第4話 Fランクの怪物⑰【百鬼結視点】
「失敗作とほざいた割に、随分と高評価だな、透?」
「今の君は、僕が理想としている”完成された君”に近い。唯一惜しむらくは、白雪セリカを背負っているという点だね。”その荷物”をさっさと捨てることが出来れば君はもっと高みへ至れたのに、残念に思うよ」
「人の心は粘土じゃない。お前の宣う”完成した私”とやらには、今となっては虫酸が走るだけだな」
「ふふ、随分強い意志だ。僕の創作物の域を超えたことだけは素直に評価するよ、オメガ。だが、昔に教えただろう? 本当に価値あるモノを得ることが出来る者は、捨てる決断を下せる者だけだ。選択出来ない者に何かを得ることはできない。君は花子に殺される。これは揺るがしようのない、事実だ。君の敗因は僕の言葉を否定するほどに愚かで、そして弱さを捨てきれない二点に尽きる。だからここで、死ぬといい。君を育てた、せめてもの情けだ。最期まで見届けてあげよう。実を言うと、僕はもう君には何も期待していない。骸骨には悪いが、君に関しては死体すら残さないほどに、消し炭にするよ。失敗作は見ていて、気持ちのいいものじゃ無いからね」
透は、哀れむように言う。
「……お前の方便は聞き飽きたよ。お前は真実しか語らないが、逆に言うと真実しか語れない。それを賢人と呼べるかどうかでいえば、私は鼻で笑わせてもらう。愚かさこそ、弱さこそが、人間の本質だ。私はそれを、兄さんと、そしてセリカに、教えてもらった。お前に教わったことなんて、何の役にも立ちはしない! 弱くて、愚かで結構! でも、”それ”が無い人間なんて、サイコパス以下のガラクタだ!」
かつて恋情に近いものを抱いていた男だというのに、今はもう何も感じない。透、お前と私は、今、この瞬間、本当の意味で決別したのかもしれない……。
少しだけ感傷的になる自分を感じる。
「…………フン、殺し合ってる中余裕ぶっこいてお喋りとは恐れ入るわね!」
花子は嘲笑いながら、異能を発動した。ちっ、少し冷静さを取り戻したか。
《鮮血時雨》――センケツシグレ――
花子から迸るのは、死の如き弾丸の雨。紫の雨。
ジェネシスのランク制は絶対。SでSSを倒す方法などない。だが、私がSSになる方法は一つしか無いが、今はそれが出来ない。
勝つ為には幻のFランク、セリカの力が必須となる。だが、私と兄さんの戦闘能力があれば、勝機は必ずある!
《殺人模写》――サツジンモシャ――
私は左手でセリカを抱きかかえながら、右手の剣を正面へ構え、ほくそ笑む。
自分が使っている異能で破滅させられる哀れな女の顔を拝めると思うと、笑わずにはいられないだろう?
私の剣がバラバラに分散し、ショットガンの如く花子へと放出される。
「なっ、馬鹿な、その能力は私の――――」
花子のマヌケ面が滑稽だが、ランクが下である以上楽観はできない。私は意識を研ぎ澄ませ、全ての弾丸が花子の弾丸を45度の覚悟になる位置で直撃させる。正面から相殺しても圧倒されて終わりだ。だが、敢えて逸らすことで弾道そのものを歪めることが出来る。
狙い通り、全ての弾丸は私とセリカを避けるように背後へと消えていった。ランクが変動すると能力も変動する。私が使っていた《堕落遊戯》と《智者一失》の2つの異能はEランク時点での異能なので今は使えないが、Sになった私は《殺人模写》を初めとする異能を4つ使いこなす。《智者一失》は弓道部での経験から、すぐに使いこなせるようになったが、《鮮血時雨》も例外では無かったな。
異能化されたジェネシスは工夫次第では殺せないまでも、上位ランクともそれなりに戦える。
「ふっ、私が弓道部で良かった。お前を殺すのに、役立つな?」
「クソ、アマァァアアアアアアアア!!」
花子が怨嗟に狂っているのを見ながら、私は自らにあふれ出すジェネシスを感じていた。いつもと違い、熱い。透と決別してから、もう二度と、ジェネシスを使うことは無いと思っていた。透と行動を共にし、私は全てを失う代わりに、全てを手に入れた。
「懐かしい、な……」
思わず呟いていた。




