第4話 Fランクの怪物⑭
「セリカ、《聖女抱擁》で自らを回復しろ」
命令を下しつつ、思考を加速させる。
土台ある現状の手札での花子打破は不可能。
つまり今の時点では、何を以てしても花子を殺すことはできないという解答。
俺には自らのバイアスを外す技術がある。透のほざいていた、確証バイアスの存在はあいつに語られる前から俺も知っている。人間は自分の信じたいものしか信じない。オカルトが良い例だ。信じたい、信じたくないがハッキリ別れるからな。存在しているかいないかは、実は些細な問題なのだ。
「で、どうするの、零?」
花子は挑発するように小首を傾げてくる。
「どうする……か」
花子は俺の思考を読んでいるのだろう。
勝率ゼロだという解答を俺が出した上で、どういう行動を選択するか。
「ふぅ……」
これをやるのは久しぶりだな。
赤染アンリがやっていたのと少し似ているかもしれない。
目を閉じ、深く深く意識を潜らせる。トランス状態に意図的に自分を陥らせる。
話は変わるが、俺の学力はとても低い。
何故なら、勉強しないからだ。興味が無いし、意味を感じられないから。
だが、俺は進学校ともいわれるこの高校に入学できた。
結と、セリカが、この高校に入りたいと言ったからだ。
別に俺はアカデミックスマートではないから、勉強は得意では無い。
だが、二人が行きたいといっている場所なら、俺もそこにいるべきだと、自然に思った。
「花子を殺す。花子を殺す。花子を殺す。花子を殺す。花子を殺す。花子を殺す」
6回、強い意志で宣告する。
相手がSSランクであることは忘れる。
相手が自分より強いということを忘れる。
全ては些細な問題。
結果を設定する。
そして、それを達成する行動を取り続ける。
重要なのは、その結果が達成可能な目標であるということ。
そして、ソレが出来ると自分が信じていること。
スペックの問題はあるだろう。ただそれ以上に最も重要なのは、自分をどれだけ信じられるかということ。
正直なところ、俺は俺を信じていない。
破壊衝動を持ち、犯罪者になる素質が高い自分のことなど、信じられるはずも無い。
だが、セリカは、そして結は、俺を信じてくれる。
俺が俺を信じられなくても、こいつらだけは俺を信じてくれる。
だから、俺は俺を信じられなくても、俺を信じてくれるあいつらだけは信じられるのだ。
「……花子を、殺す」
宣告による深い深い自己暗示。
これを、アファメーションというらしい。
「すぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁ……」
意識を深く深く研ぎ澄ませる。
花子はこの無防備な俺を攻撃してこない。
何故か?
花子は同胞と信じている俺をむざむざ殺せない。
殺したいけど殺せない。
その矛盾すら計算済み。思考力で、俺のスペックが透に劣るとは思わない。
何故なら、アイツはアイツ自身で、俺がSSSになる可能性を肯定したらだ。
一瞬で疑問に対する回答が瞬時に算出される。これはアカデミックスマートには無い知力だろうなぁ、と思う。
俺に行動を予測されている時点で、アドバンテージは俺にある。
「結、セリカの護衛を頼んだ」
「に、兄さん……っ?」
「花子は、俺がやる」
自らのジェネシスがあふれ出すのを感じる。
だがやはり、ランクまでは変わらない、か。
Sランクのまま。スカーレットのままだ。だが、不思議と、負ける気がしない。
「……凄い、わね。ここまでの力の差を見せられても、それでもまだアンタは諦めてない」
花子は純粋に俺の闘志に驚愕している。
「ダブルバインド如きで、人間の思考を支配できると思ってんじゃねえよ、雑魚」
俺は敢えて花子ではなく、背後の透に視線を向け、嘲笑する。
「キルキルキルル」
殺す。花子を殺したあと、確実に透もコロシテヤル。
無限の集中力で極限まで研ぎ澄まされた俺の力を、見せてやるよ……。
花子だけに意識を研ぎ澄ませ、俺は一歩を踏み出した。




