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±0  作者: 日向陽夏
第1章 殺人カリキュラム【前】 処刑斬首編
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第4話 Fランクの怪物⑳【百鬼結視点】

「思い出すのは、忌々しい記憶ばかりだ、な」

 思わず独りごち、苦笑する。

 私は《堕落遊戯》を使い、殺意という感情を自己暗示で完全に封じ込めることで、”透と出会わなかった場合の百鬼結”をねつ造してきた。兄さんが破壊衝動を封じ、ピエロを演じてきたように。だが、私の自己暗示は先程のアファメーションで完全に解けた。そう、きっかけさえあれば、《堕落遊戯》は突破することが出来る。精神作用を及ぼすジェネシスは《監禁傀儡》や《家畜奴隷》、《無限臨死》と数多くあるが、ランクが低ければ低いほど、その作用は解けやすい。

「……《殺人模写》はコピー能力。しかも強度がSか。フンッ、透は本当に良い性格してるわ。ランクを自在に自己暗示で変容させられるような化け物を育て、その上で私にぶつけるなんて、ね……」

 花子はスゥと目を細め、右手にジェネシスを集め、《即死愛撫》を胸に当てている。次は接近戦で来ると直感する。

 私も《殺人模写》を用いて《即死愛撫》をトレースし、自らの胸に当てる。回避に専念しつつ、確実に《守護聖女》を当て、その直後に首を撥ねてやる!

「結」

 セリカが声をかけてくる。いつもの弱々しい感じではなく、毅然としたものだ。

「何?」

「あなたは、私を悪にする。私は誰よりも正しく生きてきた自信がある。悪いことなんて何一つしてないし、これからすることもない。そう、思ってた」

「……過去形なんだ」

「私は、あなたに嫉妬してる。先輩の心の中には、いつもあなたがいる。私はそれを自覚しないように生きてきた。それを自覚すれば、私はきっと黒く黒く濁っていくから……」

「…………」

 思わず、言葉を失う。それは私がセリカに対して思っている本心でもあるからだ。

「だから結が動き出す前に告白して、付き合うことを公然のものにしたんだって、今なら素直に、それを認められる。結に対して、私は牽制した。それは、ズルいことだったよね。もし、私が結の立場で、結が私の立場だったなら、きっと私達は真逆だったんじゃないかな、とすら思う」

「…………つまり、何が言いたいわけ?」

「私はあなたのこと、大嫌いだけど、でも、心の底から、嫌いになれない。自分の闇と、向き合わされるのに、結さえいなければって、今でも呪ってる。のに、私と”同じ”なんだな、とすら、思う。不思議……だよね」

「…………」

「ごめん、結。私は、馬鹿で、傲慢で、浅はかで、弱くて、ズルかった。いっぱい結を苦しめたのに、私は結を苦しめたことから、逃げてた。そのことに、気付かないフリすら、してた」

 セリカは、苦々しい笑みを浮かべ、それでいてどこか泣きそうな顔で、謝ってきた。

「……っ」

 不意打ちだった。

 心が軋むような、握りつぶされるような、それでいて、何故か満たされるような、そんな不思議な思いが湧いて、涙が一筋、頬を伝っていく。

「……いまさら謝ったって、許さないから」

「いいよ、許さなくて。謝りながらも、私は結のこと、大っ嫌いだから」

 不敵に、セリカが微笑する。

 初めて……対等になれた気がする。けど、口から突いて出るのは悪態の言葉。

「は? 私の方がアンタのこと嫌いだからね?」

 私は悪態をつきながらも、不思議と穏やかに微笑っていた。

「結、上!」

 セリカの声と同時、私は飛行方向を下降させる。同時。


 ――――ヒュン。

 

と、高速の剣が頭上をかすめる。

 花子が血走った目で狂ったように私を標的に剣を振るうのが、後から見えた。

「セリカ!」

 私は好機とばかりに、叫ぶ!


 《守護聖女》――シュゴセイジョ――


 あふれ出すは、純白のジェネシス。

 おんぶする背中のセリカの右手から、ジェネシスが放たれる。

 その一撃は、容赦なく花子を直撃――――しない。寸前で躱される。しかも花子、横に跳躍しながら剣から右手を放し、左手で掴み直しつつ振り返りながらもう一撃放ってくる。

「俺を忘れてもらっては困るな」


 《監禁傀儡》――――カンキンカイライ――――


 兄さんの声と同時、花子の左手が赤き鎖に拘束され、一瞬動きが止まる!

 上位ランクのジェネシスに下位ランクのジェネシスが接触すると、下位ランクのジェネシスははじき飛ばされるか、破壊されて消滅する。だが、肌に直接触れる形であれば、その限りでは無い。兄さんは教えられもせず、訓練もせず、ただただセンスでそれをやっている。だとすれば、本当に恐ろしいジェノサイダーだ。花子に負けず劣らず、人を殺すことに特化している。

 だが、兄さんが作り出した最大の好機! これをものにせず、なんとする!

「「セリカァァ!」」

 私と兄さんの声が重なる。

「当たれぇぇぇえええ!」

 セリカの叫び声。


 《守護聖女》――シュゴセイジョ――


 再び、セリカから放たれる一撃。その小さな掌は真っ直ぐに花子を捉えていて、セリカの殺意が伺える。これは、当たる。避けられない。花子も目を見開き、《守護聖女》を呆然と見ていることしか出来ない。これは、当たる!

 ――――そう確信した瞬間。

 ぐにゃり、と花子が壮絶な笑みを浮かべた。

 花子は翼を大きく巨大化させ、勢いよくはためかせる。

 この期に及んでまだ抗うか!?

 突風でいくつかの生首が宙に舞い、花子は余っている右手で舞った生首を即座に掴むと、《守護聖女》へぶん投げる!

 シュン、と《守護聖女》は生首に当たると同時に消滅。花子は自分に当たる前に、生首を身代わりにしたのだ!

 状況を理解すると同時。

 花子の左腕を縛っていた鎖が粉々に砕け散る。《監禁傀儡》の発現時間を過ぎたのだ。私は飛んでくる生首を回避すべく、慌てて花子から遠ざかるべく、左方向へ飛行する、が!


 《鮮血時雨》――センケツシグレ――


 容赦なく花子の剣は左方向に回避した後の私達に照準を合わせている。

 回避兼攻撃。この女、全ての回避行動が次の攻撃に繋がっている。絶対に無駄な動きをしない。なんだ、この、人を殺すためだけに生まれてきたような女は!?

「この攻撃なら、さっきの《殺人模写》は不可能。この超高速の攻防で私の弾丸を見切ることはできない。これで終わりよ、オメガ」

 花子は兄さんの《監禁傀儡》の標準を警戒しているのか、的を外すように高速で飛行しながら誇らしげに笑みを浮かべる。

「く……っ!」

 流石は、透が認めただけはある。怒り狂ってるくせに、頭の芯は冷静。狙った標的を合理的且つ確実に殺す行動は素直に賞賛に値する。

「さっき勝ったと思ったでしょ? その瞬間、アンタの死が確定したのよ」

 「であれば、お前も例外ではないぞ? 花子」

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 無限に空中に出現する、鎖、鎖、鎖。まるで蜘蛛の巣のように花子の飛行方向に溢れる。無論、兄さんのSランクのジェネシスで具現化した《監禁傀儡》は花子のSSランクのジェネシスに触れた瞬間に、はじけ飛ぶ。

 が、花子も全身をジェネシスで覆っている訳では無い。

 無防備に露出した肌の部分に、一つの鎖が接触すると同時、雁字搦めに花子を《監禁傀儡》の鎖が覆う、覆う、覆う。

「お前の《鮮血時雨》は連射できないのが、最大の欠点だ」

 兄さんの宣告と同時、鎖に逸らされた花子の《鮮血時雨》は明後日の方向へ飛んでいく。

「セリカ、《守護聖女》を撃て!」

 兄さんが命令するまでもなく、セリカは花子へ両手を構えていた。

 だが、私は見逃さなかった。花子が鎖の束の中、それでも目を細め私達を見据えていたことを。この絶望的な状況でも、それでもまだ得体の知れない殺気を放つ花子に背筋が凍り付く。なん、なんだ、この化け物は……。

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