなことを言う。
「零、私はアンタを生け捕りにしたかった……。けど、そんな考えはどこまでも甘かった。オメガの言ったとおり、人間の本質は”弱さ”。私の”弱さ”は、零への執着。ならば、それを捨てようと思う。そう、どうせ《骸骨》の《冒涜生誕》の異能があれば、死体が残ってればいくらでもなんとでも、なるもの……ね! キルキルキルル」
《処刑斬首》――ショケイザンシュ――
花子は全身にジェネシスを集め、無理矢理《監禁傀儡》の拘束を解くが、俺は即座に「《監禁傀儡》」と叫び続け、異能を発動し続ける。だが、花子は右腕だけその拘束から逃れてしまう。剣が握られ、その剣が瞬時に巨大化。禍々しい紫の剣が生まれる。全長約6メートル……いや、まだ伸びる。7、8、9、刃の長身が伸び、止まる。
「なん、だ、その……異能は」
結が大きく目を見開き、呆然としている。結も知らない異能。
とど……く。
俺は一瞬でその未来を直感した。
そこまで刃が伸びるのであれば、その距離でもセリカ達に花子の攻撃は届く!
「避けろォォ! 結、セリカァァ!」
「がら空きよ、零」
花子がニヤリと微笑うと、刃は俺に向かって勢いよく振り下ろされる。
「セリカ達に対する殺気はフェイク。本命は零。だから甘いのよ、アンタ達は!」
俺は咄嗟に回避しようと――――
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
突如、紫の鎖が現れ俺の首を絞め、拘束する。
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
四つの鎖が、両腕両足それぞれを拘束し、俺はまるで磔にされるような形になる。
「ばか、な……この異能は、俺の……」
「《監禁傀儡》は私も使える異能よ。私はSS到達時には4つの異能を使いこなす。これが本当の本気。これぐらいの芸当が出来なければ、《赤い羊》は名乗れないから、ね!」
「せ、先輩!」
セリカは目を見開き、俺を凝視している。
「俺に構う……な、撃て、《守護聖女》を……っ」
「セリカ、《守護聖女》を撃てばいい! オメガと連携すれば私はそれで殺せる! でも、零は死ぬことになるけどね! 選びなさい、零の死か、私の死か! お前が、選ぶのよ!」
花子は嘲笑しながら剣を振り下ろす。こいつ、本気だ……っ!
「うわああああああああああああああああああああああああああッッッ!」
セリカは泣き叫びながら、両手の向きを花子から俺へと変える。
《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――
セリカが撃ったのは、相手を無力化する《守護聖女》ではなく、相手を回復させる《聖女抱擁》だった。
「アハハハハハハハハハハ!」
花子は哄笑しながら、剣を振り下ろす。
「クソッタレがあああああああああああああああああああああッッッ!」
俺は袈裟斬りに切断され、二つに分かれた身体が背後へ吹っ飛ぶ。と同時、剣がまるで毒のように身体に浸食し、パープルジェネシスが全身を覆う。俺からスカーレットジェネシスが消失する。俺は殺されながらも最後の勝機を掴むため、花子に対し《監禁傀儡》を発動!
が……何も、起こらない。
「っ、にが、起きて……っ」
俺は自分に起きた状態を分析する。ジェネシスが完全に使えなくなってる。何故だ?
《処刑斬首》の能力効果。それは、もしかしたら――――
「先輩いいいいいいいいいいいいいッッッ!」
「兄さん……っ」
二人の叫び声が遠くの方で聞こえるが、俺は両足で地面に立っていた。俺の全身を包み込んでいるのは、純白の光。《聖女抱擁》が俺に直撃したのだ。本来なら確実に死んでいた傷が、一瞬で癒えている。
「…………」
俺は最悪を覚悟しながら、それでもジェネシスが自分の身体から溢れるかを試す。
「なんとか、まだ、首の皮一枚繋がった、のか……?」
溢れ出すのは、スカーレットジェネシス。
ジェネシスは、使える。
だが、さっきのあれは何だ?
間違いなく、俺は《処刑斬首》を受けた直後、ジェネシスを一切使うことが出来なかった。
花子は翼を大きく広げ、俺たちをゴミのように見下している。鎖は全て消滅している。もうこいつを捉えることは、ほぼ不可能と見ていい。
もうこいつは躊躇わない。俺を生け捕りにすることを諦め、全力で殺しに来る。
さっきまで、あいつは自分の異能の持つ効力を得意げに語っていた。だが、《処刑斬首》の能力効果を口にすることは無い。…………不気味だ。
《鮮血時雨》、《即死愛撫》、《監禁傀儡》、《処刑斬首》。
4つの異能を併用する、SSランクのジェノサイダー。
そして、最大の脅威は《処刑斬首》。
次、一度でも喰らえば即死。
「初めから……勝てない戦い、だったってのか……?」
何をしても、どれほど抗おうと、常にその上を行かれる。
全身から、力が抜けていく。もう、どうにもしようがない。
セリカの《守護聖女》は避けられる。たとえ当てることができる勝機ですら、《聖女抱擁》を使うよう強制される。
結のSランク覚醒も、花子の全力には叶わない。そして、それは俺も同じ。
人間の本質は”弱さ”。私の”弱さ”は、零への執着。ならば、それを捨てようと思う。
セリカ、《守護聖女》を撃てばいい! オメガと連携すれば私はそれで殺せる! でも、零は死ぬことになるけどね! 選びなさい、零の死か、私の死か! お前が、選ぶのよ!
花子の言葉が脳裏に甦る。
そうだ、あの時セリカ撃っていたのが、《聖女抱擁》ではなく《守護聖女》であれば、花子を殺すことは出来た。俺は死んだが、それでも花子は殺せた。
君は花子に殺される。これは揺るがしようのない、事実だ。君の敗因は僕の言葉を否定するほどに愚かで、そして弱さを捨てきれない二点に尽きる。
透の言葉が、脳裏に甦る。
結がSSに至ることが出来ていれば、この展開はない。そういう意味では、透は正しい。
最後の最後、もし間に合わなくなりそうだと私が判断したら、私は私の首を切断する。合計すれば4つになるから、セリカの生存条件は満たせる。
馬鹿なのは兄さんだよ。境界線だの、人の道がどうだの、そんな甘っちょろい考えなら一生かかっても《赤い羊》を出し抜く事なんてできない。あいつらの狂気に打ち勝つ為なら、それ以上の狂気が必要。兄さんには狂気が足りない。覚悟も足りない。透を殺すとさっき宣言したというのに、格下のリリーに右往左往している。その現実から、目を逸らさないでよ。
最後に甦るのは、結の言葉。
……その通りだ。俺は、透を殺したいと、殺すと思っていながら、格下の花子に殺されかけた。俺は、弱い。誰よりも、弱い……っ!
ならば、強さとは何だ?
セリカの強さ。それは、善であることだ。だからこそ俺はセリカの為であれば、死ねる。本心からそう思える。
《赤い羊》の強さ。それは、悪であることだ。だからこそ花子はセリカに殺される状況でありながら、俺を殺す決意を固め、俺たちのか細い勝機を完膚なきまでに叩き潰した。
花子を殺す為には、どうすればいいか?
そんなことは、最初から分かっていた。分かっていてなお、そこから目を逸らしていたのは、俺だ。なんて! 愚かだったのだろう! 俺は、俺は!
「ふふ、はは、ハハハハハハハハハハッ!」
思わず零れ出す、哄笑。
花子を殺すことは簡単だ。
「そうだな……認めるよ、花子。お前は強い。だから、俺も捨てようと思うんだ……。そうすれば、いいんだよな? フフ、カハッ、ヒャハハハハハハハハハハ!」
笑わずにはいられない。この場にいる者全てが、目を見開き俺を凝視している。
……狂ったとでも思われたのだろうか? だとしたら、心外だ。
俺は、今、正気だ、ぞ?




